闇より来たりし者

平坂 静音

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消滅 三

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「……どこか問題があったんですか?」
「腰の辺りが癒着していたんです。つまり、シャム双生児だったんです」
 シャム双生児。
 聞きなれない言葉に私は絶句した。
 咄嗟に、以前テレビで見た腰の辺りがくっついたベトナムの双子の男の子の姿が頭に浮かんだ。それはずっと昔の映像で、今はもっと大人になっているはずだろうけれど、あれはたしか戦争で使われた科学兵器が原因だとテレビで言っていた。
「それを見た父親――母親の夫ですが……、この件に関してトヨールたちから何か聞きましたか?」
 トヨールたちが、実は母親の浮気で出来た子だと言っていたことは、あえて省いていた。
 でもアレックスは私の表情から悟ったらしい。
「そうです。母親は他の男と浮気をしていたらしいのです。そして妊娠し、怒った夫であるボモーは毒薬を妻に与えた。おそらくその毒が影響したのでしょう。残酷なことに双子は腰のあたりがくっついたシャム双生児として生まれたのです」
 シャム双生児として生まれた双子は、身体がくっついていても肉体や臓器などが二体ともきちんと備わっていれば、現代の医学では手術で切り離すことが可能だという。けれど、問題なのは、臓器やひとつの身体を共有している場合だそうだ。
 この場合は手術は困難で、仮に成功しても、どちらか一方の肉体に欠損が出るという。ベトナムのシャム双生児は、後に手術によって身体はわかれたけれど、気の毒なことに兄の方は二十六歳で病死したそうだ。弟のほうは結婚して子どももいるという。
「そしてその双子は、下半身は女児の方しか無かったそうです」
 ひとつの下半身に二つの上半身。不謹慎な話だけれど、私はグロテスクなホラー映画の一場面を想像してしまう。
 イザーは、生まれたときは下半身を持たなかったのだ。そしてトヨールとなってから身体を持つことができたのだ。それは幻のものだけれども、彼にとってはそれでも嬉しかったのかもしれない。
「どのみち戦後間もないマレーシアでの事ですから、そういった子どもが普通の家庭に生まれたとしても生き長らえることは難しかったでしょう。夫はすぐに口をふさいで双子たちを窒息死させ、その遺体を使ってトヨールを作ることにしたのです」
 淡々と語るアレックスに、私はなんだか複雑な気持ちになった。
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