白薔薇黒薔薇

平坂 静音

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薔薇の庭 六

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 パリにいるブルーム氏が怪我をしたと聞いたのは、それから五日後のことだった。
 電報を読んだクララは悲鳴をあげて泣き出した。
「ど、どうしましょう! お父様が、お父様が暴漢に襲われ、重症だと」
「しっかりなさい、クララ。ブルーム氏はきっと大丈夫ですよ」
 そのとき居合わせたアポリネール女史があわててクララを支えてやっていなかったら、クララは床に崩れていたかもしれない。
「私がパリへお見舞いに行ってきますわ」
 アポリネール女史は断固とした口調で言いはなった。
「で、でも……」
 クララは涙に濡れた青い目をしばたたかせ、そばにいたマルゴは言葉が出ない。
 今、パリは大変な混乱だという。
 マルゴのような田舎の娘にはわからないが、戦争に負けた皇帝がセダンというところで捕虜になって降伏してから、国民は彼を見限り、新しい政府を作ろうとしているという。正直、マルゴにとっては皇帝が逃げようが王制が復活しようが、それでどうなるのか良くわからず、ただ騒ぎがおさまり平和に過ごせればいいと思っているのだが、政権交代が起こりそうな今の時代、パリはひどくものものしい雰囲気だと聞く。出版社を営むブルーム氏が暴漢に襲われたのもその混乱にまきこまれたせいだろう。
「女一人で今のパリへ行くなんて、危険ですよ」
 いつもはアポリネール女史を心良く思っていないベルトですら、心配のあまり止めようとした。
「大丈夫よ、パリには知人も多いし。聞いた話では、最近はようやく落ち着いてきたというし」
 クララとマルゴ、ベルトは顔を見合わせた。女所帯の悲しさで、咄嗟にこういうときどうすべきか思いつかないのだ。男といえば、屋敷に長年仕えている老僕と御者ぎょしゃ、十四歳の下男だけである。彼らは決断して事を起こす人間ではなく、命令されて動くのを待っている人間である。今は、アポリネール女史に頼るしかなく、クララは彼女の眼鏡の奥の怜悧な青い目を頼もしげに見ている。

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