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花の都 一
しおりを挟む朝早く出て、まる二日、二等席に揺られて、やっとパリの駅に着いたときは、街の空は黒ずんでいた。生まれ育った村からあまり出たことのないマルゴにとっては、大変な冒険であり、疲れ果ててはいても気は昂ぶって静まらない。
(ここが……パリ)
見るもの、聞くものすべてが驚異的で、まるで別世界へ来たようで、ひたすら驚きっぱなしだ。何に驚いたかというと、とにかく人の多さに驚いた。
「まるでおのぼりさんそのものね」
と、ヴァイオレットに笑われても、どうにもしょうがない。事実、おのぼりさんなのだ。粗末なブラウスに紺のスカート。古びた靴はクララのお下がりをもらったものだが、村にいたときは木靴しか履いてなかったことを思うと、これでもましな方だ。髪は、いかにも田舎娘らしく三つ編みにしている。片田舎で生まれ育った十六の娘が、パリを見て驚くなという方が無理だろう。
「す、すいません。でも、あんまりにも人がすごくて、お店もいっぱいあるし、なんだか、外国の人も多くて……別の国に来てしまったみたいで……」
きょろきょろと辺りを見回して口を開けているのはマルゴだけではない。田舎や外国から出稼ぎに来たらしい人々も見え、彼らも呆気に取られたような顔をして駅の混雑を見ている。逆にパリから出て行こうとする人も、この時間でも多い。だが、ほとんどの人は皆それぞれの目的地に向かってさっさと迷うことなく歩いていく。
「私から離れないで。今はまだ政情不安定らしいから、絶対一人で歩いては駄目よ」
マルゴは頷いた。気のせいか、行き交う人々の顔も緊張気味であり、見わたせば、これだけ人が多くいても女性――少なくとも中流階級以上――の姿がほとんど見えないことが、いっそうマルゴの背を固くさせた。
田舎を出るとき、ヴァイオレットの下宿先の主人も、駅の車掌も女二人だけでパリに行くというマルゴたちに、止めた方がいいと忠告したが、それでも二人はパリまで来てしまったのだ。
「何とかして、旦那様のお顔を見たいの。無事なお姿を一目見るまでは帰らないつもりよ」
ヴァイオレットを田舎の屋敷に連れてきたのはブルーム氏だった。もともと彼女はパリの生まれ育ちで、あるきっかけでブルーム氏と出会い、後に彼女が仕事を必要とするようになったとき、氏がクララのピアノ教師兼家庭教師という仕事を紹介したのだ聞いている。
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