白薔薇黒薔薇

平坂 静音

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花の都 三

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 駅からそう遠くない三流のホテルにすぐ二人は宿を取れたが、ホテルの主人は、夜は決して出歩かないようにと念を押した。彼は、この時期に田舎から女二人だけの旅行者が来たことに驚いているようだ。
「私があなた方の父親か夫なら、殴ってでも引き止めたでしょうね。それこそ、明日何が起こるかわからないような状況なんですよ」
 首を振りつつ言う主人に、ヴァイオレットは唇をひきしめたが何も言わず、宿帳に署名した。
「食事はついていません。近くにレストランがありますが、もし行くなら明日の朝すぐに行った方がいいですね。朝早くならまだマシなものを食べれますよ」
 主人の提案にヴァイオレットは頷き、マルゴに囁く。
「明日、朝食を食べたらすぐ旦那様のお屋敷へ行きましょう」
 ホテルに泊まったのは生まれて初めてだが、疲れきっていたマルゴは、その夜はそのまますぐベッドに入って眠りに落ちた。緊張していたせいか食欲もまるでなかったのだ。

 翌朝、顔を洗って、ホテルの女中が持ってきてくれた洗面器のお湯で軽く身体を拭いて身支度をととのえると、ヴァイオレットが近くにあるミルクホールへと連れて行ってくれた。朝の空気は清々しく、マルゴは朝の街を眺めて、今自分はパリに来ているのだと実感して、今更ながらに感動した。
(ここは……本当にパリなんだわ)
 並木の緑葉の放つ光が神々しいほどに美しい。が、よく見ると、緑葉を茂らせている木は数本で、他は切られたのか、切り株がやけに目立つ。
 よっぽど不審そうな顔をしていたのだろう、通りすがりのショールをかぶった主婦が、「昨年末から今年にかけて、たきぎに使うために切られたのよ。あのころは戦争のさなかで、物が無くてねぇ。薪も石炭も庶民の手には入らなかったから」と説明してくれた。
「そうでもしないと、冬を乗り越えられなかったのよ。裕福な人は家具や馬車を燃やして暖を取ったけれど、貧しい人は燃やすものもないので、森や公園の木を切って燃やしたの。ブローニュの森やヴァンセンヌの森も、すっかり丸坊主になってしまったわ。モンソー公園の木も随分切られたっていうし」 
 中年の女性は、疲れたように呟いた。
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