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花の都 五
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「……マルゴ、あなたが算数の問題を解いたときに気になったけれど、あなた学校へは行ったの?」
「村の小学校へは行きました」
読み書きと簡単な計算は出来る。まだまだ女子の教育が軽視されていた頃であり、両親がいても字も書けない子どもは珍しくもなく、ひと昔前には、王侯貴族の令嬢でさえ、修道院女学校を出ても字が書けないという話も珍しくなかったことを思えば、まがりなりにも四則演算をこなし読み書きができるということは、田舎の孤児も同然の娘にとってはかなり、いや大変恵まれている方だ。
ヴァイオレットは数秒、考えこむような顔になった。
「村へ戻ったら、あなたもクララと一緒に何か勉強してみない?」
「え、そんな、わたしなんか」
マルゴはあわてた。村の女中が勉強したところで何になるだろう。しかも、かつてクララが解けなかった問題を解いたとき不機嫌になったヴァイオレットがそういうことを言うのが不思議だった。この数日でそれだけマルゴに心を許している証拠なのかもしれない。
「どんなことでも学んで損はないわよ。ああ、そろそろ行きましょうか」
食事を終えた二人は店を出た。
「ここからコンコルド広場はそう遠くないわ。普段なら、ゆっくり見物させてあげたいのだけれど、この調子ではね」
ヴァイオレットは憂鬱そうに空を眺めて溜息をつきながら辻馬車に乗り込み、御者に行く先を告げる。
「マティニョン通りへやってちょうだい」
マルゴは窓から見える光景にあらためて目を見張った。
目に入る街のあちこちに戦争の名残というのか、砲撃戦で破壊された建物の残骸が目立つ。つい三ヶ月ほどまえ、プロイセン兵とフランス兵とのあいだでくりかえされた悲劇の残像が朝日に浮かびあがってきそうだ。当然、死者も大勢出たのだろう。血も流れたのだろう。マルゴはこの季節にすこし背が寒くなり、ブラウスの襟元に首をうずめた。
「それにしても、いったい、パリは……この国はどうなるのかしらね?」
マルゴにはなんと答えていいかわからない問いかけだった。そんなことを考えてもどうしょうもない。ヴァイオレットも本当はマルゴに答えを期待していないだろう。
(とにかく、争いごとが終わって、平和になって……税金が少なくて、静かに暮らせたらそれでいいんだわ)
政治的なことなど十六のマルゴには解らないし、玉座に皇帝が座ろうが王様が座ろうが、大統領や首相が国の舵取りをすることになろうが、正直どうでもいいと思っている。とにかく主人のブルーム氏が安全でいてくれたら、と汽車に乗っていたときもひたすらそのことだけを祈っていた。
「村の小学校へは行きました」
読み書きと簡単な計算は出来る。まだまだ女子の教育が軽視されていた頃であり、両親がいても字も書けない子どもは珍しくもなく、ひと昔前には、王侯貴族の令嬢でさえ、修道院女学校を出ても字が書けないという話も珍しくなかったことを思えば、まがりなりにも四則演算をこなし読み書きができるということは、田舎の孤児も同然の娘にとってはかなり、いや大変恵まれている方だ。
ヴァイオレットは数秒、考えこむような顔になった。
「村へ戻ったら、あなたもクララと一緒に何か勉強してみない?」
「え、そんな、わたしなんか」
マルゴはあわてた。村の女中が勉強したところで何になるだろう。しかも、かつてクララが解けなかった問題を解いたとき不機嫌になったヴァイオレットがそういうことを言うのが不思議だった。この数日でそれだけマルゴに心を許している証拠なのかもしれない。
「どんなことでも学んで損はないわよ。ああ、そろそろ行きましょうか」
食事を終えた二人は店を出た。
「ここからコンコルド広場はそう遠くないわ。普段なら、ゆっくり見物させてあげたいのだけれど、この調子ではね」
ヴァイオレットは憂鬱そうに空を眺めて溜息をつきながら辻馬車に乗り込み、御者に行く先を告げる。
「マティニョン通りへやってちょうだい」
マルゴは窓から見える光景にあらためて目を見張った。
目に入る街のあちこちに戦争の名残というのか、砲撃戦で破壊された建物の残骸が目立つ。つい三ヶ月ほどまえ、プロイセン兵とフランス兵とのあいだでくりかえされた悲劇の残像が朝日に浮かびあがってきそうだ。当然、死者も大勢出たのだろう。血も流れたのだろう。マルゴはこの季節にすこし背が寒くなり、ブラウスの襟元に首をうずめた。
「それにしても、いったい、パリは……この国はどうなるのかしらね?」
マルゴにはなんと答えていいかわからない問いかけだった。そんなことを考えてもどうしょうもない。ヴァイオレットも本当はマルゴに答えを期待していないだろう。
(とにかく、争いごとが終わって、平和になって……税金が少なくて、静かに暮らせたらそれでいいんだわ)
政治的なことなど十六のマルゴには解らないし、玉座に皇帝が座ろうが王様が座ろうが、大統領や首相が国の舵取りをすることになろうが、正直どうでもいいと思っている。とにかく主人のブルーム氏が安全でいてくれたら、と汽車に乗っていたときもひたすらそのことだけを祈っていた。
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