白薔薇黒薔薇

平坂 静音

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婚約者 一

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 二人が廊下を進み、玄関に向かっていくと、客らしき男の話し声が廊下まで聞こえてきた。
「どうしてもブルーム氏のことが心配になって……」
 執事の答える声がつづく。
「せっかくですが、旦那様は今お休みで」
 好奇心にかられたマルゴが少し身を乗り出すと、偶然、こちらを見た客と目が合った。
「あ、君は……?」
 マルゴが何か言うより早くヴァイオレットが進み出た。
「わたくしは、クララ嬢の家庭教師ですが、あなた様は?」
 相手は、青い目をまたたかせる。
「フランソワです。クララの婚約者のフランソワ・シャピーです」
 言われてみてマルゴは秋の日の雀斑の少年を思い出す。挨拶しようかと思ったが、目の前のヴァイオレットがそっと手を振り、下がっているように指示するのに従った。
「まぁ、シャピー家の坊ちゃま? 立派になられて」
「ブルーム氏が怪我をされたと聞いて気になって飛んできたのです」
 二人がそんなことを話しているときに、玄関から別の声が聞こえてきた。
「こちらにエティンヌさんはいらっしゃいますか?」
 古びた軍服を着た初老の男が挨拶もせずにいきなり声をかけてきた。帽子の下の顔はひどく焦っているようだ。
「私がエティンヌですが」
「お宅の息子さんが街で騒ぎに巻き込まれて、撃たれたそうです。ピティエ病院に運ばれたのだが思わしくないようで」
「ええ! ジャ、ジャンが?」
 エティンヌは真っ青になり、すかさずヴァイオレットが口を出す。
「まぁ、それは大変。エティンヌさん、すぐ行ってあげなさい」
「し、しかしお屋敷のことは」
「それは私にまかせて」
 エティンヌは一瞬茶色い瞳に困惑を浮かべたが、やはり息子のことが気になるらしい。

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