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婚約者 五
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「旦那様に婚約破棄の話なぞすれば、ますますお加減が悪くなって、それこそ命に関わるわ。あなた、旦那様が死んでもいいというの?」
その言葉にマルゴは血の気が引きそうになった。
「まさか! 嫌です! そんなの、絶対嫌!」
「そうでしょう? これは旦那様のためでもあり、クララの将来のためなのよ。もし、」
そこでいったんヴァイオレットは言葉を切った。薄青の瞳が暗くなる。
「旦那様が今亡くなれば、間違いなくブルーム家は終わるわ。後にのこされたクララ一人では到底家を守り切ることなどできないでしょうよ。あなただから言うけれど……、今、このお屋敷の財政状態だって決して良くはないのよ」
マルゴは唇を噛みしめた。それは、なにも決してブルーム家だけのことではないだろう。
今、パリは、いや、この国は時代の転換期にさしかかっているのだ。富める者のなかでも脱落していく者も多い。明日どうなるか誰にもわからず、固唾を飲んで時代の波の行く先を見届けようと皆必死だ。
「正直、私が思っていたよりずっと深刻なのよ。父親が亡くなったあと、クララ一人では到底これから先の世の荒波を生きていけないわ。なんとしてもフランソワの心をクララに取り戻さないとならないの。ブルーム家の未来はあなたにかかっているのよ」
もはやマルゴは言い返すことが出来ない。
「で、でも、どうしていいのか、さっぱりわたしにはわからないです……」
そこでヴィアオレットは初めて目を細めた。
「このドレスに着替えるのよ」
ヴァイオレットは壁際の箪笥から取り出した高価そうなアフタヌーンドレスを誇らしげに見せる。淡い水色のドレスは良家の令嬢がまとうようなもので、クララがパリに来たときのためにとブルーム氏が用意したのだという。
「そもそもこの部屋は、いつかクララがパリに住むことになったときのために設えた、彼女のための部屋なのよ。とはいっても、じきにお嫁に行く予定だったから、そう長くは住むことにはならなかったでしょうけれどね。さ、着替えてみて」
その言葉にマルゴは血の気が引きそうになった。
「まさか! 嫌です! そんなの、絶対嫌!」
「そうでしょう? これは旦那様のためでもあり、クララの将来のためなのよ。もし、」
そこでいったんヴァイオレットは言葉を切った。薄青の瞳が暗くなる。
「旦那様が今亡くなれば、間違いなくブルーム家は終わるわ。後にのこされたクララ一人では到底家を守り切ることなどできないでしょうよ。あなただから言うけれど……、今、このお屋敷の財政状態だって決して良くはないのよ」
マルゴは唇を噛みしめた。それは、なにも決してブルーム家だけのことではないだろう。
今、パリは、いや、この国は時代の転換期にさしかかっているのだ。富める者のなかでも脱落していく者も多い。明日どうなるか誰にもわからず、固唾を飲んで時代の波の行く先を見届けようと皆必死だ。
「正直、私が思っていたよりずっと深刻なのよ。父親が亡くなったあと、クララ一人では到底これから先の世の荒波を生きていけないわ。なんとしてもフランソワの心をクララに取り戻さないとならないの。ブルーム家の未来はあなたにかかっているのよ」
もはやマルゴは言い返すことが出来ない。
「で、でも、どうしていいのか、さっぱりわたしにはわからないです……」
そこでヴィアオレットは初めて目を細めた。
「このドレスに着替えるのよ」
ヴァイオレットは壁際の箪笥から取り出した高価そうなアフタヌーンドレスを誇らしげに見せる。淡い水色のドレスは良家の令嬢がまとうようなもので、クララがパリに来たときのためにとブルーム氏が用意したのだという。
「そもそもこの部屋は、いつかクララがパリに住むことになったときのために設えた、彼女のための部屋なのよ。とはいっても、じきにお嫁に行く予定だったから、そう長くは住むことにはならなかったでしょうけれどね。さ、着替えてみて」
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