白薔薇黒薔薇

平坂 静音

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変わる世界 一

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 翌朝、まだ朝霞がたちこめているなか、フランソワはとぼとぼとブルーム邸を出た。その足取りはおぼつかなげで、最後にマルゴに向けた青葉色の目には困惑しかなかった。
 逆に、そのあと食堂でカフェオレを口にしたマルゴは、大仕事をやり終えたあとの満足感に浸っていた。そして、季節を一歩すすんだ少女の達成感。
(わたしは、大人になったんだわ……)
 そう思う心の片隅で、もう戻れない、というなにやら恐ろしいことをしてしまったという悔恨もかすかにあるが、あえてマルゴはその惰弱な想いを無視した。
「その顔だと、うまくやったのね?」
 ヴァイオレットの問いに頷いてみせる。
 朝食のパンを口にはこびながら、ヴァイオレットは満足そうな笑みを見せる。最近は、食糧もなるべく節約しているので、薄切のパン二切れとカフェオレだけだが、それでもじゅうぶん贅沢なものだった。
 実際、昨夜の料理を用意するにはかなり無理をしたのだ。市場ではなかなか手に入らない食材だったが、それでも市価の何倍もの金を出せば、闇で手に入れることができる。庶民には手が届かない贅沢品も、あるところにはあるもので、金持ち相手の高級レストランでは肉料理を出したりもしていが、庶民の食糧難はまだまだ解決していない。
「それでも、とにかく戦争は終わって、パリ・コミューンも解散したんだし。もうしばらくすれば世のなかは治まるわ」
 ヴァイオレットの薄青の瞳にはほのかな希望が光っていた。
「フランソワがクララと結婚すれば、どうにかここを乗り切って、ブルーム家は存続するわ」
 その言葉に、ちくり、とマルゴは胸を小針で突かれた気になった。
「……皇帝はどうなるのかしら……?」
 話を変えたくて、柄にもなく政治的なことを口にしてみた。事実、多少は気がかりだ。
「もうパリに戻ってこないでしょうよ。皇后も皇太子も逃げたというし」
 気丈な皇后は、夫であるナポレオン三世が捕虜になったとき、「なぜ自殺しなかったのよ!」と叫んだという。ゴシップ紙の伝えるところが本当ならナポレオン三世の女遊びはかなりひどかったというから、夫婦としての愛はとうになくなっていたのだろう。いや、やはりウージェーヌ皇后はやはり皇后だけあって、普通の女性とはちがうのだろうか。それを言うと、ヴァイオレットは首を振る。
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