白薔薇黒薔薇

平坂 静音

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火花 三

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(思えば、あのときからわたしはマルゴの代わりをして、フランソワに愛されていたのだわ)
「そんな、写真ぐらいで……」
 と言いつつも、ヴァイオレットの口調は弱くなる。その分、目には敵意を込めてマルゴを睨みつづける。
「それだけじゃないわ。あの夜、酔っぱらって意識が朦朧としていたけれど、フランソワはわたしの名前を呼んだのよ。……マルゴ、と呼んだんだから。フランソワが好きなのはわたしなのよ」
 それも事実だ。初夜の夜、寝言でフランソワはマルゴという名を呟いたのだ。その名を呼ばれたとき、マルゴのなかで、女という生き物が開花したのだ。
 フランソワは、もしかしてあの秋の日にクララの後ろにいたマルゴのことをずっと覚えていてくれたのかもしれない。そして、その少女への想いが心のなかで引っかかっているため、クララを愛せないのかもしれない。写真で好ましく思ったクララと、マルゴが同一人物だと知れば、さらに彼の想いは強くなるはずだ。
「もし、あの夜の相手がクララじゃなくて、わたしだと知ったら、きっとフランソワは……わたしを選んでくれるわ」
 ヴァイオレットの顔色が変わった。
「あなた、クララを裏切るの? フランソワはクララの婚約者なのよ」
 マルゴは退かなかった。
「……わたしは十六年、ずっと女中として生きてきたのよ。ひとつぐらい幸せをつかんだって、罰は当たらないはずよ」
 ヴァイオレットは薄明かりにも頬を赤く燃やした。
「そうよ、あんたは女中よ。この先、どこかの屋敷に奉公して生きていくことができるけれど、クララのような娘は別の生き方ができないのよ。あの子には良家の男性と結婚して妻になるという生き方以外、ほかに道はないのよ。それなのに、あんたはクララから婚約者を奪おうというの? あの子のたったひとつの生きる手段を奪おうっていうの? あんたのことを、クララは姉妹のように思っているというのに。いいえ、クララは事実あんたの異母姉妹なのよ」
 ヴァイオレットの言い分に、かえってマルゴは怒りをあおられた。
「その姉妹がずっとお嬢様として大事にされていたとき、わたしは女中として掃除や洗濯に追われていたのよ」
「しょうがないじゃない、あんたの母親は田舎の農夫の娘で、クララは私の娘なんだから。知っている? 私の父は落ちぶれたとはいえ元伯爵なのよ。クララには貴族の血が流れているのよ」
 ヴァイオレットが向けてくる言葉の刃に歯向かうため、マルゴも言葉の刃をつかった。
「庶子であることは変わらないじゃない? 祖父が伯爵だから、なんなのよ? あんたもクララもわたしも同じじゃない? 同じててなし子じゃない? きゃっ!」
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