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薔薇二輪 一
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(あなたが愛しているのはマルゴでしょう、わたしでしょう?)
と叫びたいのをこらえて、どうにか伝えた。
「で、でも、あなた、寝言でマルゴって……」
フランソワはまた目を伏せた。
「ああ、彼女の名はマルゴというんだ。下宿屋の近くのカフェで働いていて、知り合って、僕らは恋に落ちたんだ」
マルゴは呆然としてしまっていた。
あの夜、夢のなかでフランソワが抱いていたのは別のマルゴだったのだ。
マルゴは足元が崩れていく気がした。
「そ、そんな、わたしはてっきり、あなたは女中のマルゴのことが好きなのだと……」
「女中のマルゴ?」
フランソワは数秒、考えこむ顔をしてから、あっさり言った。
「ああ、そういうえば、君の女中もマルゴという名だったかな? 忘れていたよ」
マルゴは絶句してフランソワを見上げた。
「すまない。本当にすまない。でも、僕は彼女を愛しているんだ。別れた方が君のためなんだ。本当にご免」
「あ、フランソワ」
その声が聞こえていたのかどうか、フランソワはマルゴに背を向けて走り出す。
「そんな、フランソワ……」
マルゴはその背を見送り、玄関でいつまでも立ち尽くしていた。
コミューン崩壊後の混乱期に、ある屋敷で使用人二人が死亡した記事が二流新聞の紙面のかたすみをかざった。 一人は頭をつよく打って亡くなったようで、もう一人は庭木で首を吊ったとある。
「理由は、結局なんだったんでしょうね。料理人は厨房にこもりっきりで、さっぱり気づかなかったようだし、下女の、あの婆さんはフランス語が駄目で、警察が事情を聞いてもさっぱり要領を得ない。執事のエティンヌは病院で息子につきっきりだったせいで、これもまったく事件のことは知らない」
と叫びたいのをこらえて、どうにか伝えた。
「で、でも、あなた、寝言でマルゴって……」
フランソワはまた目を伏せた。
「ああ、彼女の名はマルゴというんだ。下宿屋の近くのカフェで働いていて、知り合って、僕らは恋に落ちたんだ」
マルゴは呆然としてしまっていた。
あの夜、夢のなかでフランソワが抱いていたのは別のマルゴだったのだ。
マルゴは足元が崩れていく気がした。
「そ、そんな、わたしはてっきり、あなたは女中のマルゴのことが好きなのだと……」
「女中のマルゴ?」
フランソワは数秒、考えこむ顔をしてから、あっさり言った。
「ああ、そういうえば、君の女中もマルゴという名だったかな? 忘れていたよ」
マルゴは絶句してフランソワを見上げた。
「すまない。本当にすまない。でも、僕は彼女を愛しているんだ。別れた方が君のためなんだ。本当にご免」
「あ、フランソワ」
その声が聞こえていたのかどうか、フランソワはマルゴに背を向けて走り出す。
「そんな、フランソワ……」
マルゴはその背を見送り、玄関でいつまでも立ち尽くしていた。
コミューン崩壊後の混乱期に、ある屋敷で使用人二人が死亡した記事が二流新聞の紙面のかたすみをかざった。 一人は頭をつよく打って亡くなったようで、もう一人は庭木で首を吊ったとある。
「理由は、結局なんだったんでしょうね。料理人は厨房にこもりっきりで、さっぱり気づかなかったようだし、下女の、あの婆さんはフランス語が駄目で、警察が事情を聞いてもさっぱり要領を得ない。執事のエティンヌは病院で息子につきっきりだったせいで、これもまったく事件のことは知らない」
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