白薔薇黒薔薇

平坂 静音

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薔薇二輪 四

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(まぁ、社長ご自身も若いころはけっこう放蕩癖があったらしいからな)
 アバロはつい内心苦笑してしまう。若いころは誰しもパリの男なら、女給やお針子に恋を囁いたことは一度か二度はあるものだ。言ってはなんだが、女給やお針子というのは、一人前になるまえの若い紳士の恋の練習相手をするために存在しているようなもので、彼女たちもそれを副業と心得ているところがある。  
 もっともそれは男の理屈で、ブルーム氏の二度目の妻が早逝したのは、氏の浮気がひどかったのを若かった彼女が気に病んで心身の健康をそこなったという噂もある。それでもブルーム氏の場合は、さすがに三十過ぎたころには身をたてなおして仕事に励んだというから、フランソワも歳を取れば落ち着くと思っていたのかもしれない。
「本当に、皆様良くしてくださって。クララは幸せ者ですわ」
 クララの言葉に背後でベルトが涙ぐんでいる。

「ねぇ、ベルト、この先私はこの屋敷に住むことになるけれど、おまえはどうする?」
 クララの問いにベルトは即座に答えた。
「あたしは、やっぱり田舎者ですし、齢ですからね。もう少しして落ち着いたら、田舎に戻りますよ」
「そう……」
 残念そうな顔をしているが、クララはほっとした顔になっている。これから先、野暮ったい老人にいつまでも居座られては困るのだろう。
 クララにはそういうところがある。あれほど仲良くしていたマルゴが死んでも、最初は驚き嘆きもしたたものの、三日もすると平然としていた。冷酷ではないが、軽薄なところがあり、そういうところは父親の若いころによく似ている。しかしこの場合、その方が幸せだろうとベルトは思った。冬にあってもも夏空色にかがやく瞳を持てたことは、彼女にとって幸運だったのだ。
「それにしても……」
 ベルトはベッドに腰かけ呟いた。十六年ぶりに見るパリやこの屋敷は随分変わってしまった気がする。
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