白薔薇黒薔薇

平坂 静音

文字の大きさ
62 / 62

薔薇二輪 六

しおりを挟む
 さすがに生みの母親のアンナは気づいたろうが、何も言わなかった。いや、アンナだけではなく、アデル夫人も薄々は気づいていたはずだが、無言だった。彼女は当時すでに身体が弱っており、自分があまり長くないことを知っていたのかもしれない。夫人にとってはクララもマルゴもべつの女が夫の愛を盗んで生んだ娘なのだ。ヴァイオレットにくらべれば、まだしもアンナは謙虚であり、実家から連れてきた忠実な使用人だ。まだ彼女の生んだ子を我が子と呼ぶ方が救われたのだろう。
 もともと子どもたちの世話をしていたのはアデル夫人と、ベルトとアンナであり、子どもにそれほど触れることのなかった男の使用人たちは二人がいれかわっていたことにまったく気付かなかったろう。それに二歳のころの二人は双子のように良く似ていたのだ。

 ベルトは夕方、庭に出ると庭木を眺めた。
 しばし歩いてみると、リラやアカシアの木が見える。どこの木でマルゴは首を吊ったのか……。
 思うとマルゴは不憫である。本当ならばブルーム氏の娘として育てられたのはマルゴのはずだったのだ。
(ヴァイレオットの娘に生まれたのがいけないんだよ、マルゴ……)
 それにしても、本当に二人のあいだに何があったのか。果たして彼女が実の母だと気づいたのだろうか……。二人とも死んでしまった今となっては解らない。ベルトは溜息を夏の夕暮れ空にこぼした。
 風が吹いた瞬間、ふと木々のはざまに二人が立っている気がベルトはした。
(まさか……)
 黒いドレスと白いドレスをまとった二人の幻が見えるたようでベルトは背筋を固くした。
 まるで、黒薔薇と白薔薇がならんで夏の庭に咲いているようだった。

                               終わり





 参考資料  
『パリ、燃ゆ』 Ⅰ Ⅱ Ⅲ 
大佛次郎 朝日新聞出版
『怪帝ナポレオンⅢ世 第二帝政全史』
    鹿島 茂 講談社
『女の歴史』Ⅳ 十九世紀 2
 G・デュビィ M・ペロー 監修
杉村 和子 志賀 亮一 監訳 
        藤原書店
『図説 呪われたパリの歴史』
 ベン・ハバード
伊藤 はるみ 訳   原書房
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

【完結】『謀反人の汚名を着た武田信玄 ~残された秘策と隠された忠義~』

月影 朔
歴史・時代
元亀四年、病で倒れたとされる武田信玄は生きていた。天下の行く末を憂う彼は、あえて「謀反人」の汚名を着て影で活動する。その真意を探る密命を受けた若き忍び・疾風の小太郎は、信玄が残した「秘策」を求め、旅に出る。 各地で出会う仲間たち、そして織田信長の放つ刺客との死闘の中で、小太郎は信玄の壮大な計画の全貌に迫っていく。それは、武力による統一ではなく、人の心を繋ぎ、古き良き日本の魂を取り戻すための、深謀遠慮の策だった。 信玄の真の忠義が試される時、歴史は大きく動き出す。これは、影で天下を動かした男と、その志を継ぐ若者が織りなす、感動と成長の戦国絵巻である。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

処理中です...