転デュラ! 転生したらデュラハンだったけど、あんまり問題なかったよ!

風雪弘太

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一章 第二部

一章 第二部 魔眼、そして告白

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「目を開けてください。起きてはいけませんが、目は開けてください。」

 アヌビスが僕を呼んでいる。
 もう朝になったのだろうか。
 昨日はあんなに寝坊したくせに……
 まあ、しょうがないから起きてやるか。

「なに? もう朝?」
 半目で僕は尋ねる。正直、まだ眠っていたい。

「寝ぼけて…… ますね。ここは夢です。私は夢の中で、あなたに会いに来ました。」
「夢? …… 何その格好? コスプレ?」

 あ、思い出した。
 しかし、それと同時にアヌビスの格好に完全に意識が吸い取られてしまう。

 きちんと目を開けると、そこには制服を着たアヌビスの姿があった。
 部室にいるときも見たことはあったが、僕にとっては、アヌビスとよく話すこの世界の格好の方が馴染み深かった。

「違います! あなたの深層心理では…… って、そんなことはどうでもいいんです!
あなたには、これからも生き残ってもらわなければなりません。なので、いまからあなたが覚えられる範囲で、私が教えられる全ての魔法をお教えしようと思います。が!」

……が?
 アヌビスは僕の目を真剣に見つめて、こう言った。

「時雨さん、ちょっと抱きついてもいいですか?」
「は?」

 アヌビスは、一体どうしてしまったのだろう。


「いやいやいやいや! え!? ちょっと待…… ……僕たち、そんな関係だったっけ?」
「え? ……あ! ……日本では、確か抱擁はそういう意味でしたね……」

 慌てながら挙動不審にいう僕に、アヌビスは今更気付いたように赤くなった。
 あれ? アヌビスってアメリカの方の人だっけ?

 ちなみにアメリカと言ったのは、アメリカの人々は誰かと出会うたびに抱擁しているイメージがあるからだ。あくまで個人の見解だが。

「……ま、まあ別に、僕はアヌビスのことが嫌いなわけじゃないし、してもいいけど、どんな理由なんだ?」
「あ…… ま、まあ、実践してみれば分かりますよ! では!」
「え? あ? いきなり!?」

 受け入れる真意もままならないまま、アヌビスは僕の胸に飛び込んできた。
 そして、僕の瞳をじっと見つめる。

「ちょ、そんなに近くで見られると恥ずかし…… それに近いから息が……!」

 かかる。
 なんだかものすごい速さで大人の階段を駆け上がっていっているみたいだ。
 実際は数センチの変化だと思うが。

「なんと…… コレは凄いですね…… なるほどなるほど……」

 そんなどぎまぎとした僕とは対照的に、アヌビスは興味深そうに僕の瞳を見つめてきた。
なんだ? 何かあるのか?

「あの…… アヌビス……? そろそろいいんじゃ……?」
「ふむふむ…… そういうことですか…… あ、すいません。今離れます」

 ……アヌビスは最後まで冷静だった。

 くそう。一人でどぎまぎしている僕が馬鹿みたいじゃないか。

「で……? 何が分かったんだ?」
 
 しかし、そんなことを悟られてしまってはいよいよ本当に顔から火が出るほど恥ずかしい。僕は努めて冷静にアヌビスに尋ねる。

「いえ。結果が出るのはもうすぐ後です…… あ、来ました。時雨さんも腕、見てみてください」

 腕? さっき何処かにぶつけでもしたのかなんだか少し痛いくらいで特に変わった様子はないのだが…… あれ?

 僕が右腕を眺めていると、そこになにやら小さな黒いシミが浮かんできていることに気がついた。
 そしてその面積は、次第に大きくなっていく。

「ちょ、アヌビス。これは一体……?」

「よく見てみてください。色々書いてますよ?」

 アヌビスの言葉に、僕は疑問に思いながらも突如自分の腕に現れた黒いシミをじっと見つめる。……しかし、書いているとはどういう……?

「な、なんだこれ!?」

 よく見ると、僕の腕に現れた黒いシミは文字だった。
 なんだか、模様のようなものに縁取られて、表のようなものが書かれている。
 そこにある、記号の数々。

 しかし僕には、その意味が理解できなかった。

「……どうやって読むんだ?」
「あ、そうでしたね。時雨さん、この世界の言葉読めないんでしたっけ」

 アヌビスははっと気付いたように言う。僕もあまり気にしてはいなかったが、確かにこの世界に来てからこの世界の文字に触れたことはない。

 もしかして、この文字も魔法みたいにすぐ読めるようになるのだろうか。
だとしたら……

「じゃあ、一応読み上げてあげますが、じぶんでもきちんと勉強してくださいね? あ、コレ本です」

 アヌビスから渡されたのは、辞書のように分厚い本だった。

 ……やっぱり、そんな上手くはいかないよな……

 僕の落胆をよそに、アヌビスは僕の腕の表示にさっと目を通し……

「は!?」
「な、なんだ!? 何か悪いことでも書いてあったのか!?」

 ただ事ではなさそうなアヌビスの声。しかもその横顔は真っ青だった。

「ま、魔眼が……」
「癌!? マジかよおい嘘だろ!?」
「違います! っていうか慌てすぎて口調おかしくなってますよ? 魔眼です! マ、ガ、ン!」
「魔眼……?」

 ひとしきり馬鹿な勘違いを続けた僕に、アヌビスは呆れたように叫ぶのだった。
 

「魔眼って、もしかして…… いろんな能力を持った目のことか? 相手の能力を写したりする有名な…… あの魔眼?」

 若干の期待を込めて聞く僕。
 さっきは裏切られてしまったが、ここは異世界なのだ。もしかしたら僕もチートなスキルを……!

「いえ。ああいうのとは全くの別物です」

 手に入れられることはないようだった。
 先ほどから引き続き、二回連続で裏切られたような気持ちになる僕。

 まあ、こっちが勝手に期待しただけなのだが。

「じゃ、じゃあ、どういう魔眼なんだ?」
「えっと…… これは『暗視』ですね…… 暗いところでものが見える、結構便利な魔眼ですよ」
「……それはそのうち進化して強力な魔法を使えるようになったりは……?」
「しません」
「じゃ、じゃあ、暗視っていうのはこの世界では珍しかったり……?」
「しません。というか、魔法としてすでに確立されているので、あってもなくても変わりません。あ、でも、魔眼があれば魔力の補充無しに一日中暗視魔法が使えているような状体で……」
「……もういいよ。僕の使える魔法と、覚えられる魔法はどうなってるんだ?」

 現実に打ちのめされたようになり、それ以上アヌビスの言葉を聞きたくなくなってしまった。そんなことよりも楽しい話をしよう。

「分かりました。魔法は…… お、さすが魔眼持ちだけあってかなりの量の魔法を覚えられますね」
「そうなのか!?」

 さっきまでマイナスだった感情の数値が、一気にプラスに傾いたようだった。
 そうか。魔法。魔法か……

「……お、これは……? やりましたよ時雨さん!」
「おう! 何がやったんだ!?」

 突然のハイテンションなアヌビスの声にも、同じようにハイテンションに返してしまえるくらい、今の僕は機嫌がいい。
 我ながら感情の変化が激しいやつだとは思うが、こればかりは仕方がなかった。
 しかし。

「私が一番教えたかった魔法、あなたも使えるんです!」
「そうか! それは、よかった…… な?」

 アヌビスのこの言葉で、何故か警戒心のようなものが浮かんでくる。
 この身体。つまりデュラハンになってから、なんだか勘が鋭くなったような気がするが、今まさに、その勘が働いていた。

 しかし、アヌビスはそんな僕にお構いなしに、張り切ってなにやらしている。
 そして。

「よく見ていてくださいね! 大丈夫! 多少の破壊力でも、ここは夢の中です! では! 
『審判の刻は来た。我に従いし煉獄の眷属よ、今こそここに集い、紅蓮の火柱を見せたまえ! 舞え! 我が願いは天をも焦がす。我が想いは星をも砕く。貴様らに永遠の不滅を与えよう。
死してなお、 我が望みを叶えたまえ!〈ジャッジメント・デス・ファイア〉!』」

 アヌビスがそう唱え終えた瞬間、僕たちの目の前に炎が蜷局を巻きはじめた。
 そしてそれはどんどん大きく、そして高密度になっていく。

「うおお…… これは凄いな……」

 そしてその炎の塊が僕の視界を覆い尽くさんばかりにふくれあがった瞬間。

「『その炎を纏いて』」

 アヌビスは唱え、右手を素早く動かす。
刹那。

 僕の視界は、真っ白になった。


「……!!」

 あまりの衝撃に、僕は跳ね起きた。
 周囲を見回すと、そこにはテントと……

「うわっ!?」
 
 驚いて飛び退く、人影があった。
 もう日が昇って数時間くらいたったところだろうか。
 周囲はかなり明るくなっていた。

「……?」

 寝起きからの突然の事態。そして先ほどの衝撃との連鎖で、僕の頭は目の前の景色を受け取るのに、かなりの時間を要しているようだ。
 分かりやすく言うと、僕は寝ぼけていた。

「えっと……」

 何も言わない僕の前で困ったようにしている人がいることは認識できる。
 だがもう少し待ってもらわないと……

「な、なあ! 君!」

 何を言っているんだろう?

「ボクと結婚しないかい?」

 何を……

「はあぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 一気に、目が覚めた。

◆◇◆

「う…… あれ……? 時雨さん……? 駄目じゃないですか。まだ教えるべ、き……」

 夢の訓練の途中で突然何処かへ行ってしまった時雨さんを追って、私は目覚めた。
 頭が痛い。無理矢理目覚めるという行為にはそれ相応のダメージもあるのだから、気をつけてほしい。が、そんなことを言える雰囲気ではなかった。

「な、なあ! 君! ボクと結婚しないかい?」

 寝ぼけたような時雨さんの前で……
 昨日助けた人が結婚の申し込みをしていたのだ。
 それも時雨さんに対して。

「はあぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 流石の衝撃に時雨さんもすっかり起きたらしい。

「ぼ、僕と結婚!? いきなりどういう話!?」

 そしてようやく私の存在に気がついたのか、助けを求めるようにこちらを見てくる。
 どういう話か。それは私も聞きたい。



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