転デュラ! 転生したらデュラハンだったけど、あんまり問題なかったよ!

風雪弘太

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一章 第二部

第一章 第二部 契約魔法

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「ちょちょちょっと待て!」

 僕はそう言って、いきなり結婚を迫ってきた少女から一旦離れた。
 かなり心臓がバクバクしている。

 お前、異性に近づかれただけでそんなになるとか、どれだけチキンなんだ?
 と、笑われてしまいそうだが、仕方ないのだ。
 僕の魔の前で不思議そうにしているこの少女は、最高の美少女だったのだから。
  
 片目が紫、もう片方が赤いオッドアイの瞳が、僕のことを見てくる。
 
 そしてそれは何か切羽詰まっている、そんな感じの視線だった。

 もちろん、アヌビスもかなりの美少女だ。それは認めよう。

 でも、少し外見が幼い。僕より二つ三つ年下のように見える。
 だから今まで、後輩とぐらいにしか思っていなかった。

 口調も丁寧だし、事実後輩だったからだ。

 しかし、この目の前の少女は違った。
 薄く紫がかった中くらいの長さの髪が風になびいている。

……くそっ! これ以上見た目に惑わされては駄目だ! ここはなんとしてでも冷静に……

「あの……」
「ちょっと待てい!!!」

 目の前の少女が再び僕に話しかけようとしたその瞬間、アヌビスの大声がその行動を遮った。
……ありがとう。アヌビス。

 何でもっと早く助けてくれなかったんだとも言いたいが、今はこの状況を打破してくれたことに感謝だ。

「いきなりなんなんですかあなたは!? いきなり結婚の申し込み!? そういうのはしかるべき順序を踏んでからしてください!」

 ……しかるべき順序を踏めばいいのか…… ま、そりゃそうか。
 アヌビスがどうこう言うようなことではない…… んだろう。きっと。

「しかし…… ボクはしかるべき順序の一環としてこの申し込みをしているんだ! なんなら君に申し込んだっていいんだ。だから、ボクと早く……」

「な!? いえ! いくらそんな一人称使ったって、性別はごまかせませんよ!?」

「ボクはそのくらい切羽詰まってるんだ! それに大体、君たちもボクと似たような状況だろう!? 早く! ボクと! どっちでもいいから!」

 え……? この人今聞き捨てならないことを言ったような気がする。
 なんだか、結婚するのは誰でもいい…… みたいなこと言ってなかったか?

 ……そうか。いや、まあそうだろう。僕たちはまだ、名前も知らない他人だ。

 一回命を救ったぐらいで簡単に惚れてくれるような人は小説の世界にしかいないのだ。
 それを理解すると、なんだか無性に静かな心になれた。

「……まずは一旦落ち着こう。あんたも、きちんと理由を説明してくれないと……」

 僕は静かな心で少女に言った。

 しかし、そんな僕の言葉に、少女はあり得ないといった顔をする。

「も、もしかして君たち、ボクの言ってることが分かってないのかい?」
「ええ。全然分かってないですね! それに分かりたくもないです! いきなり結婚の要求をするような人のことなんて!」

「……君たち…… それでどうやって今まで生きてきたんだい?」

 アヌビスが機嫌悪そうにまくし立てると、少女は呆れながら呟くのだった。

◆◇◆

「……なあ、これは必要なのか?」

 僕は思い顎を必死に動かしながら少女に聞いた。
 
 僕たちの下の地面にはよく分からない魔方陣が現れている。

 こいつ曰く、『重力魔法』で魔方陣の中の重力が通常の倍から三倍になるという者だった。少女は涼しげな顔でそれに答える。

「もちろんだよ。ちなみにこの魔法、ボクも受けてるからね? これで状況はフェアだ」

 ……涼しげな顔の少女と、かなり苦しい僕。

 とてもフェアだとは思えなかったが、隣にいるアヌビスは涼しい顔だった。

「では、まずは自己紹介でもしますか?」

 先ほどよりは少し落ち着いたらしいアヌビス。
 冷静に司会進行を担当してくれる。

「まずは…… ボクからしようか。ボクは元魔王。名前はないよ」

 あっさりとその少女は自己紹介を終わらせる。
 そうか。元魔王なのか……

「「元魔王!?」」

 ようやく情報がきちんと伝わり、僕とアヌビスは揃って驚く。
 あまりにも普通のように言われたので、一瞬気付かなかった。

 まさか、探していた人物にこんな早く会えるとは。

 
「しかし、名前がないっていうのもそれはそれで呼びづらいな…… なあ、お前は前になんて呼ばれてたんだ?」

 僕のそんな言葉に、元魔王は少し悩んだ様子を見せる。

「そうだね…… 元々ボクは第三千二百十六代目の魔王にギャンブルで圧勝して魔王になっただけだったから、特に異名とかもなかったしな…… それに、この前部下たちにぼこぼこにされて、追い出されちゃったし」
「それは……」

 なんとも言えない状況だ。こいつがいいのか悪いのか。ギャンブルで魔王を決めるって言うのは正直どうなのか、色々なツッコミをしたかったが、僕は全てを飲み込む。

「じゃ、マオで」
「ん? マオって…… あ! もしかして! ボクの名前かい?」
「……えらく適当ですね……」

 はっとした後嬉しそうに言う元魔王と、呆れたように呟くアヌビス。

「僕にはネーミングセンスがないから、これくらいでいいんだよ。なあ、おまえ、この名前でいいか?」
「……うん。いやー なんだか人に名前をつけてもらうって…… いや! 何でもないよ!」

 この反応は、マオと言う名前でいいという意味だろうか?
 それにしても何を言いよどんだのか気になるな…… 顔もちょっと赤いし。

「じゃあ、僕の自己紹介もしよう。僕の名前は神ざ…… 時雨。時雨って言うんだ。今はここから北北西にあるらしい町に向かって歩いてるところだ」

 柊と乃綾のことは、別に話さなくていいだろう。

「じゃあ、我も名乗ろうか! 我が名はアヌビいてっ!? なにすんですか時雨さん!」

 またおかしな方向に暴走しそうになったアヌビスを僕は手刀で止めた。

「普通に自己紹介しろ」
「……はい」

 アヌビスは観念したのか、普通の自己紹介をした。

◆◇◆

「さて、では何故結婚の申し込みをしたのか、その理由を教えてもらおうじゃあありませんか!」

 ようやく本題だ。
 と言うか、正直肩がこってきたのでこの魔法も解いてほしいのだが。

「わかったよ。まあ、結婚って言うのはしかるべき手順なのさ」
「……どういうことです?」
「ボクは君たちのどちらかと、『契約魔法』を結びたいと思っている
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