君の左目

便葉

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始まりは不運 …1

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あの日を境に、俺の人生は変わった…


「幹太~、女子には多分無理だと思うよ~~」

小学五年生に上がったばかりのある日、俺達はクラスの仲良しで遊んでいた。


男子が三人に女子が二人、その女子の二人の中に俺の好きな子がいる。
名前は渡辺寧々。
俺達みたいに根っからの地元っ子じゃなくて、二年生の時に東京から引っ越してきた綺麗な子。
大人しくていつも笑ってて、寧々を好きな男は俺だけじゃない。

だから、無理矢理、このグループに入れた。
まずは寧々の親友の優樹菜と仲良くなって、そして寧々も俺達のグループの一員に任命した。

俺はクラスのリーダー的存在、それは自分でも分かっている。
俺らのグループには女子も男子も誰もが入りたがって、はっきり言って面倒くさい。
だから、女子は優樹菜と寧々だけ。
とういうか、俺にとっては寧々以外は別に興味はないけど。


その日は、どんよりとした雲が空を覆いつくしていた。
新学期によくある先生達の勉強会のために、その日の授業は半日で終わった。

「寧々、今日は男子は運動公園で遊ぶけど、女子はどうする?
寧々達が来るのなら、違う遊びにしてもいいけど」

俺は本当に寧々が好きだ。
ずっと見ていても飽きないし、可愛すぎて胸の奥が痛くなる。
小学生の分際で生意気だって思われるかもしれないけど、俺は寧々を誰にも取られたくないって真剣に思ってる。
それぐらい好きだ。
好きっていう言葉じゃ物足りないくらいに…

「優樹菜が行くなら、行ってもいいよ」

俺は了解と言って、優樹菜を探しに行く。
寧々が来ないと始まらない。
俺は、優樹菜や皆を利用してでも寧々を近くに置いておきたかった。


「幹太、この抜け道すごくね?」

女子がまだ運動公園に着かない間、俺達男子は入っちゃいけない場所に入り、探検ごっこをして遊んでいた。

運動公園の中にある展望台へ続く坂道は、起伏はないけれど距離が長い。
一番チビで運動神経のいい雅也が、森の茂みの中に獣道を見つけた。

急な坂を上りきった先に、獣道が途切れる場所がある。
そこは崖になっていて崖伝いに幅の細い道が三メートル程続いていて、ゴールは展望台のある丘の上だった。
崖といっても崖下は茂みになっているため、そんなに深くないのは見れば分かる。

「まず、俺が渡ってみるから。
大丈夫そうだったら、その後に付いてきて」

俺は怖いもの知らずのやんちゃ坊主だった。
足も速くて力もあって運動では誰にも負けない。
俺にできないものはないなんて、真剣に思っていたほど。

怖がる友達に笑顔を見せ、俺はその崖の道をスイスイと渡った。
きっと今までもこの道を使った人がいたと思わせるような、手をのせるくぼみや、足を引っかける石のでっぱりが所々に散在する。
俺はあっという間に向こう側に渡った。

「全然、大丈夫!
ちゃんと足をのせる所とか手で掴むくぼみとかあるから、そこを見ながら渡って来いよ」

俺の掛け声の後、後の二人もスイスイと渡ってきた。
下を見ればゾッとするけど、前だけ見てれば何も怖くないし危険な感じもしない。

思いの外、楽しかった俺達はこの遊びに“勇気”という名前を付けた。
ちょっとくらいスリリングがある方が、俺達にはちょうどいい。俺達は馬鹿みたいに何度も何度もその崖を渡って楽しんだ。

すると、雅也の携帯が鳴った。
優樹菜からメールが入り、運動公園に着いたと打ってある。
俺達はひとまずその遊びをやめ、女子を迎えに行く事にした。

どんよりとした天気のせいで何だか蒸し暑い。
上着を脱いだTシャツ姿の俺達を見て、優樹菜と寧々は笑った。

今日の寧々は特別可愛い。
短めのデニムのパンツに水色のパーカーを着て、髪はツィンテールに結んでいる。
俺は変なため息をついた。
自分の気持ちを鎮めるように。
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