君の左目

便葉

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始まりは不運 …2

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「俺達、めっちゃ面白い遊びを見つけたんだ。
優樹菜達も一緒にやろうよ」

雅也は興奮気味にそう言った。
優樹菜と寧々も楽しそうな顔をしていると、もう一人の隆志が横から口を挟む。

「でも、女子には無理だよ。他の遊びにした方がいいって」

でも、そんな事を言われた優樹菜は興味津々に俺に聞いてきた。

「どんな遊び? 私達にも教えてよ」

結局、俺達は女子を連れてその場所へ向かった。
優樹菜はクラスの中でも運動神経はいい方だから心配はないけど、寧々はまるっきし運動ができない。
だから、確かに、俺は心配だった。

このグループは俺の一声で全てが決まる。
俺が女子には遊ばせないって言えばそれで終わるけど、でも、優樹菜は絶対納得しないだろうな。

その崖の前に着いた途端、待ちきれない雅也はあっという間に崖をスイスイと渡って行った。
優樹菜も寧々も最初は驚いていたけど、雅也の簡単そうな動きを見てやりたいと言い出した。

「俺は知らねー。幹太が決めて」

隆志はそう言うと、自分も向こう側にさっさと渡った。

「ねえ、幹太、行ってもいいでしょ?」

優樹菜はもう行く気満々で前のめりになっている。
俺がいいよって言う前に、優樹菜はスイスイと渡って行った。
めちゃくちゃ簡単そうに。

「あ~、マジ面白い~~
寧々も来る? 多分、大丈夫だと思うよ~」

向こうの方から優樹菜が興奮気味に寧々に声をかけた。
寧々は俺を見た。
どうすればいいって顔をして。

「寧々は行きたいの?
怖いんだったら、俺が付き合うから遠回りしてちゃんとした道を歩いていってもいいよ」

寧々の大きな瞳はちょっとだけ迷っている。
デニムのパンツから伸びる華奢な足を見れば、俺はやっぱり無理だと思った。

「歩いて行こう。その方がいいよ」

でも、寧々は優樹菜達の方を見てる。

「ううん、ここを渡りたい。
ちょっと怖いけど、大丈夫だよね…?」

俺は頷くしかなかった。
寧々の言う事は何でも聞いてあげたい。

「じゃあさ、俺が先に行くから、俺が足をのせた所にちゃんと足をのせる事。
それに、手だってそう。
手をのせる所がちゃんとあるから俺の真似をする事、分かった?」

寧々は嬉しそうに微笑んだ。

「幹太がいてくれるから、大丈夫だよ。
幹太は何でもできるもんね」

俺は嬉しかったけど、半面気が重かった。
何事もなく向こうへ渡れますようになんて、がらにもなく弱気な事を考える。

「じゃ、行くぞ。
ポンポンポンって、スピードをできるだけ落とさないように。
ちゃんと俺について来て」

俺は寧々を何度も見ながら、崖の道に足をかける。
まずこことか、いい感じとか、励ましたり導いたりしながら。

でも、その不運は突然やって来た。
俺が後一歩、寧々が後二歩というところで、崖の上から突風が吹いた。
俺は大丈夫だったけど、寧々はバランスを崩し体が後ろに揺れた。
俺はとっさに寧々の手を掴んだ。
掴んだけど…

俺の寧々の手を掴む力は結局はまだ子供の力しかなくて、俺だけを信じて俺の手を握りしめていた寧々の手は、俺の手から離れていった。
寧々は崖の下の緑の茂みに落ちていく。



そして、俺の全ての感情はそこで途絶え、俺の人生は何もかもが闇に変わった。




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