20 / 69
彼の時間 …6
しおりを挟む「ちょっと、水、飲んでくる」
「うん」
私はさほど幹太の表情の変化を気にする事もなく、幹太の後ろ姿を目で追った。
私は漠然と幹太との結婚を考える。もう、25歳を過ぎた今、幹太とのこの再会は結婚を意味していると思っていた。
いや、幹太と結婚したい…
幹太の布団の上で幹太の匂いに包まれながら、私は自分の未来に一筋の明かりを灯した。
私はまた横になった。幹太の布団は本当に気持ちいい。私がまったりとまどろんでいると、水の入ったペットボトルを右手に持った幹太が戻ってきた。
「飲む?」
「うん」
私は幹太からペットボトルを受け取ると、布団の上でごくごくと水を飲んだ。
私の真面目な人生で、こんな風に布団の上でペットボトルの水をごくごく飲む事なんてなかった。それも下着姿のままで…
私は飲み終わったペットボトルを幹太に渡すと、ちょっと恥ずかしくなってまた布団にもぐり込んだ。そんな私を見て、幹太も布団にもぐり込む。
私は、あっという間に、後ろ向きで幹太の胸に抱かれていた。
幹太は力強く私を引き寄せると、私の耳元で小さくため息をつく。
「寧々… あのさ…」
私の背中越しで話をする幹太の表情は全く見えない。でも、きっと、たまに見せる苦悩に満ちた顔に違いなかった。
「寧々のご両親になんだけどさ…
まだ、俺の事、黙っててほしいんだ。
寧々の家の人達にとって、きっと、あの街はいい思い出はないはずだから。
あの頃の人達にもう会いたくないって思ってるかもしれない。
だから、ちゃんと時期を見計らって、俺の方から挨拶に行くから…
それまでは、寧々の方からは何も言わないでほしい」
私は幹太の腕の中でくるりと動いて、幹太の胸に顔を埋めた。
「うん、分かった…
私からは何も言わない…
幹太の好きなタイミングで、お母さん達に言ってくれればそれでいいよ」
私はそう言いながら、幹太の言う事に一理あると納得していた。確かに、私の父も母もそれに弟まで、あの街の事は一切話さない。よくよく考えてみれば、あの頃にたくさん撮った写真の数々も納戸の奥に仕舞い込んだままだ。
幹太が言うように、父も母もそして弟も、あの頃の思い出は、私の事故の記憶と共にどこかに葬り去ったのかもしれない。
でも、今の私にとって、そんな事どうでもよかった。
こうやって、幹太は私の事を愛してくれて、私も幹太の事を愛している。
それだけでいい。過去や未来に振り回される事なく、私達はまた再び出会ったのだから。
「それで… 今日は、泊まっていいの?」
私は変なところで鈍い幹太に業を煮やして、自分の方からそう聞いてみた。
私のその意外な言葉に驚いた幹太は、返事の代わりに私をギュっと抱きしめる。
「当たり前じゃん。
明日は日曜日だし、俺も寧々と離れたくない」
人間の縁というものは不思議なものだと、幹太の腕の中でそんな事を思った。
十数年ぶりに会った子供の頃の友達と、たったの二日でこんなにも深く愛し合っている。
一世一代とか最初で最後とか、たった一人の運命の人を意味する言葉はたくさんあるけれど、そんな事が本当にあるんだと今は身をもって感じている。
私の人生に幹太がいて初めて幸せと思える事を、今のこの歳で気付く事ができて本当によかった。
0
あなたにおすすめの小説
☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-
設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt
夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや
出張に行くようになって……あまりいい気はしないから
やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀
気にし過ぎだと一笑に伏された。
それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない
言わんこっちゃないという結果になっていて
私は逃走したよ……。
あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン?
ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
初回公開日時 2019.01.25 22:29
初回完結日時 2019.08.16 21:21
再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結
❦イラストは有償画像になります。
2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
【完結】時計台の約束
とっくり
恋愛
あの日、彼は約束の場所に現れなかった。
それは裏切りではなく、永遠の別れの始まりだった――。
孤児院で出会い、時を経て再び交わった二人の絆は、すれ違いと痛みの中で静かに崩れていく。
偽りの事故が奪ったのは、未来への希望さえも。
それでも、彼を想い続ける少女の胸には、小さな命と共に新しい未来が灯る。
中世異世界を舞台に紡がれる、愛と喪失の切ない物語。
※短編から長編に変更いたしました。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる