君の左目

便葉

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彼の時間 …7

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「寧々ちゃん、日を追うごとにどんどん綺麗になってる」

区役所で一緒に働く今泉さんは、目を細めて私にそう言った。
幹太と再会したあの日から十日が経った今、今泉さんは毎日そんな事を言って私をからかった。

「そんな事ないですよ」

私と幹太の事は全て今泉さんには話をしている。
小学校の友達で転校するまでは超仲良しだった事や、実はお互いが初恋の人だったとか。でも、奥深い闇の部分はもちろん話してはいない。事故の話は人に話すほど、私が理解していないから。

「あの大きな古時計が半年ぶりに時を刻み出してすぐに再会だなんて、何だかロマンチックでワクワクしちゃう」

私は苦笑いをしながら、目の前にそびえ立つ古時計を見た。前にこの時計が修理で運び出される時に、時計修理の業者さんがこんな事を言っていた。

「また、新しい時間を刻むために生まれ変わって戻ってきますから、しばらくお待ちくださいね」と。

時間は絶えず流れている。過去は戻る事もできないし変える事もできない。
そして、今は確実に未来に向かって進んでいる。私達もこの時計のように、新たな時を刻み始めた。


「寧々ちゃん、今日の献立は?」

区役所を出入りするお客様の流れが途切れた少しの合間に、今泉さんがそう聞いてきた。
最近は、いやほぼ毎日だけど、幹太の家でご飯を作っている。ご飯を作って、一緒に食べて、そのまま幹太の家へ泊まるというそんな毎日を送っていた。

主婦歴が長い今泉さんは、私のお料理の先生だった。簡単で美味しいおかずの作り方をいつも伝授してくれる。

「今日は、飲み会があるみたいで、ご飯はいらないみたいです」

私がそう言うと、今泉さんは寂しそうに肩をすくめた。

「結婚が長くなるとね、夕ご飯要らないって言われると嬉しかったりするんだけどね」

今泉さんはそう言って笑った。
私も一緒に笑ったが、実は、幹太がいない夜の時間をどう過ごせばいいのか分からない。ほんのちょっと前までは、当たり前だった一人の時間が、今では心細くて寂しくて仕方がなかった。

仕事を終わらせた私は、とりあえず実家へ帰る事にした。
でも、足が中々その方向へ進まない。結局、私は、駅前でお惣菜を買い込んで、やっぱり幹太の家へ向かった。

幹太の話では、今日の帰りはかなり遅くなるという事だった。幹太の配属された部署の人達が、幹太の歓迎会を盛大に開いてくれるらしかったから。

私は軽く一人の食事を済ませ、早々とシャワーを浴びた。
キッチンに立ちミネラルウォーターを飲んでいると、キッチンのカウンターの隅にブック型のアルバムが立てかけているのが見えた。

アルバム?
私は何も考えずにそのアルバムを手に取った。カバーをめくると最初のページに、兄ちゃん、一人暮らし頑張れ!と書いてある。
幹太の妹が一人暮らしを始める兄のために作ったアルバムのようだ。
私は次のページをめくった。そのページは幹太の飼い犬の写真が貼ってあり、次のページは家族の写真が続いた。

私はあまり幹太の家族を見た事がなかった。でも、妹の千夏ちゃんは三つ年下で、まだ小さかった姿を何となく覚えている。
幹太は写真が嫌いなのだろうか?
家族写真は幹太抜きの写真ばかりで、人間の写真よりもペットのワンちゃんの写真の方が多かった。

私は何枚もないその写真達を夢中で見ていた。幹太の全てを知りたい。それは恋に落ちた人ならば誰もが思う単純な心理。幹太が帰ってきたら、この可愛らしいワンちゃんの名前を聞こう。妹の千夏ちゃんはどんな大人になっているのか、まだ実家に住んでいるのか、知りたい事だらけで本当に嫌になる。

最後のページをめくった時に、アルバムに貼られていない古めかしい写真がポロリと下に落ちた。
私は床に裏返しになって落ちた写真を慌てて拾うと、心臓がビクンと高鳴り一瞬息が止まった。

私…?
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