21 / 69
彼の時間 …7
しおりを挟む「寧々ちゃん、日を追うごとにどんどん綺麗になってる」
区役所で一緒に働く今泉さんは、目を細めて私にそう言った。
幹太と再会したあの日から十日が経った今、今泉さんは毎日そんな事を言って私をからかった。
「そんな事ないですよ」
私と幹太の事は全て今泉さんには話をしている。
小学校の友達で転校するまでは超仲良しだった事や、実はお互いが初恋の人だったとか。でも、奥深い闇の部分はもちろん話してはいない。事故の話は人に話すほど、私が理解していないから。
「あの大きな古時計が半年ぶりに時を刻み出してすぐに再会だなんて、何だかロマンチックでワクワクしちゃう」
私は苦笑いをしながら、目の前にそびえ立つ古時計を見た。前にこの時計が修理で運び出される時に、時計修理の業者さんがこんな事を言っていた。
「また、新しい時間を刻むために生まれ変わって戻ってきますから、しばらくお待ちくださいね」と。
時間は絶えず流れている。過去は戻る事もできないし変える事もできない。
そして、今は確実に未来に向かって進んでいる。私達もこの時計のように、新たな時を刻み始めた。
「寧々ちゃん、今日の献立は?」
区役所を出入りするお客様の流れが途切れた少しの合間に、今泉さんがそう聞いてきた。
最近は、いやほぼ毎日だけど、幹太の家でご飯を作っている。ご飯を作って、一緒に食べて、そのまま幹太の家へ泊まるというそんな毎日を送っていた。
主婦歴が長い今泉さんは、私のお料理の先生だった。簡単で美味しいおかずの作り方をいつも伝授してくれる。
「今日は、飲み会があるみたいで、ご飯はいらないみたいです」
私がそう言うと、今泉さんは寂しそうに肩をすくめた。
「結婚が長くなるとね、夕ご飯要らないって言われると嬉しかったりするんだけどね」
今泉さんはそう言って笑った。
私も一緒に笑ったが、実は、幹太がいない夜の時間をどう過ごせばいいのか分からない。ほんのちょっと前までは、当たり前だった一人の時間が、今では心細くて寂しくて仕方がなかった。
仕事を終わらせた私は、とりあえず実家へ帰る事にした。
でも、足が中々その方向へ進まない。結局、私は、駅前でお惣菜を買い込んで、やっぱり幹太の家へ向かった。
幹太の話では、今日の帰りはかなり遅くなるという事だった。幹太の配属された部署の人達が、幹太の歓迎会を盛大に開いてくれるらしかったから。
私は軽く一人の食事を済ませ、早々とシャワーを浴びた。
キッチンに立ちミネラルウォーターを飲んでいると、キッチンのカウンターの隅にブック型のアルバムが立てかけているのが見えた。
アルバム?
私は何も考えずにそのアルバムを手に取った。カバーをめくると最初のページに、兄ちゃん、一人暮らし頑張れ!と書いてある。
幹太の妹が一人暮らしを始める兄のために作ったアルバムのようだ。
私は次のページをめくった。そのページは幹太の飼い犬の写真が貼ってあり、次のページは家族の写真が続いた。
私はあまり幹太の家族を見た事がなかった。でも、妹の千夏ちゃんは三つ年下で、まだ小さかった姿を何となく覚えている。
幹太は写真が嫌いなのだろうか?
家族写真は幹太抜きの写真ばかりで、人間の写真よりもペットのワンちゃんの写真の方が多かった。
私は何枚もないその写真達を夢中で見ていた。幹太の全てを知りたい。それは恋に落ちた人ならば誰もが思う単純な心理。幹太が帰ってきたら、この可愛らしいワンちゃんの名前を聞こう。妹の千夏ちゃんはどんな大人になっているのか、まだ実家に住んでいるのか、知りたい事だらけで本当に嫌になる。
最後のページをめくった時に、アルバムに貼られていない古めかしい写真がポロリと下に落ちた。
私は床に裏返しになって落ちた写真を慌てて拾うと、心臓がビクンと高鳴り一瞬息が止まった。
私…?
0
あなたにおすすめの小説
☘ 注意する都度何もない考え過ぎだと言い張る夫、なのに結局薬局疚しさ満杯だったじゃんか~ Bakayarou-
設楽理沙
ライト文芸
☘ 2025.12.18 文字数 70,089 累計ポイント 677,945 pt
夫が同じ社内の女性と度々仕事絡みで一緒に外回りや
出張に行くようになって……あまりいい気はしないから
やめてほしいってお願いしたのに、何度も……。❀
気にし過ぎだと一笑に伏された。
それなのに蓋を開けてみれば、何のことはない
言わんこっちゃないという結果になっていて
私は逃走したよ……。
あぁ~あたし、どうなっちゃうのかしらン?
ぜんぜん明るい未来が見えないよ。。・゜・(ノε`)・゜・。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
初回公開日時 2019.01.25 22:29
初回完結日時 2019.08.16 21:21
再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結
❦イラストは有償画像になります。
2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
【完結】時計台の約束
とっくり
恋愛
あの日、彼は約束の場所に現れなかった。
それは裏切りではなく、永遠の別れの始まりだった――。
孤児院で出会い、時を経て再び交わった二人の絆は、すれ違いと痛みの中で静かに崩れていく。
偽りの事故が奪ったのは、未来への希望さえも。
それでも、彼を想い続ける少女の胸には、小さな命と共に新しい未来が灯る。
中世異世界を舞台に紡がれる、愛と喪失の切ない物語。
※短編から長編に変更いたしました。
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる