ココロオドル蝶々が舞う

便葉

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残念ながら華麗には舞えません

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 三人は夕食を済ませくつろいでいると、蝶々は空になったトレイをビニール袋にドサドサと投げ込み始めた。片付け下手で何もかもが雑な蝶々の性格は編集部内ではもう有名なことだが、でも、さすがに人の家で改めてそれを見ると藤堂は分かっていてもげんなりした。

 すると、後藤はさっと立ち上がり、小さなベランダがついているサッシの窓を全開にする。


「狭い部屋なので、食べ物の匂いがこもるのは嫌だから」


「匂いこもってますか? 私は全然平気ですよ~~」


 空のトレイを詰め込んだビニール袋をギュッギュッと結びながら、蝶々は場の雰囲気を何も把握してない笑顔でそう言った。


 そんな二人のやり取りを見ながら、藤堂はまたあれこれ分析する。

……後藤は潔癖でキレイ好き、蝶々は何も気にしない大雑把。後藤が蝶々に愛想をつかすのも時間の問題だろう。

 藤堂はそんな事を考えながらほくそ笑んだ。

 後藤はちゃぶ台を紙おしぼりで適当に拭いている蝶々の横から、台ふきんを持ってきてキレイに拭き始める。
 藤堂は何故か満ち足りた気分になり、また薄ら笑いを浮かべた。



「それでは、打ち合わせに入りたいと思います」


 蝶々は自分なりにまとめた後藤心のスケジュールを打ち出した用紙をファイルから取り出した。


「今日の新しい報告は、後藤先生の“ギャンブルブック”をホッパーの新人賞にエントリーすることになりました。
 それでよかったですか?」


 後藤はまた自信なさげに下を向いている。


「新人賞、とれますかね?」


 後藤の声は聞き取れないほど小さかった。


「取れます!! 絶対大丈夫です!!」


 蝶々はうるさいほどの大きな声でそう言った。


「蝶々、そんな無責任な事を作家さんに言うもんじゃない。
 取れる可能性がある、だろ?
 後藤先生の場合は取れる可能性が大いにあります、だ」


 蝶々は尊敬の眼差しで藤堂を見る。

……さすが、私のゴッド。

 蝶々は禁止されているにも関わらず、またその名言をメモ帳に書き記した。


「でも、もう、僕は銀龍賞に向けてのネームを作っているんですけど」


「え? もうですか?」


 蝶々は顔を輝かせてそう聞いた。


「凄いです、後藤先生」


 後藤はそんな蝶々の賛辞を背中に聞きながら、綺麗に整理されている棚の中からA3判の方眼ノートを三冊取り出した。それを蝶々に手渡す。


「三冊も?
 ということは、三作品もネームがあるということですか?」


 蝶々は後藤の才能の引き出しの多さに嫉妬さえ覚えていた。


「蝶々さんが好きなのを選んでください。僕は蝶々さんが選んだのでいいですので……」


 蝶々は自分を信頼してそう言ってくれる後藤に心から感動した。そして、半分目を潤ませて藤堂を見ると、その藤堂はうさん臭げでイラついた目をして蝶々を睨んでいる。蝶々は藤堂からパッと目をそらした。


「で、でも……
 編集長からはストーリーに関しては本人に決めさせろと言われてるので、後藤先生が一番と思うものを私に教えていただけたら、なと」


「いや、蝶々さんが決めて下さい。僕は蝶々さんに担当をお願いした時点で、蝶々さんの言いなりになると決めたんです」


 さすがの蝶々も、この言葉には納得がいかなかった。


「私に全てを一任するのなら、あなたはこのホッパーではやってはいけませんよ。だって、私の手にかかればあなたの漫画はグロテスクなホラーになるでしょう。
 バトルのシーンでは血しぶきを浴びせ、最後の一撃にはまだ動いている心臓をえぐり出す……」


……あれ? どうしたの? 藤堂さんのやめろがないんですけど?


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