ココロオドル蝶々が舞う

便葉

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残念ながら華麗には舞えません

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 打ち合わせを終え後藤の部屋を出て行く時、藤堂がやっと重い口を開いた。


「後藤君……
今日の君にはちょっとがっかりしたよ。

 従来、作家と編集者というのはお互いいい漫画を作るという同じ目標があって信頼関係を築きあげるものなのに、君はもうそれを放棄しているようにしか見えない。
 蝶々はまだ半人前の編集者で、だからこうやって僕がついてる。

 その蝶々に全てを一任するって……

 後藤君、蝶々はここに君と恋愛ごっこをするためにきてるんじゃないんだ。もっと、自分の漫画にこだわりを持ってくれ。君がこんな状態なら、場合によっては担当替えも考えなくちゃならない。

 よく考えて漫画に向き合ってほしい」


 蝶々は藤堂の言葉に胸をえぐられる思いだった。ままごとごっこは、本来蝶々が仕向けたものだと思っていたから。


「いや、あの、藤堂さん……」


 蝶々が発した言葉をかき消すように後藤の低く重い声が響いた。


「もし、担当を他の人に替えるのなら、僕はホッパーから出て行きます。いまでも他の編集部から、たくさん声をかけてもらってますので……」


 藤堂はまた冷めた目つきで後藤を見た。


「ま、そうなったらその時にまた話をしよう」


「……分かりました」


 後藤も強圧的な目で藤堂を睨んでいる。


「あ、あの、すみませんけど……
 私は後藤先生の担当をおりる気はありませんので……
 なので、後藤先生はホッパーの看板犬になりますので……
 藤堂さん、余計な心配はご無用です……」


「看板犬って…… 後藤君は犬か?」


 藤堂はそう言って鼻で笑った。


「犬で全然結構……
 僕は蝶々さんに飼われるのなら犬にでも何にでもなります」


「わ、分かりました。
 後藤先生、でも、なってもらうからにはただの犬じゃ容赦しませんからね。ホッパーの未来を背負う優秀な看板犬になって下さい」


「ワン」


……ワン??

 藤堂はバカらしくて後藤の“はい”が“ワン”と聞こえるほどだ。

……あ~、こんな奴らと関わりたくない。

 藤堂はそう思いながらも、明日も蝶々の後をついて行きそうな自分が怖かった。



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