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ずっとずっと好きだった
⑦
しおりを挟む「可南子が謝ることはないよ。
帰り道が暗くて心配だったから、迎えにきただけだから…」
想太は立ち上がり「帰るぞ」と言って、可南子の手を取り歩き出した。
「想ちゃん、私達、もう十二歳じゃないの。
それぞれの生活もあるし、もう、子供じゃない。
でも、きっと、想ちゃんに見えてるのは、今の私じゃなくて、昔の子供の頃の私で…」
「違う」
可南子が言い終わらないうちに、想太がさえぎってそう否定した。
「違う。
そんな事くらい分かってる」
その後は二人とも黙ったまま、ただ、歩いた。可南子の家の前に着いた時に、想太は繋いでいた手をそっと離す。
「想ちゃん、今日はありがとう。
それと、ごめんね…
LINEもできなくて」
可南子がそう言うと、想太は可南子を引き寄せて強く抱きしめた。
「可南子の方から、俺とつき合いたいって絶対言わせてやるから。
想ちゃんがいなきゃ生きていけないって、絶対、言わせてやる…」
今日、可南子は横浜支社に行く日だ。
三日前から山本課長にそう言われていた。
理由は、想太に同行して一緒に挨拶回りをすることだった。
横浜支社には、坂上所長という気難しい上司がいる。どうしても仕事の都合がつかない山本が、教育係として可南子にお願いしてきた。
「朝倉さんは、坂上所長のお気に入りでもあるから、僕が行くよりも部長の役に立つと思うんだ。
忙しいとは思うんだが、引き受けてくれないか?」
可南子は、渋々引き受けた。
断る理由もなかったから…
可南子は部長室に想太を迎えに行くと、同行するのが可南子だと知って想太はとても喜んだ。
可南子が課長の代理で行く事を、課長も可南子もギリギリまで想太には黙っていた。
単純明快な想太の性格は、もう課長にもばれている。
「可南子、用事は午前で終わるんだろ?
お昼は中華街で食べようよ」
子供のようにはしゃぐ想太を見て、可南子は先が思いやられた。
電車の中で、想太に坂上所長との付き合い方を教え込まなければと真剣に思うほど。
想太と可南子が横浜支社に着くと、思いのほか歓迎ムードで驚いた。
どうやら、イケメン御曹司で若くてやり手の部長の噂は、本社を超えてここまで広まっている。
所長室へ向かう想太を若い女子社員がわざわざ見に来る始末で、でも、張本人の想太は、全く気に留めることもなくポーカーフェイスで歩いている。
可南子は電車の中で、坂上所長の人となりを想太に話そうとした。
「可南子、そんな事、俺にとってはどうでもいいことなんだけど。
その人がどういう人間かなんて、自分で判断するから、そんな情報要らない」
人を偏見を持って見たくない…
想太は、そう言った。
可南子は、しばらく落ち込んでいた。
人を偏見で判断しない。
考えてみたら、想太は何も変わっていない。
大人になったという理屈を並べて、一番変わったのは、きっと可南子自身だった。
「失礼します」
想太は堂々と坂上のいる部屋へ入って行く。
「おや、今日は、可南子ちゃんも一緒かい?」
坂上はそう言って、想太より先に可南子に話しかけてきた。
「所長、お久しぶりです。
今日は、山本課長の代理で部長に同行してきました」
坂上は可南子ににっこりと笑顔を浮かべ、そしてやっと想太に目を向けた。
「ハンサムな若い部長は、連れてくる部下も一流ですな。
美人で、気立てもいい、有能な女子社員を連れて来れるなんて羨ましい限りですよ」
可南子はまた始まったと思っていた。
この坂上という男はとにかく仕事のできる若手社員を潰すことで有名だった。
「ありがとうございます。
部下を褒めていただき嬉しい限りです。
それで、今日は、所長の方から本社の方に何か要望があるという話を聞いてきたのですが」
想太はひるむことなく淡々と仕事の話を進める。
「あ~、それは君じゃなくていいよ。
まだ、ここの会社の事など何も分かっちゃいないだろうから」
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