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ずっとずっと好きだった
⑧
しおりを挟む想太は鞄の中からファイルを取り出した。
そして、この横浜支社の過去5年間の実績を想太の言葉で説明し始めた。
坂上は最初は面倒くさそうに聞いていたが、想太の仕事の細かさと正確さに目を丸くしている。
想太は大口の営業や企業買収に関わる派手な仕事の実績は取り上げず、反対に、社内の備品や接待など見逃してしまいそうな数字のデータを突き付けてきた。
坂上は指摘されれば困る事でもあるのか、ただ頷くばかりだ。
可南子は、山本課長が想太の手腕をよく褒めていた事を思い出した。
上の人間にもはっきりと物が言えることを。
でも、それは負けず嫌いの想太の性格が、ここまでの努力をさせていた。
このデータも、一体いつ調べたのだろう…?
坂上は明らかに態度が変わった。
想太にどんな弱みを握られているのか、可南子には見当もつかない。
「部長、お昼はこちらで準備しましょうか?」
さっきまでの横柄な態度とは裏腹に、坂上は想太に必要以上に気を遣ってそう聞いてきた。
「いえ、結構です。
急な仕事を思い出して、すぐに帰らなきゃならないので」
「急な仕事だなんて言って…
何も仕事なんて入ってないじゃない」
可南子は機嫌よくビルの正面玄関から出て行く想太を見てため息をついた。
「可南子はあのおっさんとご飯食べる方が良かったんだろ?
仲良さそうだったし」
「別にそんなことないよ」
「可南子ちゃんなんて呼ばれてさ、お前らつき合ってんのかよって思ったよ」
想太は悔しいけれど、あの坂上にさえも嫉妬をしていた。
あのいやらしい目つきで可南子を見ている坂上の姿を思い出すだけで、今でも吐き気を覚える。
「バカ、つき合うなんて、地球がひっくり返ってもあり得ないから」
想太の言葉に本気で怒った可南子は、想太にそう言い返した。
「でも、今日の想ちゃんの対応の仕方には感動した。
いつの間にあれだけのデータをまとめ上げたの?
普通の人なら一週間はかかりそうなのに…」
「それは、俺が天才だからかな。
あれぐらい、一日あったらすぐ頭に入るよ」
海に面した公園を歩きながら想太は当たり前のように可南子の手を繋ぎ、大きく深呼吸をした。
可南子は想太の教育係として昼食にあまり時間をかけたくなかった。
でも、想太は中華街に入ったものの、一向に店に入ろうとしない。
「想ちゃん、どこかお店に入ろうよ」
「もうちょっと待って。
あそこまで行って見てからにしよう」
「もう、あんまり時間ないんだから」
「可南子、そんな真面目生きてても何もいい事ないだろ?
のんびり人生を楽しまなきゃ」
想太はそう言うと、店先で試食用の甘栗を配っているお姉さんから、また甘栗をもらっている。
「想ちゃん、もらい過ぎ。
子供でだってそんなにもらったりしないよ」
想太はもらった甘栗を手いっぱいに持っている。
「それって、教育係として言ってんの?
部長なんだから甘栗ばっかりもらっちゃいけませんって」
「それもあるけど…
それよりも早く昼ご飯を食べたい。
そして、早く会社に戻らないと」
「つまんない人間だな~」
想太はそう言いながら、また違うお姉さんから甘栗をもらっている。
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