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十二歳のままの俺
④
しおりを挟む可南子が自分のデスクに戻ると、美咲が待ち構えていた。
「可南子さん、どうでした?」
「うん、理由を聞かれたくらいかな…」
「理由って、瀬戸さんの事話したんですか?」
美咲は可南子と瀬戸修二のつき合いのいきさつを全て知っていた。
全てと言っても表向きの事情ではあるけれど…
「言うわけないよ。
異動の理由はそれだけじゃないし…」
「そうですよね」
「美咲、お願いがあるんだけど。
部長が何か聞いてきても瀬戸さんの事だけは黙っててほしいの。
もう、終わったことだから…」
「分かりました。
でも、部長はきっと可南子さんの事、気に入ってると思うんです。
なんか可南子さんを見る時の部長の目って、少年みたいに可愛いですよね。
瀬戸さんもいい男だったけど、可南子さんっていい男にモテるから、本当羨ましい…」
想太は山本と出先での仕事を済ませ、山本の運転する車で会社へ向かっていた。
今日、可南子の異動の話を知って以来、想太はずっとふさぎ込んでいる。
車の中でも全く喋らず外ばかりを眺めていた。
そんな想太を見かねた山本は、一人で勝手に喋り始めた。
「今回の人事異動には、部長も驚かれたんじゃないですか?」
「あ、ま、はい」
「朝倉さんも長いこと東京で頑張ってきたから、九州の方に帰りたくなったんでしょうね」
「課長、理由ってそれだけなんですか?」
想太は山本がちょっと困った顔をしたのを見逃さなかった。
「僕は、そんな風にしか聞いてないですよ…」
山本は明らかに動揺している。
一年前、山本は開発事業部の瀬戸から可南子と結婚する予定だと打ち明けられた。
山本は可南子の事も可愛がっていたため、お似合いのカップルだなと感心したのを覚えている。
しかし、その一か月後に二人は別れてしまった。
そして、それからしばらくして、可南子は異動届を会社に出した。
山本は今でもその瀬戸との事が、この異動の一番の理由だとそう思っている。
「部長、僕は何か納得できないんです。
そんな簡単な理由で、この本社でのキャリアや生活を手放すのかなって。
朝倉さんみたいに有能で真面目な人がもったいないじゃないですか?」
想太は山本の表情をずっと見ていた。
「ま、何か色々あったんでしょうね…」
山本は言葉を濁した。
内容が内容なだけに、自分がベラベラ話すことではないと思ったからだ。
「課長は何か知ってる感じですね?」
「いや、僕は何も知らないよ。
でも、ただ一つ言えるのは、朝倉さんには幸せになってもらいたい。
とってもいい子だから、幸せな結婚をしてもらいたい。
それだけです」
「朝倉さんって、もう二十七歳ですよね?
今までそんな結婚とかいう話はなかったんですか?」
想太の質問に山本は黙り込んでしまった。
想太にとっては、それだけで十分だった。
可南子には結婚を考えていた男がいた。
そいつは、多分、この会社の人間か?
想太はもう一度可南子と話そうと思い、可南子へLINEでメッセージを送った。
可南子はちょうど帰ろうとしているところに、想太からのメッセージが入った。
“もう一度ちゃんと話がしたいから、今日、あの店でご飯を食べよう”
可南子も同じように思っていた。
“了解です。
先に行って待ってるね”
可南子は先に店に入り、今日の想太の言動を思い出していた。
想ちゃんにどう言えば、分かってもらえるのだろう。
分かってもらおうなんていうのがおかしな話でしょ?
だって、本当の理由は隠しているのだから…
「ごめん、待った?」
颯爽と現れた想太は、本当にかっこよかった。
相変わらずスーツはルーズに着こなしているけれど、そのルーズさが想太の魅力を引き立たせている。
長身の体にハーフのような端正な顔立ち、でも笑うとくしゃくしゃになる可愛らしい笑顔が想太の一番の魅力だった。
それは、昔も今も変わらない…
「ううん、私も今着いたとこ」
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