君のそばで会おう ~We dreamed it~

便葉

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つまらない嫉妬

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「柿谷のおじさんは忙しい人だったし、俺の世話はお手伝いさんがしてくれた。
高校からは東京じゃないところに行ったから、ずっと一人暮らしだろ。

なんか可南子の部屋に来て、福岡でのばあちゃんとの生活を思い出したよ」


想太は可南子の部屋を見回して、幸せそうな顔をしている。
可南子はそんな想太の手からコーヒーを受け取ると、それをテーブルに置いた。
そして、可南子の方から想太に抱きついた。


「この間はごめんね…
想ちゃんの過去には興味はないって言って。
本当は、想ちゃんの過去を聞くのが怖かった…
寂しい思いをしてきたことは分かってたから…

これからは、今の想ちゃんとちゃんと向かい合う。だから許してほしい、本当にごめんね…」


可南子はそう言うと、想太の頬に軽くキスをした。
想太は堪えきれずに、可南子のくちびるをキスで封じる。

ソフトなキスとは到底言えないほど、激しく、長く…

想太はキスだけでやめるとずっと心で唱えながら、可南子の吐息を酔いしれた。

想太は無理やり自分の体を可南子から引き離す。それなのに可南子の方からまた抱きついてくる。


「こんなに長い時間キスしたの初めて…」


「本当はもっと先の事がしたいけど、今日は我慢する…
可南子の口から、俺とつき合いたいって言わせるまでは…」


想太はそう言うと、笑ってもう一度可南子に軽いキスをした。


「可南子、俺の家も見てみるか?
二十八階の部屋からの夜景の眺めは最高なんだから」


そして想太は可南子の手を引いて、自分のマンションへ向かった。
想太のマンションはこの辺りでも目を引くほどの高層マンションだ。

可南子はここに想太が住んでいると聞いた時に、改めて、想太が御曹司であることを認識したくらい。

そして、中へ入るとそこは想像を絶するほどの豪華な部屋だった。リビングは一面の窓ガラスで囲まれている。そこからは東京タワーもよく見えた。

でもなぜだろう…
可南子はとても切なかった。
想太の部屋には家具が一つも置いていなかった。
リビングにはソファが一つあるだけで、テレビもない。

何もない中に、使い古しのスーツケースが部屋の隅に無造作に転がっている。


「ねえ、今から家具とか買うの?」


可南子が理解できずにそう聞くと、想太は無理に笑みを浮かべた。


「ううん、このまま。
クローゼットがあるから家具とか要らないし、実際、家には寝に帰るだけだから」


「でも、これじゃ寂しすぎるよ」


「もう慣れたから全然平気」


可南子は想太が昔住んでいた福岡の団地を思い出した。
2DKの小さな家は、想太のおばあちゃんの愛で満ちあふれていた。
壁には想太が描いた絵が、棚には想太の赤ちゃんの頃からの写真が所せましと飾られていて、おばあちゃんが想太を大切に思っている事が見てすぐに分かった。
決して贅沢ではなかったけれど、可南子にとっても居心地のいい大好きな空間だった。
可南子はなんだか泣けてきた。
涙が止まらなかった。


「可南子、どうした? 
大丈夫か?」


「想ちゃん、明日から夕飯はうちで食べよう。
分かった? 絶対だよ…」





~十五年前~


「可南ちゃん」


可南子は小学校の前の通りを歩いていたら、道の角にある駄菓子屋の前で、想太のおばあちゃんに会った。


「あ、おばあちゃん、こんにちは」


「今から、塾かい?
可南ちゃんは忙しいね」


「はい」


可南子は小さな声で答えた。


「可南ちゃん、明日は何の日か知ってる?」


おばあちゃんは優しい顔で聞いてきた。


「想ちゃんの誕生日」


「可南ちゃんは、明日は家に遊びに来れないかな?」


「明日は塾で行けないんです。
でも、土曜日だったら大丈夫なんだけど、誕生日じゃない日になっちゃう」


「じゃ、可南ちゃん、土曜日に想太の家に遊びにおいで。
その日に想太の誕生日会をしてあげるから」


「でも、誕生日の日じゃなくなるけどいいんですか?」


可南子は申し訳なさそうに聞いた。


「大丈夫よ。
想太もその方が喜ぶしね。

だって、可南ちゃんはおばあちゃんと想太にとって、大切な家族と一緒なんだから…

可南ちゃんの好きな卵のサンドイッチを作っておくからね」



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