37 / 67
つまらない嫉妬
⑥
しおりを挟む「柿谷のおじさんは忙しい人だったし、俺の世話はお手伝いさんがしてくれた。
高校からは東京じゃないところに行ったから、ずっと一人暮らしだろ。
なんか可南子の部屋に来て、福岡でのばあちゃんとの生活を思い出したよ」
想太は可南子の部屋を見回して、幸せそうな顔をしている。
可南子はそんな想太の手からコーヒーを受け取ると、それをテーブルに置いた。
そして、可南子の方から想太に抱きついた。
「この間はごめんね…
想ちゃんの過去には興味はないって言って。
本当は、想ちゃんの過去を聞くのが怖かった…
寂しい思いをしてきたことは分かってたから…
これからは、今の想ちゃんとちゃんと向かい合う。だから許してほしい、本当にごめんね…」
可南子はそう言うと、想太の頬に軽くキスをした。
想太は堪えきれずに、可南子のくちびるをキスで封じる。
ソフトなキスとは到底言えないほど、激しく、長く…
想太はキスだけでやめるとずっと心で唱えながら、可南子の吐息を酔いしれた。
想太は無理やり自分の体を可南子から引き離す。それなのに可南子の方からまた抱きついてくる。
「こんなに長い時間キスしたの初めて…」
「本当はもっと先の事がしたいけど、今日は我慢する…
可南子の口から、俺とつき合いたいって言わせるまでは…」
想太はそう言うと、笑ってもう一度可南子に軽いキスをした。
「可南子、俺の家も見てみるか?
二十八階の部屋からの夜景の眺めは最高なんだから」
そして想太は可南子の手を引いて、自分のマンションへ向かった。
想太のマンションはこの辺りでも目を引くほどの高層マンションだ。
可南子はここに想太が住んでいると聞いた時に、改めて、想太が御曹司であることを認識したくらい。
そして、中へ入るとそこは想像を絶するほどの豪華な部屋だった。リビングは一面の窓ガラスで囲まれている。そこからは東京タワーもよく見えた。
でもなぜだろう…
可南子はとても切なかった。
想太の部屋には家具が一つも置いていなかった。
リビングにはソファが一つあるだけで、テレビもない。
何もない中に、使い古しのスーツケースが部屋の隅に無造作に転がっている。
「ねえ、今から家具とか買うの?」
可南子が理解できずにそう聞くと、想太は無理に笑みを浮かべた。
「ううん、このまま。
クローゼットがあるから家具とか要らないし、実際、家には寝に帰るだけだから」
「でも、これじゃ寂しすぎるよ」
「もう慣れたから全然平気」
可南子は想太が昔住んでいた福岡の団地を思い出した。
2DKの小さな家は、想太のおばあちゃんの愛で満ちあふれていた。
壁には想太が描いた絵が、棚には想太の赤ちゃんの頃からの写真が所せましと飾られていて、おばあちゃんが想太を大切に思っている事が見てすぐに分かった。
決して贅沢ではなかったけれど、可南子にとっても居心地のいい大好きな空間だった。
可南子はなんだか泣けてきた。
涙が止まらなかった。
「可南子、どうした?
大丈夫か?」
「想ちゃん、明日から夕飯はうちで食べよう。
分かった? 絶対だよ…」
~十五年前~
「可南ちゃん」
可南子は小学校の前の通りを歩いていたら、道の角にある駄菓子屋の前で、想太のおばあちゃんに会った。
「あ、おばあちゃん、こんにちは」
「今から、塾かい?
可南ちゃんは忙しいね」
「はい」
可南子は小さな声で答えた。
「可南ちゃん、明日は何の日か知ってる?」
おばあちゃんは優しい顔で聞いてきた。
「想ちゃんの誕生日」
「可南ちゃんは、明日は家に遊びに来れないかな?」
「明日は塾で行けないんです。
でも、土曜日だったら大丈夫なんだけど、誕生日じゃない日になっちゃう」
「じゃ、可南ちゃん、土曜日に想太の家に遊びにおいで。
その日に想太の誕生日会をしてあげるから」
「でも、誕生日の日じゃなくなるけどいいんですか?」
可南子は申し訳なさそうに聞いた。
「大丈夫よ。
想太もその方が喜ぶしね。
だって、可南ちゃんはおばあちゃんと想太にとって、大切な家族と一緒なんだから…
可南ちゃんの好きな卵のサンドイッチを作っておくからね」
0
あなたにおすすめの小説
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
空蝉
杉山 実
恋愛
落合麻結は29歳に成った。
高校生の時に愛した大学生坂上伸一が忘れれない。
突然、バイクの事故で麻結の前から姿を消した。
12年経過した今年も命日に、伊豆の堂ヶ島付近の事故現場に佇んでいた。
父は地銀の支店長で、娘がいつまでも過去を引きずっているのが心配の種だった。
美しい娘に色々な人からの誘い、紹介等が跡を絶たない程。
行き交う人が振り返る程綺麗な我が子が、30歳を前にしても中々恋愛もしなければ、結婚話に耳を傾けない。
そんな麻結を巡る恋愛を綴る物語の始まりです。
空蝉とは蝉の抜け殻の事、、、、麻結の思いは、、、、
数合わせから始まる俺様の独占欲
日矩 凛太郎
恋愛
アラサーで仕事一筋、恋愛経験ほぼゼロの浅見結(あさみゆい)。
見た目は地味で控えめ、社内では「婚期遅れのお局」と陰口を叩かれながらも、仕事だけは誰にも負けないと自負していた。
そんな彼女が、ある日突然「合コンに来てよ!」と同僚の女性たちに誘われる。
正直乗り気ではなかったが、数合わせのためと割り切って参加することに。
しかし、その場で出会ったのは、俺様気質で圧倒的な存在感を放つイケメン男性。
彼は浅見をただの数合わせとしてではなく、特別な存在として猛烈にアプローチしてくる。
仕事と恋愛、どちらも慣れていない彼女が、戸惑いながらも少しずつ心を開いていく様子を描いた、アラサー女子のリアルな恋愛模様と成長の物語。
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚
日下奈緒
恋愛
仕事の契約を打ち切られ、年末をあと1か月残して就職活動に入ったつむぎ。ある日街で車に轢かれそうになるところを助けて貰ったのだが、突然週末婚を持ち出され……
社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"
桜井 響華
恋愛
派遣受付嬢をしている胡桃沢 和奏は、副社長専属秘書である相良 大貴に一目惚れをして勢い余って告白してしまうが、冷たくあしらわれる。諦めモードで日々過ごしていたが、チャンス到来───!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる