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つないだ手、たくさんのキス
②
しおりを挟む想太と瀬戸は、会社から少し離れたファミレスで待ち合わせをした。
先に着いた想太はコーヒーだけを注文して待っていると、瀬戸が遅れてやってきた。
瀬戸は軽く謝ると想太の前に座った。
想太は瀬戸に対して言いたい事は山ほどあったが、ここはひとまず我慢をして冷静に対応することにした。
「相談っていうのは?」
想太が気を遣ってそう聞くと、瀬戸は鼻でふっと笑った。
「部長が、僕の身辺を探っているのは同僚から聞いて知っています。
朝倉さんのことでしょう?
僕と朝倉さんのことが気になりますか?」
瀬戸は昨日の可南子と想太のやりとりがずっと頭から離れなかった。
可南子の事は自分の中では整理したつもりでいるが、でも中々簡単ではない。
だって可南子の事は本気で愛していたし、もちろん本気で結婚したいと思っていたから。
瀬戸の目に映る想太は、ただのボンボンにしか見えない。百歩譲っても、可南子がこんな男とつき合うことを見過ごすことはできなかった。
「気になる?
気にならないと言えば嘘になるかな。
僕は、ただ、朝倉さんの長崎への異動がどうにかならないかと思っただけです。
別れた男のために、自分のキャリアを捨てて田舎へ引っ込むのはどうかと思って。
完全に終わっているならどうでもいいことでしょう?」
「朝倉さんがそう言ったんですか?」
「彼女は何も言いませんよ。
逆にあなたをかばいますから」
想太は可南子がこの図体のでかい男のどこが良かったのだろうと、疑問に思った。
瀬戸を見ていると理由もなく腹が立ってくる。
こいつに抱かれたのか?
想太は自分で自分自身を追い詰め、テーブルの下で拳を握りしめた。
ヤバい、コイツをぶん殴りたい。
でも、そんな事をしたらきっと可南子が傷つくだけだし、その前に俺が可南子にぶん殴られる。
想太は瀬戸の顔を冷めた目で睨みながら、そんなくだらない事を考えていた。
「部長は、朝倉さんの事が好きなんでしょう?」
「好きですよ。
会った時から、ずっとね」
「やっぱり…
でも、可南は迷惑がってるんじゃないですか?
若くて地位も権力も持っている人間は、何でも自分の物にしないと気が済まない病気とか?
もう、可南に近づかないで下さい。
彼女はしっかりしているようで内面はすごく弱い女性です。
彼女の上司なら、ちゃんと理解してあげて下さい」
想太は息ができなかた。
瀬戸の並べ立てた言葉はもちろんのこと、一番にイラつかせたのは可南子のことを可南と呼ぶ瀬戸という人間に、はらわたが煮えくり返った。
いつもはポーカーフェイスの想太も、今回ばかりは冷静を装う事が難しい。
「でも、それは朝倉さんが決めることでしょう?
朝倉さんとは話はされたんですか?
本人にそういう事を言われるのなら、それはしっかり考えます。
でも、あなたは別れた彼氏でしょう?
あなたに言われてもね…」
想太は早く帰りたいと思った。
早く帰らなければ、瀬戸に殴りかかるのも時間の問題だ。
待ちくたびれている可南子のスマホに、想太から電話が入った。
「可南子、ごめん。
今、駅に着いたから、ワインか何か買ってこようか?」
「要らない。
いいから早く帰って来て」
可南子は電話を切ると、全ての料理を温め直した。
きっと想太はお腹を空かしているはずだから…
「可南子、本当にごめん。
俺的には七時には間に合う予定だったんだけど、こんなに遅くなって」
「いいよ。
想ちゃんは部長で忙しい身なんだから。
大丈夫だから」
可南子はそう言うと、想太をテーブルの前に座らせた。
「今日はカレーにしたんだけど、想ちゃんの大好物も作ったんだ。
何だと思う?」
さっきまで不機嫌だった可南子は、もう楽しそうだ。
「何だろう?」
想太は好き嫌いのない子供だったため本当に思い出せない。
「じゃ~ん」
可南子がテーブルの上に置いたのは、黄色い艶のある卵焼きだった。
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