君のそばで会おう ～We dreamed it～

つないだ手、たくさんのキス

⑥

「部長のおばあちゃんが亡くなった後に、親戚の柿谷社長が養子にした…

そして、今の部長がいる。
何もおかしな話じゃない」


「それで？
二人は、久しぶりに再会した。
子供の頃の恋愛ごっこの続きが始まったわけだ」


瀬戸はこんなバカバカしい話を信じる気になれなかった。


「じゃ、なんでこの年になるまで連絡がなかったんだ？

可南の事は忘れてたんだろ？
あいつ、遊んでそうだもんな。
女にもモテそうだし」


瀬戸はどうにかして可南子に目を覚ましてもらいたかった。


「それには色々な事情があって…
お互いに手紙が届かなかったことで、私達の行く道はおかしくなった。

それに、まだ子供だった私達には何もできなかった。
私も想ちゃんも、運命の流れの中でそれなりに努力したけど、でもお互いを見つけられなかった。

それが十五年も続いたの…」


可南子は泣きそうになったが、瀬戸の前で泣くわけにはいかない。


「嘘みたいだけど、私達、やっと出会えたんだ…」



瀬戸は何も言えなかった。
可南子とつき合っている頃にも、可南子は子供の頃に大好きだった男の子の話をよくしてくれた。
ある日、瀬戸は可南子にこう言ったことがある。


「そんなにお互い大好きだったのに、なんで会えないんだ？
今のネット社会だったらすぐに見つかりそうなのにさ。

もしかして、その男の子、もう死んじゃってたりして」


可南子はそれから一週間泣き続けた。
瀬戸が謝ると「修二君を怒ってるわけじゃない」と言いながら…


「私の心の中にその不安はいつもつきまとってて…
死んだと思った方が楽なのかもしれないって、いつも考えてる…」


瀬戸は可南子の心にこんな闇がある事に驚き、そして途方に暮れたのを覚えている。

瀬戸はもし本当にあの男の子が柿谷部長なら、自分には全く勝ち目がないと思った。
潔く、負けを認めるしかないと…


「分かったよ」


瀬戸がそう言うと、可南子は潤んだ瞳で瀬戸を見る。


「修二君、今までごめんね…
そして、ありがとう…
私、絶対に幸せになるから…」


「俺は、お前の話を信じるよ…
あの柿谷っていう男は、今でもあんまり好きになれないけどきっといい奴なんだろ？

それで、異動はどうするんだ？
俺を思ってのことだったら取り消していいから。
だって、長崎は遠いだろ…」


瀬戸は可南子にはどうしても幸せになってほしかった。
部長が現れる前の話だとしても、この異動は自分の中でも腑に落ちない。


「長崎には行く。
会社に迷惑はかけられないから…」