君のそばで会おう ~We dreamed it~

便葉

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ずっと言いたかったんだ

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可南子は家に帰り着くと、自分のために軽く夕食を作った。
瀬戸と話し込んだせいで何も口にしていなかった事に、家に帰り着いてホッとした今気が付いた。

可南子が部屋着に着替えて作ったチャーハンを食べていると、マンションの正面玄関の方のチャイムが鳴った。

モニターを覗いてみると、そこには紙袋を抱えた想太が立っている。
可南子はすぐに開錠して、想太を招き入れた。

想太は会社にいたままの恰好で、接待先から直接来たようだ。


「想ちゃん、どうしたの?」


「突然だけど、泊まりに来た」


「え?」


「一回、ちゃんと家に帰ったんだけどさ、もう、俺、あの家無理だわ」


「無理って?」


「可南子の温かい雰囲気の家に体が慣れちゃったみたいでさ、一分も居れなかった。

それに、明日は土曜日だろ?
ちゃんとほら、着替えも持ってきたし」


それであの紙袋を持っていたんだ…
可愛い想ちゃん…

私だって何だか寂しかった。
想ちゃんが近くにいないと、私の方がダメみたい…



「可南子、何を食べてるの?」


スウェットに着替えた想太は、美味しそうな匂いに反応した。


「夕食をあまり食べれなかったから、チャーハンを作ったの。
想ちゃんも、食べる?」


可南子は今夜瀬戸と会った事は、 想太には黙っておこうと思った。
いつかは話そうと思ってはいるけれど、それは今日じゃなくてもいいはず。
今、こんなに穏やかな想太の笑顔を消したくない。


「いいや…
俺達、今日は銀座で寿司だったんだ」


「いいな~」


「今度、一緒に行こう。
明日の夜でもいいし」


「そんないいお店だったら、予約なしじゃ入れないよ」


「そっか」


想太は、残念そうにうつむいた。


「別に、銀座の寿司とかじゃなくていいよ。
想ちゃんが一緒だったら、近所のくるくる寿しでも全然OK。

家で手巻き寿しパーティでもいいし」


「可南子、早くチャーハン食べ終わって」


想太はそう言うと、ソファの隣をポンポンと叩いた。


可南子がソファに座ると、想太は可南子の足元に座った。
180㎝ほどの想太にとって、このソファに二人で座るのは窮屈なのだろう。
もっと大きめのソファにしとけばよかったと、可南子は少し後悔した。

可南子は目の前にある想太の髪を、綺麗にくしで梳かし始めた。
可南子の足元に座っている想太の頭は、髪を梳くのにちょうどいい高さだった。


「想ちゃん、もうちょっとここら辺短く切っちゃえば?
あと、ここもこうやって」


可南子が想太の髪で遊んでいると、それを鏡で見ていた想太は変顔をして可南子を笑わせる。


「可南子は俺を、十二歳の時の坊ちゃん刈りしたいんだろ?」


「分かった? いいじゃん。
あの時の髪形好きだったのに」


「嫌だ。
あの髪形、ばあちゃんが切ってたのに。
無理、無理」


すると、今度は想太がソファに座り、可南子を下におろした。


「あの頃の可南子は、学校ではおさげで普段はポニーテールだったよな」


想太は可南子の柔らかい髪を手に取りながら話した。


「おさげは無理だからね。
ポニーテールはよくしてるでしょ」


「でも、昔の可南子は前髪があったんだよな~
それも、ぱっつんの。
あれ、めちゃくちゃ可愛かった」


想太は可南子を自分の方へ向かせ、前髪を指のはさみでチョキチョキ切るふりをする。


「前髪作っちゃったら、一気に幼くなるから嫌なの」


「別に今のままで、全然いいよ。
俺は今の可南子も大好きだから。

ってか、別になんでもいいんだ。
もし可南子が坊主でも、俺はきっと可愛いと思う」


可南子は吹き出した。


「坊主にはならないよ。

う~ん、でも、私は嫌かも…
想ちゃんの坊主…」


「マジか~~」


小さなソファの上で二人は笑いながら重なり合う。
幸せの空間にキスの雨を降らしながら…



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