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ずっと言いたかったんだ
①
しおりを挟む可南子は家に帰り着くと、自分のために軽く夕食を作った。
瀬戸と話し込んだせいで何も口にしていなかった事に、家に帰り着いてホッとした今気が付いた。
可南子が部屋着に着替えて作ったチャーハンを食べていると、マンションの正面玄関の方のチャイムが鳴った。
モニターを覗いてみると、そこには紙袋を抱えた想太が立っている。
可南子はすぐに開錠して、想太を招き入れた。
想太は会社にいたままの恰好で、接待先から直接来たようだ。
「想ちゃん、どうしたの?」
「突然だけど、泊まりに来た」
「え?」
「一回、ちゃんと家に帰ったんだけどさ、もう、俺、あの家無理だわ」
「無理って?」
「可南子の温かい雰囲気の家に体が慣れちゃったみたいでさ、一分も居れなかった。
それに、明日は土曜日だろ?
ちゃんとほら、着替えも持ってきたし」
それであの紙袋を持っていたんだ…
可愛い想ちゃん…
私だって何だか寂しかった。
想ちゃんが近くにいないと、私の方がダメみたい…
「可南子、何を食べてるの?」
スウェットに着替えた想太は、美味しそうな匂いに反応した。
「夕食をあまり食べれなかったから、チャーハンを作ったの。
想ちゃんも、食べる?」
可南子は今夜瀬戸と会った事は、 想太には黙っておこうと思った。
いつかは話そうと思ってはいるけれど、それは今日じゃなくてもいいはず。
今、こんなに穏やかな想太の笑顔を消したくない。
「いいや…
俺達、今日は銀座で寿司だったんだ」
「いいな~」
「今度、一緒に行こう。
明日の夜でもいいし」
「そんないいお店だったら、予約なしじゃ入れないよ」
「そっか」
想太は、残念そうにうつむいた。
「別に、銀座の寿司とかじゃなくていいよ。
想ちゃんが一緒だったら、近所のくるくる寿しでも全然OK。
家で手巻き寿しパーティでもいいし」
「可南子、早くチャーハン食べ終わって」
想太はそう言うと、ソファの隣をポンポンと叩いた。
可南子がソファに座ると、想太は可南子の足元に座った。
180㎝ほどの想太にとって、このソファに二人で座るのは窮屈なのだろう。
もっと大きめのソファにしとけばよかったと、可南子は少し後悔した。
可南子は目の前にある想太の髪を、綺麗にくしで梳かし始めた。
可南子の足元に座っている想太の頭は、髪を梳くのにちょうどいい高さだった。
「想ちゃん、もうちょっとここら辺短く切っちゃえば?
あと、ここもこうやって」
可南子が想太の髪で遊んでいると、それを鏡で見ていた想太は変顔をして可南子を笑わせる。
「可南子は俺を、十二歳の時の坊ちゃん刈りしたいんだろ?」
「分かった? いいじゃん。
あの時の髪形好きだったのに」
「嫌だ。
あの髪形、ばあちゃんが切ってたのに。
無理、無理」
すると、今度は想太がソファに座り、可南子を下におろした。
「あの頃の可南子は、学校ではおさげで普段はポニーテールだったよな」
想太は可南子の柔らかい髪を手に取りながら話した。
「おさげは無理だからね。
ポニーテールはよくしてるでしょ」
「でも、昔の可南子は前髪があったんだよな~
それも、ぱっつんの。
あれ、めちゃくちゃ可愛かった」
想太は可南子を自分の方へ向かせ、前髪を指のはさみでチョキチョキ切るふりをする。
「前髪作っちゃったら、一気に幼くなるから嫌なの」
「別に今のままで、全然いいよ。
俺は今の可南子も大好きだから。
ってか、別になんでもいいんだ。
もし可南子が坊主でも、俺はきっと可愛いと思う」
可南子は吹き出した。
「坊主にはならないよ。
う~ん、でも、私は嫌かも…
想ちゃんの坊主…」
「マジか~~」
小さなソファの上で二人は笑いながら重なり合う。
幸せの空間にキスの雨を降らしながら…
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