34 / 48
花火
1
しおりを挟む
ひまわりは、久しぶりにさくらに電話をした。
何故だか無性にさくらが恋しくて、そして、今日の海人の様子を誰かに話したかった。
海人との事を話せるのはさくらしかいないし、胸一杯に膨れあがった不安をさくらの明るさで一蹴してほしかった。
案の定、ひまわりの話を聞いたさくらは、豪快に笑ってくれた。
「ひまちゃん、恋してる証拠だね。
海人さんだって人間なんだから、疲れて誰とも話したくない時だってあるよ。
明日にはきっと元気になって、普通の海人さんに戻ってるって」
ひまわりが何も言わずに黙っていると、さくらはまた笑った。
「ひまちゃんと海人さんは愛し合ってるんだから、自信を持ちなさい」
さくらは明るい声でひまわりを諭し、電話を切った。
ひまわりの心にかかった靄は晴れることはなかったけれど、深く考えるのをやめた。
明日は、海人が嫌がっても近くにいて寄り添おう。
苦しんでいるのなら、そんな時こそ側にいてあげたいから…
また、僕は、夢を見た。
遠くで、母さんや妹達が、僕を呼んでいる。
僕はその場にうずくまり、頭を抱えて泣いた。
海人は午前の仕事を終え、民宿の玄関先でひまわりを待った。
昨夜はひまわりに電話もしなかったため今日はここに来ないのではないかと気になっていたが、ひまわりはいつものバスに乗っていつもの時間に来てくれた。
海人に気付いて嬉しそうに手を振るひまわりを見て、海人は胸が詰まり泣きそうになった。
「海人さんが元気になってくれて、本当に良かった」
ひまわりは、必要以上に海人を問い詰めることはしなかった。そして、お弁当の中身にも、海人の体調を気遣うひまわりの優しさが詰まっている。
海人は、いつかは、ひまわりにも話しておかなければならないと思っている。
僕の中で起きている変化と、そしてその先にあるものを…
サチの言うように、このままここに留まれるのならその時は笑い話になればいい。
僕は、今を精一杯生きるだけ。
僕がここで生きるための原動力はひまわりで、彼女のためにこの時代で生きていくと決めたのだから。
「昨日は、本当にごめん。一日寝たら、だいぶ元気になったよ。
まだ、ちょっと頭痛はするんだけど、ひまわりの顔を見たら痛みも消えた」
海人は、無理に明るく振る舞った。
しかし、そんな海人を見て、ひまわりは目を伏せため息をつく。
「海人さん、私の前では無理しないでほしいの。
私は、海人さんの苦しみも、悲しみも、一緒に分かち合いたいと思ってる。
私を大切に思うなら、なんでも話してほしい。
一人で苦しまないで…」
ひまわりは海人の手を優しく握りしめる。
海人は何度もごめんと言いながら、ひまわりを抱き寄せた。
母さん、まだ、僕を迎えに来ないでください…
僕は、彼女を一人にして行ってしまうわけにはいかないんだ。
母さん、僕は、できることなら、彼女と一緒にいたい…
この時代で、永遠に…
気丈に振る舞うひまわりを抱きしめながら、海人は堪えきれずに泣いた。
きっと、僕とひまわりは、何かの拍子に出会ってしまったのかもしれない。
二つの全く違う時代に訪れた悲しい奇跡…
何で悲しいかって…?
だって、僕は、生きてるようで死んでいるのだから…
ひまわりと海人はお弁当を食べた後、窓際に座り二人で海を見た。
海人の部屋から見える海の景色は、岩場に打ちつける波が際立つ荒れた海だ。
海人は昨日よりは元気になったように見えるが、まだ、表情は沈んでいる。
ひまわりは隣に座っているのに、遥か遠くに海人を感じていた。
「ひまわりに、話しておきたいことがあるんだ。
でも、もう少し待ってほしい。
僕の気持ちに余裕ができて体調が良くなったら、ちゃんとひまわりに聞いてもらう。
僕は、ひまわりには隠し事はしない。
それは、絶対に約束する…
でも、今はごめん、もう少し待ってほしいんだ」
ひまわりは、これ以上、海人の苦しむ姿を見たくなかった。
「分かった。
私は、海人さんが早く元気になってくれるだけでいい。
だから、話したくなければ、話さなくても全然構わない。
私は海人さんが側にいてくれるだけで、それだけでいいんだから」
海人は困ったように切ない笑みを浮かべた。
この時のひまわりは、海人のこの表情の意味する事をまるで分からない。
「明後日、この近くで花火大会があるって聞いたんだけど、一緒に行こうか?」
「行きたい。でも、仕事は大丈夫?」
ひまわりは嬉しくて子供のようにはしゃいだ。
「サチさんに聞いてみるよ。
また、今夜に電話する」
何故だか無性にさくらが恋しくて、そして、今日の海人の様子を誰かに話したかった。
海人との事を話せるのはさくらしかいないし、胸一杯に膨れあがった不安をさくらの明るさで一蹴してほしかった。
案の定、ひまわりの話を聞いたさくらは、豪快に笑ってくれた。
「ひまちゃん、恋してる証拠だね。
海人さんだって人間なんだから、疲れて誰とも話したくない時だってあるよ。
明日にはきっと元気になって、普通の海人さんに戻ってるって」
ひまわりが何も言わずに黙っていると、さくらはまた笑った。
「ひまちゃんと海人さんは愛し合ってるんだから、自信を持ちなさい」
さくらは明るい声でひまわりを諭し、電話を切った。
ひまわりの心にかかった靄は晴れることはなかったけれど、深く考えるのをやめた。
明日は、海人が嫌がっても近くにいて寄り添おう。
苦しんでいるのなら、そんな時こそ側にいてあげたいから…
また、僕は、夢を見た。
遠くで、母さんや妹達が、僕を呼んでいる。
僕はその場にうずくまり、頭を抱えて泣いた。
海人は午前の仕事を終え、民宿の玄関先でひまわりを待った。
昨夜はひまわりに電話もしなかったため今日はここに来ないのではないかと気になっていたが、ひまわりはいつものバスに乗っていつもの時間に来てくれた。
海人に気付いて嬉しそうに手を振るひまわりを見て、海人は胸が詰まり泣きそうになった。
「海人さんが元気になってくれて、本当に良かった」
ひまわりは、必要以上に海人を問い詰めることはしなかった。そして、お弁当の中身にも、海人の体調を気遣うひまわりの優しさが詰まっている。
海人は、いつかは、ひまわりにも話しておかなければならないと思っている。
僕の中で起きている変化と、そしてその先にあるものを…
サチの言うように、このままここに留まれるのならその時は笑い話になればいい。
僕は、今を精一杯生きるだけ。
僕がここで生きるための原動力はひまわりで、彼女のためにこの時代で生きていくと決めたのだから。
「昨日は、本当にごめん。一日寝たら、だいぶ元気になったよ。
まだ、ちょっと頭痛はするんだけど、ひまわりの顔を見たら痛みも消えた」
海人は、無理に明るく振る舞った。
しかし、そんな海人を見て、ひまわりは目を伏せため息をつく。
「海人さん、私の前では無理しないでほしいの。
私は、海人さんの苦しみも、悲しみも、一緒に分かち合いたいと思ってる。
私を大切に思うなら、なんでも話してほしい。
一人で苦しまないで…」
ひまわりは海人の手を優しく握りしめる。
海人は何度もごめんと言いながら、ひまわりを抱き寄せた。
母さん、まだ、僕を迎えに来ないでください…
僕は、彼女を一人にして行ってしまうわけにはいかないんだ。
母さん、僕は、できることなら、彼女と一緒にいたい…
この時代で、永遠に…
気丈に振る舞うひまわりを抱きしめながら、海人は堪えきれずに泣いた。
きっと、僕とひまわりは、何かの拍子に出会ってしまったのかもしれない。
二つの全く違う時代に訪れた悲しい奇跡…
何で悲しいかって…?
だって、僕は、生きてるようで死んでいるのだから…
ひまわりと海人はお弁当を食べた後、窓際に座り二人で海を見た。
海人の部屋から見える海の景色は、岩場に打ちつける波が際立つ荒れた海だ。
海人は昨日よりは元気になったように見えるが、まだ、表情は沈んでいる。
ひまわりは隣に座っているのに、遥か遠くに海人を感じていた。
「ひまわりに、話しておきたいことがあるんだ。
でも、もう少し待ってほしい。
僕の気持ちに余裕ができて体調が良くなったら、ちゃんとひまわりに聞いてもらう。
僕は、ひまわりには隠し事はしない。
それは、絶対に約束する…
でも、今はごめん、もう少し待ってほしいんだ」
ひまわりは、これ以上、海人の苦しむ姿を見たくなかった。
「分かった。
私は、海人さんが早く元気になってくれるだけでいい。
だから、話したくなければ、話さなくても全然構わない。
私は海人さんが側にいてくれるだけで、それだけでいいんだから」
海人は困ったように切ない笑みを浮かべた。
この時のひまわりは、海人のこの表情の意味する事をまるで分からない。
「明後日、この近くで花火大会があるって聞いたんだけど、一緒に行こうか?」
「行きたい。でも、仕事は大丈夫?」
ひまわりは嬉しくて子供のようにはしゃいだ。
「サチさんに聞いてみるよ。
また、今夜に電話する」
0
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
【完】お兄ちゃんは私を甘く戴く
Bu-cha
恋愛
親同士の再婚予定により、社宅の隣の部屋でほぼ一緒に暮らしていた。
血が繋がっていないから、結婚出来る。
私はお兄ちゃんと妹で結婚がしたい。
お兄ちゃん、私を戴いて・・・?
※妹が暴走しておりますので、ラブシーン多めになりそうです。
苦手な方はご注意くださいませ。
関連物語
『可愛くて美味しい真理姉』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高13位
『拳に愛を込めて』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高29位
『秋の夜長に見る恋の夢』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高17位
『交際0日で結婚!指輪ゲットを目指しラスボスを攻略してゲームをクリア』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位
『幼馴染みの小太郎君が、今日も私の眼鏡を外す』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高8位
『女社長紅葉(32)の雷は稲妻を光らせる』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 44位
『女神達が愛した弟』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高66位
『ムラムラムラムラモヤモヤモヤモヤ今日も秘書は止まらない』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高32位
私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。
伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。
物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。
小さな恋のトライアングル
葉月 まい
恋愛
OL × 課長 × 保育園児
わちゃわちゃ・ラブラブ・バチバチの三角関係
人づき合いが苦手な真美は ある日近所の保育園から 男の子と手を繋いで現れた課長を見かけ 親子だと勘違いする 小さな男の子、岳を中心に 三人のちょっと不思議で ほんわか温かい 恋の三角関係が始まった
*✻:::✻*✻:::✻* 登場人物 *✻:::✻*✻:::✻*
望月 真美(25歳)… ITソリューション課 OL
五十嵐 潤(29歳)… ITソリューション課 課長
五十嵐 岳(4歳)… 潤の甥
〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー
i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆
最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡
バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。
数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる