あの夏に僕がここに来た理由

便葉

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嫉妬

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海人は、さくらの突然の訪問に驚いた。そして、ひまわりの親戚ということで、さくらにどこまで話していいものか考えていた。
海人は麦茶を飲み干すと、さくらが自分の顔をずっと見ている事に気づく。

「ひまわりにさくら。二人とも花の名前なのは偶然なんですか?」

居心地が悪くなった海人は、雰囲気を変えようと二人に問いかけた。

「ひまわりという名前は、ひまちゃんのお父さんがどうしてもつけたかった名前なんだって。
だから、ひまちゃんは冬に生まれたんだけど、ひまわりになったの」

ひまわりを見ると、黙って下を向いている。

「私のさくらは、ひまちゃんが子供の時にめちゃくちゃ可愛かったから、うちのママが同じ花の名前にしたって言ってた」

「さくらさんは春生まれ?」

「そう3月生まれ」

海人の質問に、さくらはそう答えた。

「ひまわりさんが子供のころすごく可愛かったっていうのは想像がつくな。
今もとても綺麗だし…」

海人は、本当にそう思った。

「さくらの方がもっと可愛かったのよ。
天真爛漫で、みんなにとても可愛がられてたんだから」

ひまわりは謙遜しているのだろうか?
顔が沈んで見える。

「ひまわりさんの名前の由来は、僕に少し似ているかも。
僕の母がとても海が好きで、僕の故郷は山奥で海はなかったのに、母がどうしても海人という名前だけは譲らなかったって、父が言ってた」

そう言って、海人はひまわりに笑いかけた。
海人にひまわり…
親の大きな思いによってつけられた名前…
冬生まれのひまわりに、海のない場所に住む海人…

「海人さん、いつまでここにいるの? 
私も庭の掃除を、手伝っていい?」

さくらの問いかけに、海人は困ってひまわりを見た。

「さくらは受験生でしょ。
勉強しなきゃ、あきちゃんに怒られるよ」

「私が東京の大学に行きたいってママに言ったら、ひまわりに色々と話を聞いておいでって。
だから、大丈夫なの」

さくらは悪びれずにそう言った。

「でも、海人さんが迷惑だと思うし…」

ひまわりは、海人の方を見ずにそう言った。

「僕は全然構わないですよ。でも、暑いから大丈夫かな?」

海人はそう言ってひまわりを見ると、ひまわりは何故か今にも泣きそうな顔をしている。

「やった~
じゃ、明日も遊びに来ます。
それと、ひまちゃんのママには私の方から上手に今の状況を説明しとくね。
心配無用だよ」

さくらは海人の耳元で、小さな声で「ありがとう」と言って帰って行った。
海人は一息ついてひまわりの方を見ると、ひまわりは海人と目も合わさずに自分の部屋に入ってしまった。
僕は、何かまずいことをしたのかもしれない…

今日のひまわりは、ただのヒステリーだった。
勝手に怒ったり、涙ぐんだり、馬鹿みたいだ。
ひまわりは自分の部屋に閉じこもっても、この切ない思いから逃れることはできない事は分かっていた。
窓を開けて外の空気を部屋へ入れ込み、ベッドに腰掛けて小さくため息をつく。
私はどうすればいいのだろう…
こんなにも海人のことが気になるなんて…
愛してる? きっと、愛してる。
ううん、絶対に、愛してる…
すると、ドアをノックする音が聞こえた。

「ひまわりさん、大丈夫ですか?
具合が悪いかと思って、麦茶を持ってきたんだけど」

海人は、ひまわりのことを心配していた。
元気のない顔のひまわりは、ドアを開けて海人から麦茶を受け取る。
麦茶を渡した海人は、開けたドアに寄りかかりひまわりの様子をずっと見ていた。

「今日は、僕が夕飯を作ろうかなと思って。
料理は得意じゃないけど、野菜炒めくらいは作れると思うし。
ひまわりさんは、ゆっくり休んでて」

海人は、ひまわりに軽く目配せをして微笑んだ。

ひまわりはこの溢れそうな想いを、海人に伝えたいと思った。
でも伝えてどうなるの?
いつかはここから出ていく人なのに…
そう思っただけで、また涙がこみ上げる。

「海人さん、今日は心配をかけて本当にごめんなさい。
私、たぶん、海人さんのことを一人占めしたかっただけみたい…
あの日から、海人さんと出会った日からずっと二人だったし、二人でいるのがすごく楽しくて…」

海人は黙って聞いている。

「そして、今日、急にさくらが来て、なんだかとても悲しくなって… 
さくらは何も悪くないのに、私、どうかしてるよね… 
本当、馬鹿みたい…」

何でこんなに涙が出るんだろう…
ひまわりは持っていた麦茶を全部飲み干して、海人に無理に笑ってみせた。
すると、海人はひまわりの隣に来て持っていた空のコップを机の上に置くと、ひまわりを引き寄せ優しく抱きしめてくれた。

「泣かないで、ひまわりさん…」

海人はそう言うと、もう一度、ひまわりを強く抱きしめた。
ひまわりが泣き止むまで、海人は優しく背中をさする。

「やっぱり、ひまわりさんの手料理が食べたいな。
僕も手伝うから一緒に作ろう」

ひまわりの耳元で海人がそう囁くと、ひまわりは何か魔法をかけられたように心が喜んでいるのが分かった。
愛する人を見つけた…
もう、海人なしでは何も考えられない…
ひまわりは海人が過去からやって来たとか、家族の元へ帰りたがっているとか、そういうものが全てなくなればいいと思った。
ずっと私のそばにいてほしい、このままずっと、永遠に…

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