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①
しおりを挟む金曜日の午後というのに、その日のモナンジュは思いのほかゆったりとした時間が流れていた。
実は、木の実は三日前にジャスティンと結婚をした。
結婚をしたと言っても、役所に婚姻届けを出しに行っただけだから、まだ何も実感は湧いていない。
結婚式も新婚旅行も、もう少し後のお預けだった。
ジャスティンの抱えている大きなプロジェクトを成立させ軌道に乗せるには、後、数か月かかるみたいで、その仕事が落ち着いたら長期の休みを取るぞと本人は張り切っている。
木の実は、特に、結婚式とか旅行とかにこだわりはない。
ジャスティンが日々の生活で私の隣で微笑んでくれてさえいればそれだけでいいと、心から思っている。
木の実はそんな事を考えながら、奥の倉庫の方で明日発注する花々の伝票をパソコンに入力していた。
「木の実ちゃん!
早く来て、木の実ちゃんにお客様!」
そう言って、水田さんが倉庫の中に飛び込んできた。
「水田さん、どうしたんですか?
そんなに慌てて。
え? 何かクレーム?
私、何かやらかしちゃった?」
木の実は、以前に何回かミスをした事を思い出した。
でも、その時は円満に解決して、皆様、笑顔で帰ってくれたのに。
そんな事を一人でブツブツ言っていると、水田さんは首を振りながら木の実の腕を掴んだ。
「そんなんじゃないから。
それより早く。
その方、時間がないみたいで時計を何度も見てるの」
気持ち、水田さんの顔が赤くなっているのが分かった。
え? もしやジャスティンが来ちゃった?
でも、こんな中途半端な時間にどうして?
水田さんも、オーナー夫人も、何度ジャスティンに会っても慣れないと言っていた。
何度会っても、胸がドキドキするらしい。
胸どころか頭までクラクラすると言って、いつも顔を真っ赤にさせる。
そして、木の実ちゃん、よく、あんな綺麗な人と一緒に暮らせるわね…って、私の事を尊敬のまなざしで見てくれる。
木の実が慌てて店へ出てみると、そこにはジャスティンじゃなくて謙人が待っていた。
「け、謙人さん?
どうしたんですか?」
恥ずかしながら、木の実も顔が真っ赤になった。
謙人さんって、ジャスティンとは違った魅力を持っている。
何だか、水田さん達の病気がうつったみたいで、木の実まで胸がドキドキして頭がクラクラし始めた。
「ごめんね、仕事中に…
でも、木の実ちゃんに、お礼を言いたくてさ」
この店で冷静なのはオーダーされた花束を必死に作っているオーナーだけだ。
以下の女性陣は、皆、リンゴのように顔を真っ赤にさせている。
「お礼? ですか…?」
謙人は笑顔で頷くと、木の実の隣で様子を窺っている水田さん達にまで笑顔を向けてくれた。
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