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②
しおりを挟む「ほら、俺さ、ジャスを傷つけただろ?
もう、結構前の事だけど、何だか俺自身のここにわだかまりみたいなのができちゃってて…」
謙人さんはそう言って、胸の上に手を当てる。
「昨日、ジャスから結婚したって聞いた。
その瞬間、俺のここの何かがスッとなくなって消えたんだ。
一年経って、初めてあいつを前にしてごめんって謝ったよ」
「ジャスは、何て…?」
木の実は胸が詰まってその言葉しか出てこない。
「何も気にしてないって…
気にせずにいれたのは、何もかも受け入れてくれた木の実ちゃんのおかげだって」
木の実は仕事中だから泣くわけにはいかない。
だから、必死に涙をのみこんで、謙人に笑って見せた。
「私は、別に何も…」
「ううん、そんな事ないよ。
そんな事全然ない…
木の実ちゃん、ジャスと結婚してくれて本当にありがとう。
それだけを言いたくて、お店まで来ちゃった」
すると、オーナーが出来上がった花束を謙人に渡した。
その花束は、最高級のバラの花を真っ白なかすみそうが包み込んでいる素敵なものだった。
「こちらでよろしいですか?」
オーナーの問いに謙人は親指を上に立てて最高と言った。
そして、オーナーから受け取ったその花束を、今度は木の実に渡す。
「何か可笑しいけど、俺達の間では、この真っ白いかすみそうが幸せの象徴みたいになってるんだ。
恋愛下手な凪っていう友達が、初めて愛を勝ち取った時の最強のアイテムだったらしい。
こちらのお店にはその時にお世話になったそうで、本当にありがとうございました」
オーナー夫妻と水田さんは、その時の事を思い出してクスッと笑った。
「木の実ちゃん、結婚おめでとう。
そして、木の実ちゃんにメロメロらしいダメダメなジャスを、いつまでもよろしくお願いします」
謙人はそれだけ言って、店を出ようとした。
木の実は花束を持ったまま、慌てて謙人を呼び止める。
「謙人さん、ありがとうございます。
それと、今度は、いや、今度も会った事は秘密の方がいいですか?」
謙人は尋常じゃないほどの魅力的な笑みを浮かべてこう言った。
「ううん、言っていいよ。
謙人から素敵な言葉と素敵な花束をもらったってね。
できれば、謙人さん、すごく素敵だったって付け加えてくれれば最高だけど」
謙人はそう言い残して、モナンジュを後にした。
いつの間にか、水田さんもオーナー夫人も木の実の近くに来ている。
そして、三人で大きくため息をついた。
「イケメンエリート軍団って、皆、こんなに素敵なの…?」
ってつぶやきながら…
…end
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