76 / 97
バレンタインデー
…8
しおりを挟むミチャはそう言って笑うけど、ミチャの気まぐれの性格を知っている私の気持ちも分かってほしい。
「じゃ、あの箱の絵でいいよ。
あの絵を僕はすごく気に入った。
ファン第一号の証明書として、僕はこれを大切にする」
ミチャはそう言って、テーブルの上に立てかけている絵を指さした。
私は寂しさなのか悲しみなのか、それとも安堵感なのか、よく分からない感情に胸が締め付けられる。
あの絵は、あの日、二人が結ばれた朝の風景を描いたもの。
私の気持ちは絶対に変わる事はないけれど、ミチャの気持ちを繋ぎとめるアイテムとしては色々な意味で私の念や想いが籠っている。
「分かった…
じゃ、あの箱の絵をちゃんと綺麗にカッティングする。
ミチャの持ち歩くバッグやリュックに入れてもらえるように」
ミチャは本当によく笑う。
私は必死に自分の中で折り合いをつけているのに。
私はミチャの胸の中で、一か八かのお願いをすることを心に決めた。
私がさっきミチャに言いくるめられたように、今度は私がミチャを言いくるめたい。
「それと、ミチャ…
ミチャが私のファン第一号になってくれるのなら、籍はそのままでいたい。
離婚なんてしなくていいよね?
だって、ミチャはずっと私の事を応援してくれるんだもん。
最初に約束した三百万円も要らない。
実際、ミチャから毎月もらってたお小遣いが使わずに全部貯まってるし、それでイタリア行きの経費は対応できるし。
もし、ミチャが私との結婚を続けてくれるのなら、私は本当に晴れやかな気持ちで絵の勉強に打ちこむ事ができると思う。
もし、ミチャと四月に離婚したら、私、しばらくは寂しくて立ち直れない。
きっと、一年は泣いて暮らすよ…
絶対にそんな状態で、絵の勉強なんてできないと思う。
ミチャなら分かるよね…?
私は感情に負けちゃう人間だって事…」
本当にそうだ。
今でも、本音を言えば、イタリアには行きたくない。
でも、森魚の話や、ミチャの想い、私の家族の気持ち、色々な事を考えると、簡単に辞めますなんて言えないのもちゃんと理解している。
だから、ミチャにこの提案を受け入れてほしかった。
「ミチャ… どう…?」
ミチャは私を抱きしめたまま、ずっと何かを考えている。
そんなに考える事が必要?
私はミチャから離れないように、自らミチャの胸の中に居座った。
「うん… それは…
ちょっと考えさせて…
一度、頭の中をクリアにしてよく考えたいんだ」
私は返事の代わりに、ミチャにキスをする。
ミチャが大好きって言ってくれたこのキスで、ミチャの理性を壊したい。
「僕は、まひるに襲われた方がいいのかな…?」
息も絶え絶え、ミチャはそんな事を言う。
「ミチャがお望みならば…」
そんなバカな事を言い合いながら、私達は愛し合う。
ミチャが私の肌を、匂いを、温もりを恋しくて辛くなるように、私は激しく情熱的にミチャに絡みつく。
バレンタインの夜、別れを覆せなかった夜、私達は当たり前のようにお互いの体を求め合った。
当たり前が当たり前じゃなくなる時、私もミチャも、一体、何を考えるのだろう…
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
『 ゆりかご 』
設楽理沙
ライト文芸
- - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - -
◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
――――
「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語
『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』
過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、
そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。
[大人の再生と静かな愛]
“嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”
読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。
――――
・・・・・・・・・・
芹 あさみ 36歳 専業主婦 娘: ゆみ 中学2年生 13才
芹 裕輔 39歳 会社経営 息子: 拓哉 小学2年生 8才
早乙女京平 28歳 会社員
(家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト)
浅野エリカ 35歳 看護師
浅野マイケル 40歳 会社員
❧イラストはAI生成画像自作
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
紙の上の空
中谷ととこ
ライト文芸
小学六年生の夏、父が突然、兄を連れてきた。
容姿に恵まれて才色兼備、誰もが憧れてしまう女性でありながら、裏表のない竹を割ったような性格の八重嶋碧(31)は、幼い頃からどこにいても注目され、男女問わず人気がある。
欲しいものは何でも手に入りそうな彼女だが、本当に欲しいものは自分のものにはならない。欲しいすら言えない。長い長い片想いは成就する見込みはなく半分腐りかけているのだが、なかなか捨てることができずにいた。
血の繋がりはない、兄の八重嶋公亮(33)は、未婚だがとっくに独立し家を出ている。
公亮の親友で、碧とは幼い頃からの顔見知りでもある、斎木丈太郎(33)は、碧の会社の近くのフレンチ店で料理人をしている。お互いに好き勝手言える気心の知れた仲だが、こちらはこちらで本心は隠したまま碧の動向を見守っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる