この手に楽園を

蓮ゆうま

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序章

序章2 生まれた赤子

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「湯を早く!遂に生まれたわ!」

「産着の用意をして!」

「村に連絡!」

その日、山間の小さな村で、その子は生まれた。
男女関係なく村の誰もが待ち焦がれた、いずれ村長の跡継ぎとなり、村の未来を背負っていくであろう子供。その子は男でも女でも関係なく、村の希望なのだ。
だがその期待は、最悪の形で裏切られることとなる。

「あ、あ、この子・・・・・・!」

取上げ婆が驚愕の表情で皆をかえりみた。
大切そうに胸に抱かれる赤子は顔を真っ赤にしてえぐえぐと泣いている。

「なにしてる!早く産湯につけてやらないとダメだろうが!」

「そうだ!どうしてなにも・・・・・・。」

やがて彼らは気がついた。
村が待ち望んでいた子供が、この世で最も恐ろしく忌み嫌われるものの象徴であることを。


その赤子の髪と瞳は、美しい雪色だった。


「ぁ・・・・・・?」

誰かの放った戸惑うような呟きが、凍結した産屋を再起動させる。

「は、母親とその子をさっさと村長から引き離せ!死なせてはならんが、ああもうどうしろと言うのだ!」

村人はパニックになり、先程まで喜びに湧いていた産屋を恐慌の渦に叩き落とされる。
その様子を母親は夢現の中で聞いていた。
生まれた子供が未だに我が腕に帰ってこない。
早く乳を与えてやらねば。
愛しい我が子を早く見たい。

「わ、たし、のこ・・・。かえ・・・し、て、ちょうだ・・・い。」

我が子への愛情のみで、初めての出産で疲れきった体に鞭打ち、懸命に起き上がる。
取上げ婆の肩に手をかけると、彼女はひっと悲鳴を上げてビクついた。

「わたしのこ、かえして・・・。」

強引に赤子を自分の腕に抱く。霞んだ視界の目に映りこんだ赤子は可愛い。
だが、とても信じられなかった。

「なに、これ・・・・・・?」

顔をしわくちゃにして泣く小さな赤ん坊。
生え揃うか揃わないかの境の髪は柔らかい猫っ毛で白い。
我知らず、頭の中に未来が垣間見えた。

「か・・・・・・いそ、に、ね・・・。」

不吉の象徴と言われる白い髪と瞳の持ち主に未だ会ったことはない。たとえ存在していたとしても、各村に一つずつある地下牢に閉じ込められて人前に出てくることなど、いや、陽の光に当たることもないだろう。
そんな人生を自分の愛し子が歩むことが容易に想像出来て涙が零れる。
こんなに可愛いのに。

「ごめんね、ごめ、ん、ごめ・・・なさ、い・・・。」

ごめんなさい。
私がこんなふうに産んでしまってごめんなさい。
白い子供が産まれるのは、母親の前世の悪行からだという。
十月待った。
眺めていた。
村の皆は暖かく見守ってくれて、誕生するのが楽しみだと言ってくれた。
だがそんな幸せはもうない。
味方はもういない。
視界の銀色の煌めきを最後に、彼女は意識を失った。
もう目覚めることはない。









哀しげな表情の女の首が転がり落ちる。

「はあっ、はあっ、はあっ・・・!」

ぷしゅ、と音を立てて噴き出す血潮。それは夥しい量として女の体や床を流れていく。
女を斬ったのは村長だった。

「悪魔は成敗された。後はこの忌み子を地下牢に閉じ込めろ。」

「はい。」

村長の声に村人が動き始める。
それは、この後絶大な力を誇り世界を恐怖のどん底に陥れる青年の始まりにしてはあまりにも情けなく、哀しい始まりだった。
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