この手に楽園を

蓮ゆうま

文字の大きさ
8 / 29
一章 旅を始める

皆殺し4

しおりを挟む

首と胴体が泣き別れた彼女の遺体は綺麗に血を拭き取られ、まるで眠っているように木の幹に横たえられる。

―――・・・・・・何やってるんだ?

「遊び、かな。」

―――・・・・・・それをして何になるんだ。

「なんとなく。」

―――ならさっさと行くぞ。夜を有効に使うようにしろ。

「分かった。」

ケイは存外従順に言うことを聞く。

―――意外に素直なんだな。

「今終わったからだ。」

あっさり答えてケイが立ち上がる。目指すのは村の中心にある広場だ。たまに行商人が来たり、役人が税の取り立てに来たりしている。畑の様子から今年は豊作だろう。きっと税を納めるのも楽なはずだ。
ケイは広場に着くと、無詠唱で頭上に巨大な魔法陣を展開した。全体が仄白く輝き、蒼白な稲光を時々走らせるそれは、村にいる女子供をおびき寄せる。

「なに、あかるいよ・・・。」

誰かが松明をつけたとでも思ったのだろうか、小さな女の子が家から出てきた。

「なあに、これ・・・?」

きょとんと首を傾げて可愛らしい仕草をするその女の子は、そのまま固まった。
とても美しい人がそこにいたから。

「あなた、だあれ?」

ようやく押し出した舌足らずな声は小鳥がさえずるような声。美しい人はその子を見つめたまま目を細め、紅葉のような手を取った。
その美しい人はケイだった。

「おいで。一緒に行こう。」

「おにいさん、だれ。わたし、おにいさんのことしらないよ。」

先程よりも警戒感の増した声音に、恐怖を和らげるようにケイが微笑む。

「それとも、まだこの村にいて虐められながら過ごすかい?」

「え・・・・・・?」

元々大きな瞳がさらに丸く大きくなり、反射のように涙が滲む。

「おにいさん、知ってるの・・・?」

「もちろん。全部知ってるよ。可哀想にね、今までよく頑張ったね。」

偉い偉い、と褒めると、女の子がふえ、と泣き出す。

「こわ、かったよぉ。おと・・・さんとおかあさ、んが、いつも、おこっててぇ。みんな、いみごだって・・・・・・!」

「俺なら君を救ってあげられる。一緒に来ない?」

「・・・・・・・・・いく。」

ケイは女の子の恐怖心を、心を、溶かす。
砂糖よりも甘く、だが魔物の毒より危険なその言葉は簡単に幼女を魅了した。

「じゃあちょっと寝ててね。」

「おなまえ、は?」

すでにとろんとした瞳でケイを見つめる幼女が訊ねる。彼は一瞬驚いたように女の子を見つめ返したが、すぐに笑顔になって答えた。

「俺はケイだよ。君は?」

「なまえはないの。ケイおにいちゃん、なまえつけて・・・。」

言い終わるより先に彼女の瞼が限界を迎えた。大きな瞳はとろとろと微睡むように閉じられ、小さな身体は力が抜けて体重をケイの手に完全に預けている。

「やっぱり子供は可愛いな。」

―――素直でいいよなぁ。

「うんうん。」

軽口を交わしながら、女の子の髪をそっと撫ぜるケイ。
彼女の髪は白に近い白銀だった。陽の当たる角度や光の濃さによっては白にも銀にも見える美しい色だ。
だが“白にも見える”というただそれだけの理由で、この世界はこんな幼気な子供でも迫害対象に当たるのだ。
何より目につくのは、薄い青を帯びた象牙色のまろやかな瞳。きっと余程目を凝らさなければ青が混じっているということには気づかないだろう。

「・・・・・・あ、他の子も来たね。」

理知の輝きを失った目で、村の子供達が集まってくる。やがてケイの周りに集合した子供達を順繰りに見比べてケイは残念そうに首を振った。

「この子達は殺処分だね。」

その言葉が合図になったように、地中から黒縄が躍り出る。それは子供達の体に素早く巻き付き、首を締め上げた。
殺しはしない。餌にするだけ。

「さて、次は女達か。」

またもやその言葉をきっかけにしたように、家の扉が次々に開き、嫁入りして妻となった者から少女までふらふらとやって来た。
これらは全て、子供を産む可能性がある者達だ。
ケイは女達の未来を視て、この先白い髪を持って生まれる者がいると、その者は一度保護する。時空魔法で時を早め、子供が産まれてから嬲り殺すのだ。
結果は、二人だけだった。それも非常に若く二人とも十一歳ほど。

「魔力の消費がかなり大きい・・・。」

―――俺がやろうか?

「頼む。助かる。」

少女達は怯えて震えている。そんな彼女達を安心させるように微笑みながらケイが言葉を継ぐ。

「大丈夫だよ。君達には少し成長してもらうだけだから。」

しばらくして、夜の村につんざくような絶叫が響き渡った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...