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一章 旅を始める
皆殺し4
しおりを挟む首と胴体が泣き別れた彼女の遺体は綺麗に血を拭き取られ、まるで眠っているように木の幹に横たえられる。
―――・・・・・・何やってるんだ?
「遊び、かな。」
―――・・・・・・それをして何になるんだ。
「なんとなく。」
―――ならさっさと行くぞ。夜を有効に使うようにしろ。
「分かった。」
ケイは存外従順に言うことを聞く。
―――意外に素直なんだな。
「今終わったからだ。」
あっさり答えてケイが立ち上がる。目指すのは村の中心にある広場だ。たまに行商人が来たり、役人が税の取り立てに来たりしている。畑の様子から今年は豊作だろう。きっと税を納めるのも楽なはずだ。
ケイは広場に着くと、無詠唱で頭上に巨大な魔法陣を展開した。全体が仄白く輝き、蒼白な稲光を時々走らせるそれは、村にいる女子供をおびき寄せる。
「なに、あかるいよ・・・。」
誰かが松明をつけたとでも思ったのだろうか、小さな女の子が家から出てきた。
「なあに、これ・・・?」
きょとんと首を傾げて可愛らしい仕草をするその女の子は、そのまま固まった。
とても美しい人がそこにいたから。
「あなた、だあれ?」
ようやく押し出した舌足らずな声は小鳥がさえずるような声。美しい人はその子を見つめたまま目を細め、紅葉のような手を取った。
その美しい人はケイだった。
「おいで。一緒に行こう。」
「おにいさん、だれ。わたし、おにいさんのことしらないよ。」
先程よりも警戒感の増した声音に、恐怖を和らげるようにケイが微笑む。
「それとも、まだこの村にいて虐められながら過ごすかい?」
「え・・・・・・?」
元々大きな瞳がさらに丸く大きくなり、反射のように涙が滲む。
「おにいさん、知ってるの・・・?」
「もちろん。全部知ってるよ。可哀想にね、今までよく頑張ったね。」
偉い偉い、と褒めると、女の子がふえ、と泣き出す。
「こわ、かったよぉ。おと・・・さんとおかあさ、んが、いつも、おこっててぇ。みんな、いみごだって・・・・・・!」
「俺なら君を救ってあげられる。一緒に来ない?」
「・・・・・・・・・いく。」
ケイは女の子の恐怖心を、心を、溶かす。
砂糖よりも甘く、だが魔物の毒より危険なその言葉は簡単に幼女を魅了した。
「じゃあちょっと寝ててね。」
「おなまえ、は?」
すでにとろんとした瞳でケイを見つめる幼女が訊ねる。彼は一瞬驚いたように女の子を見つめ返したが、すぐに笑顔になって答えた。
「俺はケイだよ。君は?」
「なまえはないの。ケイおにいちゃん、なまえつけて・・・。」
言い終わるより先に彼女の瞼が限界を迎えた。大きな瞳はとろとろと微睡むように閉じられ、小さな身体は力が抜けて体重をケイの手に完全に預けている。
「やっぱり子供は可愛いな。」
―――素直でいいよなぁ。
「うんうん。」
軽口を交わしながら、女の子の髪をそっと撫ぜるケイ。
彼女の髪は白に近い白銀だった。陽の当たる角度や光の濃さによっては白にも銀にも見える美しい色だ。
だが“白にも見える”というただそれだけの理由で、この世界はこんな幼気な子供でも迫害対象に当たるのだ。
何より目につくのは、薄い青を帯びた象牙色のまろやかな瞳。きっと余程目を凝らさなければ青が混じっているということには気づかないだろう。
「・・・・・・あ、他の子も来たね。」
理知の輝きを失った目で、村の子供達が集まってくる。やがてケイの周りに集合した子供達を順繰りに見比べてケイは残念そうに首を振った。
「この子達は殺処分だね。」
その言葉が合図になったように、地中から黒縄が躍り出る。それは子供達の体に素早く巻き付き、首を締め上げた。
殺しはしない。餌にするだけ。
「さて、次は女達か。」
またもやその言葉をきっかけにしたように、家の扉が次々に開き、嫁入りして妻となった者から少女までふらふらとやって来た。
これらは全て、子供を産む可能性がある者達だ。
ケイは女達の未来を視て、この先白い髪を持って生まれる者がいると、その者は一度保護する。時空魔法で時を早め、子供が産まれてから嬲り殺すのだ。
結果は、二人だけだった。それも非常に若く二人とも十一歳ほど。
「魔力の消費がかなり大きい・・・。」
―――俺がやろうか?
「頼む。助かる。」
少女達は怯えて震えている。そんな彼女達を安心させるように微笑みながらケイが言葉を継ぐ。
「大丈夫だよ。君達には少し成長してもらうだけだから。」
しばらくして、夜の村につんざくような絶叫が響き渡った。
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