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二章 宗教の真実
情報整理
しおりを挟むケイが嫌々ながらも宿場町に潜入し、情報を仕入れてきた日の翌朝。今日も今日とて皆が揃うのが昼頃になったため、それぞれの情報交換は午後からとなった。
暖かな日差しが四人を照らす。
「とりあえず情報を整理しよう。リオン、ユスリ、お前らを知ってることを話してくれ。」
ケイの一声で、互いの情報交換が始まった。四人は今まで調べたことや見聞きしたことを言い合う。
もっとも、ケイとラクラスは昨日村を脱出したばかりなので、情報など無いに等しいが。
「私は、何も、分からない。だけど、村で信じられてた、のが、ユビシュ教、っていう宗教、で・・・。規律がたくさん、あったと思う。」
眠たげに目を細めながらリオンが言う。
―――私も大方そんな感じだね。宗教なんかについては薄らぼんやりとした知識で役に立てそうにはないよ。
「そうか。昨日、宿場町で聞き出してきたんだが、ユビシュ教というのは相当規律が多いらしくてな。それでも、大司教というのが奇跡の力を持っていて、様々な病気や怪我を治すから、信仰する人が多いらしい。そればっかりは偽造できんから、その筋は合ってるんだろうな。」
ユビシュ教の頂点に立つ人物、大司教。
その役職はある一族での世襲制で、その一族の長男が奇跡の力を継ぐのだという。その力は、不治の病、治癒不可能だと言われた怪我、更にはどうしても消えぬ心の傷まで癒すのだそうだ。
―――心の傷・・・?そんなもの癒せるのか?ハッキリ言って、時間が解決するようなものだろう。
「俺も少しおかしいと思って、詳しく調べた。そうすると、癒せるものにも種類があるんだと。精神が狂ったもの、過去の酷い仕打ちなどを受けて心が壊れてしまったものの精神状態を治すことは出来るらしい。だがそれだけのようだ。」
―――やはりな。そうなれば、その力はそれは個人で体得したものではなく、一族で代々譲り渡していくようなものだろう。
ここで、リオンがあっと声を上げた。青灰の美しい瞳は、何かを思い出すように虚空に向けられている。
「“渡し人”っていうのを、聞いたこと、ある。なんか、その人、を、仲介して、自分の、スキルを、他人に渡したり、能力を貰ったりできる、って、聞いた・・・・・・。」
「なら、その渡し人っていうのが鍵になってくるな。」
「結構、人数が少なくて、珍しかった・・・・・・、っと、思う。」
「貴重な情報ありがとな。」
ふわっとしたリオンの髪をケイが撫でる。一瞬和んだ空気は、次の瞬間鋭い鳴号で引き裂かれた。
「クエエエエエ!」
「!!」
明るい陽光を遮る巨大な黒影。それは鳥の形をしていた。
「魔物、か・・・?」
―――待て、ケイ。俺がやる。
睨むように鳥型の魔物を見据えたラクラスが、戦おうとしたケイを制する。同時に彼の魔力が鞭のようにしなって大きく空に伸び上がった。
それは、魔物を絡め取って地上に引きずり落としてくる。
―――おい魔物。答えろ。お前は何故ここにいる。
落ちてきた魔物の細い首を掴んでラクラスが詰問する。
―――俺たちの会話を盗み聞きしていただろう。知らないとは言わせん。
「く、く、く・・・。」
だが魔物は喉の奥を震わせるばかりで、有益な情報を喋ろうとはしなかった。
そもそも魔物は喋れるのか?
ある疑問に至ったケイの心を読んだかのようにラクラスが答えた。
―――高位の魔物や使役されている魔物は人の言葉を解するぞ。それでやり取りをする奴らもいるぐらいだ。この魔物は隠密行動に優れたやつだ、厄介だな。
「俺たちの存在をもう突き止めたということか・・・?」
顎に手を当てて考えるケイにラクラスが大きく頷く。そして非難するような視線をケイに向けた。
―――多分村の惨殺だろうな。
「・・・・・・あれか。確かに派手にやったからな。」
苦笑いしてつい二日ほど前のことを思い出すケイと、渋面のラクラス。そして彼はケイを軽く拳で叩き、苦言を呈した。
―――憎いのは分かるがもう少し自重しろ。
「今更言っても遅いだろ。」
―――馬鹿、次回からって意味だ。
「お前何言ってるんだ。次誰かを惨殺する時は、ユビシュ教の大司教を殺す時だぞ?」
―――ああ、そうだったか。
その会話を聞いた魔物が、突如激しく暴れ始めた。
―――おっと、今の会話を聞いて焦ったか?これでお前が俺たちを偵察に来たってことが分かったな、安心しろ、帰らせねーから。
ざわざわと甚大な魔力を立ち上らせるラクラスに、魔物が本能的に恐怖する。
ラクラスが魔物の息の根を止めたその次の瞬間、凄まじい轟音がケイの耳をつんざいた。
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