再会した御曹司は 最愛の秘書を独占溺愛する

猫とろ

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初回の打ち合わせは楽しくて、時間が早く過ぎて行った。
大まかなスケジュール確認や、今後どんな仕事をしたいか直接、話を聞けたのは大変良かった。

社長に就任したら今まで守ってきた、キセイ堂の高級品質のイメージを守りつつ。

新進気鋭のクリエイターなどとコラボして、限定デザインのコスメ、地域限定のプレミアムパッケージを作り、若い世代の新規開拓。

インバウンド需要の更なる対策強化。
今までやや、保守的な販売姿勢の脱却を狙っていると熱く語ってくれた。

その新しい企画によってキセイ堂の老舗ブランド
のイメージを壊しかねないように、今までの顧客をより大事に扱うことも大切だと理解しており。仕事へのパワーに満ち溢れているのを感じた。

会社内部では働きやすさの改革。
その他にも、社長を含めた上役の車などのハイヤーの手配などは控えて通常は自分で運転。
小さなコストカットをしていきたこと。
ある程度、私にも判断を委ねるのでチャレンジをどんどんして行って欲しいと言ってくれた。

それらを聞いて、私も頑張らなくちゃと思った。

黄瀬社長は若くてイケメンでビジネスヴィジョンもしっかりある。そして一族経営だが息苦しさを感じない。それは社内を見ても明らかだ。

社長に就任したら取材の申込が多くあるような気がした。今のうちにそう言ったものを取りこぼさないように、スケジュール管理をしていくべきだろう。

忘れないように集中して、手帳にカリカリとペンを走らせる。

えっと。そういったメディア対応はプレスリリース、もしくは広報部かな。それともマーケティング部? これも確認しなくては。

「──そう言う訳だが。おっと、もう時間だな。今日はこれぐらいで、青樹さん? 聞こえてないのかな。凄い集中力だね。真面目さは昔と変わらずだ……今度は絶対に君を……」

カリッとペン先を走らせ終わると、黄瀬社長に何かを言われたようで慌てて顔を上げた。

「すみません。今、集中していて。何か仰りましたか?」

黄瀬社長と視線を合わすと、どこか哀愁めいた苦笑をされてしまった。
それはプライベートな笑みのように見えて、ドキリとした。

黄瀬社長は何でもないと言うように首を振ってから、部屋の時計を指差した。
時計を見ると本日の終業時刻十分前。集中していて気がつかなかった。

「もう終業時間だ。一日目から詰め込んでしまって悪かった。でも、期待しているよ」

明日もよろしくと黄瀬さんが先に席を立った。それを見て机の上のものを素早く片付けて、私も席を立つ。

こう言うとき、目上の人が先に席を立ってくれるとありがたい。どのタイミングで席を離れたらいいとか、簡単のようで難しいのだ。
黄瀬さんはそう言った部下の機微も理解しているのだろうと感じた。

「お気遣い頂き、ありがとうございます。初日からお話しが出来てよかったです。これからもよろしくお願いします」

「あぁ、分からないことがあればいつでも、連絡をくれて構わないから。なんならお祖父様に尋ねてもいい。青樹さんならお祖父様も大歓迎だろう」

気さくなトークで口元が緩む。

「その、一つ聞いてもいいかい?」

「はい」

「プライベートに立ち入って済まないが、君は誰かと交際していたりする?」

「交際?」

おやと思って社長の顔をまじまじと見る。
真面目な顔付きで、セクハラや下心とかそう言った感じではなさそうだった。

しかしほんの少し瞳が揺れて、気恥ずかしそうにしている? と思ったら黄瀬社長がパッと手を振った。

「その、変な意図はない。君ほど優秀なら理解していると思うが。俺が社長に就任してからは、しばらくは忙しくて残業があるかもしれない。青樹さんに色々と頼って、俺が頻繁に連絡をする場面も出てくるだろう」

あぁ、なるほど。
私にカレシが居たら、カレシが勘違いしてしまわないだろうかと言う。懸念をされたのだと思った。
「そう言うことですか。残念ですが、私には今交際している人はいません。仮に居たとしても情報管理はしっかりしますし、コンプライアンスに反することはしません。私、今は恋愛より仕事を頑張りたいのです」

──赤井社長のところで、あらぬ噂に心が折れてしまった。とても悔しかったのに、労基に相談する余裕もなかった。逃げるように退職した。

今こうしてちゃんと働くことがあの時の悔しい気持ちを払拭させる、唯一の手段だと思っている。

「彼氏は居ない。恋愛より仕事か……そうだな。俺も今は全力で目の前のことをやるべきだな」

どこかほっとしたような口調だった。

「黄瀬社長……?」

「いや。変なことを言ってすまなかった。まずは青樹さんや皆にちゃんとした、社長だと思われるように頑張らないとな。話はそれからだな」

黄瀬さんは何かを納得したかのように「今は仕事だな」と、再確認するように呟き。

最後は私を見て甘く微笑み「ところで青樹さんは、香水をつけてないよね?」と言った。

話題が突然変わったが、さほど気にすることではないかなと思い「はい。つけてないです」と、正直に答えた。

香水は人や相手によって印象が変わるので、ビジネスシーンに合わせて使用していた。

「そうか。俺はコスメ会社の社長になるのに、ちょっと強めの香水が苦手だ。特に薔薇やフローラルの匂いはあまりね……だからそう言った香りがする女性と距離を取っていたら、お祖父様に女性嫌いだと勘違いされた。本当は香水が苦手なだけで、その辺りのことを配慮して貰えると助かる」

だから女性を避けていた、ということに合点が行った。

これもいいことを聞けた。社長の好みを把握するのはとても大事だ。
実は私もフローラルの香りより、シトラスとかのスッキリとした香りの方が好きだ。今後、香水の使用の頻度は低めにして、TPOに合わせてオーデコロンを使おうと思った。

「かしこまりました。他にもなにかあればどうぞ、仰って下さいね」

「じゃあ……実は──ずっと気になっていた」

そういうと黄瀬社長は私の側に寄り、整った指先を私に近づけた。

えっ? と思うと。

私に向けられた指先は耳の上をすっと掠めて。さらりと、髪を触ったかと思うとすぐに離れた。

その行動にどきりとしてしまうと、その指先には葉っぱがあった。

「あっ、それは」

ここに来る途中、私が顔をぶつけてしまったフェイクグリーンの葉っぱだと思った。

「青樹さんは葉っぱじゃなくて、綺麗な髪留めとかが似合うと思う。よかったら今度贈ろうか?」

悪戯っぽく言う、黄瀬社長に顔が熱くなった。

「す、すみません。今後、このようなことがないように、身嗜みには充分に気をつけて行きます」

秘書なのに恥ずかしい。キョロキョロしていた私のバカ! 
と思いながら再度、お礼を言って私は素早く秘書室を後にした。

そしてビルの外に出て、近くのカフェチェーン店に入り。アイスティー片手に店内の隅の席に座り込むと──。

どっと、いろんな感情が溢れ出た。

「ウチの社長がカッコ良すぎる……! 黄瀬は元々カッコよかったけどさらに磨きが掛かってない? 芸能人みたい! 凄くスマートだったしっ。スーツもあれは既製品じゃなくて、オーダーね。社長のセンスレベルも高いっ」

さすがキセイ堂を背負って立つ人間。凄いなぁと思いながらアイスティーを一口飲む。

「……さぞかしモテるんだろうな。昔の私の告白はやっぱり気の迷いで多分、周りに唆されて罰ゲームを実行したんだろうな……」

今日しっかりと会話して、黄瀬君は誠実そのものだった。本人が嬉々として罰ゲームをしたと思えなかった。
きっと男子達の会話に流されたとか、勝負に負けて引っ込みがつかなったとか。

黄瀬君には黄瀬君の理由があったんだろう。

「そう言えば、告白してくれたときはガチガチで、噛みまくりで……こんなカッコいい人でも緊張するんだぁって思ったけど」

あれは嘘を付く罰ゲームだったから。その誠実さゆえに緊張していたのかなと思えば腑に落ちた。

アイスティーのストローをくるりと回せば、カランと氷の硬い音がする。

「はぁ。本人を見るとやっぱり色んなことを考えちゃうなぁ」

吐き出した吐息は思ったより、深いものだった。

「だってさ、初恋だったもん」

そう簡単に割り切れない。分かっていてもロジックと感情はワンセット。
緩んだ頭を引き締めるように、冷たいアイスティーを喉に流し込む。

あんなハイスペ社長。きっと彼女がいるだろう。その彼女の為に堅物だとか、そう言った態度を取っていた可能性もある。

「こう、悶々としてしまうのは初恋と言う青春の呪いね」

仕事初日だし。色々思ってしまうのは仕方ない。これから秘書として社長に接していけば、この呪いも薄れていくだろう。

何より、社長と秘書が恋に落ちるなんてあり得ない。

恋人だから秘書になった。恋人だからキセイ堂の秘書になれた。

なんて思われた日には、周囲に何を言われるか考えるだけでゾッとする。

それはもう、赤井社長のところで経験済みなのだ。キセイ堂ではそんな経験したくない。

「だから恋愛より仕事が大事なの」

それなのに──先ほど頭に付いていた葉っぱを優しく取ってくれた黄瀬君のことを思い出せば、胸が柔らかく締め付けられた。

「……私ってチョロいのかな」

こんなのは気の迷い。初恋は実らないから初恋なのだ。
そう自分に言い聞かせ、残りのアイスティーを飲み干して気持ちを沈めるのだった。
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