再会した御曹司は 最愛の秘書を独占溺愛する

猫とろ

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秘書に恋愛はまだ早い!?

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その日の夜。
私は久しぶりに祝杯を上げていた。本当は甘いカクテルとか好きなのだがお酒は弱いので、ジンジャーエールにした。

お風呂上がり。広めのワンルームに「再就職やったー!」と言う明るい声が響く。

ごくりとジンジャーエールを飲めば喉がシュワシュワして、心地よい刺激に満足感を感じる。

「んっー、美味しいっ」

そして仕事机に向かい。ドリンクを仕事机の上に置いて、昭義さんから貰ったキセイ堂のパンフレットや資料にゆるりと目を通す。

「化粧品の資料もたくさんね。覚えなくちゃ。それにしても今日のお昼ご飯。まさかお祝いにって、料亭のすき焼き連れて行ってくれるなんて、びっくりしちゃった」

秘書という職業柄、高級店に社長と同席したりすることはあったが、その過去の中でもトップクラスに美味しいお店だった。

さすがキセイ堂。リッチである。
思わずそのまま蕩けるようなお肉の思い出に浸りそうになってしまったが、メディア公開前『キセイ堂・黄瀬薫』と言うプレス用の冊子を見てドキッとした。

「まさか、こんなところ会うなんてね……」

ぱらりと冊子をめくれば、プロのカメラマンに撮影して貰ったであろう。写真の陰影もばっちりに、魅力的に微笑む黄瀬社長が現れた。まるでモデルか芸能人の宣伝写真みたいだ。

「ふーん。益々カッコよくなっちゃって。きっとモテモテなんだろうな。だから私のことなんか忘れて当然かな」

また一口、ジンジャーエールを飲む。
パチンと弾ける炭酸が喉を刺激する。

今日、三人で食事をしたが始終和やかな雰囲気だった。
勤務については一週間後からの出勤。その他勤務形態、給料面の話もしっかりして頂き。
後日送られてくる、資料や契約内容にまた目を通して欲しいと言われた。
提示された給与面や条件は破格。なんでも若い人材をこの気に、どんどん登用したいと言うことらしい。

目の前で中居さんが作ってくれる、すき焼きを頂きながら主な話題は会社の話が中心。
個人的な会話はあまりなかった。

最後に別れ際。黄瀬社長から『秘書として頑張って欲しい。期待している』と当たり障りのない、会話をしたぐらい。

お互いに昭義さんを前に高校時代に罰ゲームで告白があった、なんか言えない。

「高校時代のことはノーカンってとこかな」

それでも食事中。自意識過剰かも知れないが、ずっと黄瀬社長に見られていた気がする。
しかも気を使ってくれたかのか。お肉をどんどん追加して私の前に置いてくれた。

『このお肉をあげるから、罰ゲームのことは黙っていてくれ』

的なことかも知れない……って。

「……さすがにそんなことないか」

ふっと苦笑して。ノートパソコンを立ち上げる。

とにかく、その辺のことは分からないが社長に就任するのに高校時代、罰ゲームで告白した。
なんてエピソード要らないだろう。元より私は言う気はない。

だから『秘書として、今後もよろしくお願いします』と言葉を返した。

それで充分。

さて待機期間の一週間。
キセイ堂の会社概要、役員、子会社、取引先などを頭に叩き込んで、仕事に臨むぞと資料のページもぱらりと捲り。

パソコンにまとめて行くのだった。

今日は初出勤日。
出勤前に自宅の姿見の前で、念入りに服装をチェックしていた。

清潔な白のシャツは紺色のリボンタイ付き。合わすのはグレーベージュのセットアップ。
ヒールは高すぎず、低すぎず。髪型は迷ってお団子ヘアー。
硬い空気になりすぎないように、耳にはゴールドの小さめの粒のピアス。

普通の会社の秘書なら、服装などはカジュアルオフィスで問題ない。
しかし化粧品会社。アパレル。美容関係はある程度、女性らしい華やかな服装が好まれる。
あくまで会社の顔は社長。
しかし、その横に控える秘書が会社の雰囲気と、かけ離れていてはお話にならない。

「だから、今日はこれぐらいの軽やかトーンで様子見。これから黄瀬社長の好みや社風とかも把握しなくちゃね」

よしっと顔をぱしんっと軽く叩いて鞄を持ち。キセイ堂に出勤するのだった。

──意気揚々と出勤して、気がつけばお昼。

最初は社内のオリエンテーションで始まり。コンプライアンス研修。その後に人事部からの雇用確認案内。午後は秘書室で業務確認というスケジュールになっていた。

そしてまだ黄瀬社長とは会ってない。

「本格的に私が黄瀬社長と働くのは、新社長として就任してから、か」

今、黄瀬社長は昭義さんや上役からの引き継ぎなど、色々と忙しいのだろう。

「それでも初日だから、挨拶ぐらいしたいけどな」

そして私は午後に備えるべく。地下の食堂にいたのだ。

この食堂はビル共通なので、今の時間は活気にあふれていた。

そこで人の流れを見ながら、持参したお弁当を食べる。

「いやぁ。さすがキセイ堂本社。綺麗な人が多かったな。男性もみんなオシャレって感じだし。皆、優しかったし。キセイ堂のコスメはこれから揃えて行かないとね」

なので、こうして少しでも節約に臨んでいた。
もぐもぐと、お手製のお稲荷さんを食べながら一日でも早くキセイ堂に慣れたいと思った。

私の噂は調べようと思ったら、幾らでも調べられる。黄瀬社長も昭義さんも、私のことを事前に調査をしていてもおかしくない。

そんな私を中途採用で雇ってくれたのだから感謝しかない。
感謝は仕事で返していきたい。

「さて、午後も頑張りますか」

残りのお稲荷さんとちくわの磯辺揚げを食べて、早めに秘書室に向かおうと思った。

そうして昼食を終えて、秘書室に向かう。
社長室フロアの下。主に経理や人事部などが入ったフロアの奥が秘書室だった。

ここのフロアもオリエンテーションで見て回った営業部などと同じく、オープンエリア仕様。
各部署はフェイクグリーンなどで仕切られていて、明るいオフィスだった。

まだ昼食を食堂で楽しんでいる人達がいるせいか、オフィスには人が少なかった。

そんながらんとしたオフィスの通路側にめざとく、ウォーターサーバーの設置を見つけた。その隣にはお菓子やパン、食品。カップ式ドリンクの自動販売機が豊富にならび、流石一流企業だと思った。

「わ。どれも最新式のやつ。ラインナップも充実してる」

こう言うのがあるか、ないかでやはり働くテンションは異なってくる。
次に目に飛び込んで来たのはフロアの一角。
ガラス張りの部屋。その一つが秘書室になっていた。

見通しがよく、実に働きやすい環境づくりだと関心した。

「akaiの会社はこう、ショールームみたいに派手だった。会社が変われば、やっぱり雰囲気も変わるものね」

興味深くて人が少ないことをいいことにオフィスの端をキョロキョロして歩くと、壁に掛けてあったフェイクグリーンにボフッと顔をぶつけてしまった。

とても恥ずかしい。

すぐになんでも無かったように姿勢を整える。

「も、もうっ。私ったらよそ見しないのっ」

ツカツカと歩き、恥ずかしさを紛らしながら『秘書室』に向かった。
秘書室は目線の高さにモザイクガラスが使用されていて、オシャレなカフェの外観みたいだ。
その中にはどうやら一人、誰かがいるようで机に座っている人影があった。

すうっと呼吸を整えて、扉を三回ノックする。すると部屋の中から「どうぞ」と聞こえてきて。
失礼しますと、まるで面接者のような生真面目さで部屋に入り。挨拶をして前を向いた。

「本日付けで秘書室に配属された青樹です、って……え。き、黄瀬社長?」

部屋の中に居たのは先輩秘書ではなく、グレーのスーツに身を包んだ黄瀬社長だった。

驚く私をよそに黄瀬社長は私を見て、上品に微笑んだ。
「──黄瀬、社長?」

「こんにちは。今日は初出勤だったよね。挨拶をしたくてここに来た。青樹さん。これから、よろしくお願いします」

そう言うと席を立ち上がり、わざわざ私の前に立ち。驚いて行き場のない手をすっと握られてしまった。

その握手ですら私はまた驚いてしまう。

「は。はいっ。こちらこそお願いします」

咄嗟のことでぎこちない挨拶と握手になってしまった。それでも黄瀬社長は優しく笑ってくれていた。

「それと、まだ社長に就任してないから社長と言わなくていい。リッラクスしてくれ」

そんなことを言われても無理ですと首を横にふる。
それよりも室内に他の人がいないことに気がつくと黄瀬社長が苦笑した。

「挨拶も目的だったが、実は社長お祖父様のお達しでね。俺が青樹さんにレクチャーして若い者達同士、仲良くしなさいと言われてしまった」

「あ、昭義さんってば……!」

「だから俺が代理で業務案内をしようと思う。俺も秘書みたいにお祖父様の鞄持ちをしていたから、秘書業務のある程度のことはわかる。マニュアルもここにある」

黄瀬社長は視線を机の上の赤いファイルへと流す。
きっとそれがマニュアルなんだろう。

そして「明日はちゃんと、先輩秘書が案内すると言っていたので安心してくれ」と言った。

秘書のやることは会社が違えど、基本的には変わらない。
いかに社長の仕事のスケジュールを把握して、社長が効率的に動けるか。ときには社長の負担を減らすように、スケジュールを管理するかが重要。

社長とのコミュニュケーションは必須。

その本人がいるので、びっくりはしたけども直接話が出来るのは良いと思った。

私はそうなんですねといいながら、いつまでも驚いている場合じゃないと。佇まいを直し、部屋に一歩進んだ。

「では、えっと黄瀬社長。本日の説明をお願いしても良いでしょうか?」

すると黄瀬社長は軽く頷き、私を席へと進めた。円卓の席に座ると、黄瀬社長も私の向かいの席に着いて口を開いた

「そうだな。まずはマニュアルがここにあるが──」

そこでチラッと私を見て。懐からスマホを取り出し机の上に置いた。

「マニュアルはまた後で見て貰うとして。社長就任式までの今後の俺のおおまかなスケジュールが既に決まっている。この秘書専用のスマホにスケジュールは既に入れておいた。初日だが早速、そのことについて詳しく詰めていきたいが、どうだろう?」

黄瀬社長の整った瞳にほんの僅かに「初日からやれるか?」という挑戦めいたものが見られて、思わず望むところだと思った。

「問題ありません。キセイ堂の役員の名前、就任式のホテル会場の場所などはもう頭に入れております。不足があれば、申し訳ありませんが補足をお願いします」

「俺の秘書は頼もしい限りだ。その調子で頼む」

俺の秘書。

他意はないとわかっているのに、その言葉が頭にこびりついてしまう。

ふっと笑う黄瀬社長に私も笑顔を作る。

そうか私達。男女の縁は無かったが仕事の縁はあった。
こう言う運命もあるのだと思いながら、秘書専用のスマホを手に取るのだった。
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