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社長、ドキドキしてしまいます!
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私は昨晩。
あっさり果てると気を失ってホテルの裏口からこっそりと、タクシーでこの病院に搬送された。
そして昨夜あったことを思い出して、あぁぁと病院の個室ベッドの上で懊悩していた。
何故なら──自分が働く会社の社長の手でイってしまったからだ。まだ普通にバーで口説かれて、一晩過ごしたと言うのならまだしも。
赤井社長やら、サプリやらで、こんなことが起きるなんて!
「…………これはクビかな?」
ベッドの上で笑えない言葉を呟く。
先ほど看護師さんから聞いたが、ここは市内から少し外れた場所にある。黄瀬一族御用達の病院だった。
運ばれたときの記憶はうろ覚えで、点滴と採血をされた記憶が微かに残っているぐらい。
私は不幸中の幸いというか。胃洗浄を行うまでもなく。病院に運ばれた安心感から点滴中にぐっすりと眠りについてしまった。
そうして、朝起きると看護師さんから体には何も異常もなく。私が飲んでしまったサプリはアルコールによって、中枢神経に一時的に作用してしまい。意識障害が起こったこと。そして私はアルコールに非常に弱い体質だと、言うことも教えて貰い。
多少の胃のムカつきはあるものの、出された朝食は食べれた。血圧を測って貰うとそれも問題なく。血液検査もクリア。
午後には退院しても大丈夫だと言われた。
変なサプリを飲んだのに、体が無事で良かったと思う。黄瀬社長が来てくれなかったら私は今ごろと考えると、体が震える。
「今後も赤井社長には用心しなきゃね」
全ては黄瀬社長のおかげだと胸を撫でおろし、ふと患者衣を着ていることに気付いた。
「あ、私の洋服って」
ここを出るときまさか。昨日のドレスを着て帰るハメになるのかと、現実的な問題に一瞬どうしようと思うとベッドサイドにある白い袋を見つけた。
その袋には「黄瀬様からです」と言うメモがあり。
中を見ると、タグ付きの女性用のシンプルな洋服、靴などがあった。
凄く助かったと思うのと、迷惑ばかりかけてしまったとまた頭を下げてしまう。
そして──時計を見るとお昼前。パタリとベットの上に倒れ込む。
クリーン過ぎて何も香らない病院のリネンを前に、私の悩みだけがくっきりと浮かぶ。
「黄瀬社長にどんな顔して会ったらいいのか分からない……今日と明日はたまたま仕事が休みだけど、明後日からどうしたら」
口ではそう言いながらもスマホを握り。黄瀬社長にひとまず連絡を取らなくてはと思った。それに赤井社長のこと。
確認することが多い。
いつまでも寝ている場合ではないと、だんだん頭が冴えてきた。よしっと思いガバッと起き上がる。
「体に問題ないのに、病室を占拠する訳にはいかない」
ひとまず身支度を整えて。それから各所に連絡をしようと思った。
そのとき、コンコンとまた病室の扉を叩く音がした。
はいと、返事をすると扉が開き。そこに居たのは今日もスーツをキッチリと着こなした黄瀬社長だった。
「!!」
「おはよう。見舞いに来た。今いいか?」
その表情はどこか照れくさそうに見えてしまった。
いいも悪いもない。お見舞いに来てくれて嬉しい。
どうしようと頭の中でいろんなことが駆け巡り。早く何か言わなきゃと、出て来た言葉は。
「はい。大丈夫です。昨日は大変申し訳ありませんでした。私の時間は大丈夫ですが、社長のスケジュールは問題ありませんか?」
と言う──秘書としての言葉。
言った後にもっと他に言う言葉があるじゃない
! 私のバカっ。
と頭を抱えてしまうと黄瀬社長はクスクスと笑って「体調はよそさうだな」と、ベッドの隣の椅子に腰掛けるのだった。
「隙間時間を見てここに来た。あまり長いが出来ないから要点だけ言う。いいか?」
身嗜みを気にしつつ「はい」と頷く。
「まず体調に問題がなくて本当に良かった。もし体調が少しでも、おかしいと感じたらここの病院に通えばいい。事情は通してある」
それも大変助かると思い。はいと返事をする。
「赤井社長のことだが、今のところ妙な動きはない。昨日、ホテルを出るときはホテルのスタッフにも協力して貰って紗凪が……あ、失礼した。青樹さんが病院に運ばれたことは外に漏れてないはずだ」
「……お手を掛けてしまい、すみません」
今、紗凪って言われた。
凄くドキッとしたけど、ここは病室。シーツを握って気持ちを誤魔化した。
「君が謝ることじゃないさ」
にこりと爽やかに笑う黄瀬社長に申し訳なさが募る。そして赤井社長のこと。今は変な動きはないけど、SNSなどで何を発信するか分からない不気味さを感じた。
そうだ、あの不審な電話のことを話すらなら今のタイミングだと思い。手短にあの電話のことを話した。
すると黄瀬社長は「きな臭いな」と一言呟いた。
「一度、経営状況をデータバンクと商工リサーチをチェックしてみるか」
「私もオープンワークを見てみます」
メモを取りたいと思い。スマホを手にすると、黄瀬社長が手を重ねてきた。
それだけで私の鼓動が飛び跳ねる。
この整った指先が昨日、私に触れたと思うと頬が熱くなってしまった。
ゆっくりと黄瀬社長を見つめる。
「今は仕事のことを忘れて体を大事にしろ。昨日の赤井社長の行動はやり過ぎている。電話のことや君との個人的な私怨などが否めないが、俺の秘書を守るのも仕事だ。そして俺自信が会社に関係なく、君を守ることを強く望んでいる。その上で昨日ことを、警察に相談したいと言うのなら力になる」
「黄瀬社長……」
黄瀬社長の気遣いはとても嬉しい。
でも警察に相談すると言う、現実的な問題に少し頭を悩ます。
赤井社長のことは腹立たしいが、昨日のことを警察に訴えたとしても証拠が何もない。
そしてホテルでの出来事。私と黄瀬社長とのプライベートなことを、公にしなくてはならない可能性だってある。
そう言ったことを天秤に掛けて、悩んだ上で言葉を口にした。
「赤井社長が私にしたことや、黄瀬社長への挑発的な態度は許せない。でも今回は警察に訴えて、事件にしたくはありません。すみません。この悔しさは仕事で百万倍で返したいです」
それではダメですかと? とお伺いを立てるように黄瀬社長をみつめると、静かに首を縦にふった。
「分かった。青樹さんの意見を尊重する。でも気が変わったらいつでも相談して欲しい。そして──千万倍でお返ししてやろうじゃないか」
室内にいつの間にか張り詰めていた空気が、今の言葉で柔らかくなり。私も黄瀬社長も互いに微笑した。すると黄瀬社長がコホンと咳払いした。
「ここからは俺の私情だが、昨日のことも含めて。このまま有耶無耶に出来ない。本当の俺の気持ちをここで喋るには時間が足りない。だから明日。体調に問題なければ、夕方ごろ俺とデートをしよう」
「デート……?」
「なんとかスケジュールを調整した。本当は朝から迎えに行きたいところだけどな」
「ま、待って下さいっ。、デートって、あのデートですかっ!?」
「そのデートだ。何度でも誘うと言っただろ? 俺は赤井社長みたいに君を傷つけないから、安心して欲しい」
「……!」
「俺はあの夜だけで終わるつもりはない」
しなやかに重ねられた手に力がこもる。
まるで心の柔らかな部分も掴まれてしまったと思った。
言葉に詰まると、黄瀬社長は瀟洒なデザインの腕時計を見て済まなさそうに微笑んだ。
「外に車を待たせているから、もう行かないと行けない」
重なった手がゆっくりと離れた。
「あのっ。病院とか洋服とか、色々とありがとうございます」
手早く感謝の気持ちだけでも伝える。黄瀬社長は気にするなと、首を横に振った。
「明日、君の家に迎えに行く。体調が悪かったら無理はしなくていいから。その時は連絡が欲しい。じゃあ、また」
そう言うと黄瀬社長は椅子から立ち上がって、私の肩をポンと叩いてさっと病室を出て行った。
扉が完全に閉まってから──わぁっと、ベッドの上で赤面してしまう。
それに『傷つけない』と言う言葉に胸が暖かくなった。
「う、嬉しいつっ。でも……やっぱり社長、昨日のこと覚えていた。そりゃ当然よね。ってか、私すっぴんだった……! いや、そうじゃなくて明日デート!?」
色んな感情が襲ってきてドギマギするが、最終的には正直、大変嬉しいという感情に落ち着いた。
昨日あんなことがあって、私は何を言われても仕方ないほどに迷惑を掛けている。
なのに心配までしてくれて、普通に接してくれるだけでありがたい。
それに私だって、今の短い間では私の思っていることは何も伝えられなかった。明日はきっと互いの気持ちを話す良い機会だと思った。
黄瀬社長が出て行った扉を見つめ。
ふうっと肩の力を抜いた。
今日は家に帰って体調を整えよう。
出来たら無理をしない程度に、昨日のパーティの振り返りとか名刺をまとめたい。
何もしないほうが逆に落ち着かない。
だって私は黄瀬社長の秘書だから。
そうやって頭も心も整理して、明日のデートに臨もう。スケジュールが決まると、頭がクリアになって行くのだった。
スモーキーピンクのカットソーワンピースに、足首をキュッと見せるベージュのアンクルストラップのヒール。
「服装こんな感じで、いいよね?」
玄関横の姿見で、ワンピースの裾をひらりと翻して服装をチェックしていた。
お陰様で私の体調は何も問題なし。いつも通り。そして一日も経てば気持ちも落ち着いていた。
黄瀬社長とのデート、いや。黄瀬君とのデートを今から楽しみにしていた。
その証拠に普段では付けない。可愛いクリップ式のビーズタッセルイヤリングが、耳元できらりと光っている。
「ドキドキする」
今日はきっと高校時代のことも話すことだろう。そして私達の今と、これからのことも。
しゃらりとイヤリングを揺らして、玄関の時計を見ると十七時過ぎ。防犯ベルと、家の鍵が連なったキーケースを手にする。
防犯ベルは赤井社長からの教訓である。
何かあったとき、自分を危険に晒したら身も蓋もない。
今度変な目にあったら容赦なく、どんな場面だろうとこの防犯ベルを使って自分の身を守ろうと思った。
「……そんなシーンない方がいいんだけどね、って、そろそろ約束の時間だ」
わざわざ私の家のマンションまで、来てもらうなんて恐縮だったが、駅や会社で待ち合わせなどしたら会社関係の人に見つかる恐れもある。
だから待ち合わせ場所を私の家の下にした。
地位ある人は大変だなと、改めて思いながら鞄と小さな紙袋も手に持って家を後にした。
マンションの下はすぐ道路に面しているので、車が止められる場所はなく。
待たせては路駐になってしまうので、キョロキョロと辺りを見回すと、私の前にすっとホワイトの高級車が止まった。
あっさり果てると気を失ってホテルの裏口からこっそりと、タクシーでこの病院に搬送された。
そして昨夜あったことを思い出して、あぁぁと病院の個室ベッドの上で懊悩していた。
何故なら──自分が働く会社の社長の手でイってしまったからだ。まだ普通にバーで口説かれて、一晩過ごしたと言うのならまだしも。
赤井社長やら、サプリやらで、こんなことが起きるなんて!
「…………これはクビかな?」
ベッドの上で笑えない言葉を呟く。
先ほど看護師さんから聞いたが、ここは市内から少し外れた場所にある。黄瀬一族御用達の病院だった。
運ばれたときの記憶はうろ覚えで、点滴と採血をされた記憶が微かに残っているぐらい。
私は不幸中の幸いというか。胃洗浄を行うまでもなく。病院に運ばれた安心感から点滴中にぐっすりと眠りについてしまった。
そうして、朝起きると看護師さんから体には何も異常もなく。私が飲んでしまったサプリはアルコールによって、中枢神経に一時的に作用してしまい。意識障害が起こったこと。そして私はアルコールに非常に弱い体質だと、言うことも教えて貰い。
多少の胃のムカつきはあるものの、出された朝食は食べれた。血圧を測って貰うとそれも問題なく。血液検査もクリア。
午後には退院しても大丈夫だと言われた。
変なサプリを飲んだのに、体が無事で良かったと思う。黄瀬社長が来てくれなかったら私は今ごろと考えると、体が震える。
「今後も赤井社長には用心しなきゃね」
全ては黄瀬社長のおかげだと胸を撫でおろし、ふと患者衣を着ていることに気付いた。
「あ、私の洋服って」
ここを出るときまさか。昨日のドレスを着て帰るハメになるのかと、現実的な問題に一瞬どうしようと思うとベッドサイドにある白い袋を見つけた。
その袋には「黄瀬様からです」と言うメモがあり。
中を見ると、タグ付きの女性用のシンプルな洋服、靴などがあった。
凄く助かったと思うのと、迷惑ばかりかけてしまったとまた頭を下げてしまう。
そして──時計を見るとお昼前。パタリとベットの上に倒れ込む。
クリーン過ぎて何も香らない病院のリネンを前に、私の悩みだけがくっきりと浮かぶ。
「黄瀬社長にどんな顔して会ったらいいのか分からない……今日と明日はたまたま仕事が休みだけど、明後日からどうしたら」
口ではそう言いながらもスマホを握り。黄瀬社長にひとまず連絡を取らなくてはと思った。それに赤井社長のこと。
確認することが多い。
いつまでも寝ている場合ではないと、だんだん頭が冴えてきた。よしっと思いガバッと起き上がる。
「体に問題ないのに、病室を占拠する訳にはいかない」
ひとまず身支度を整えて。それから各所に連絡をしようと思った。
そのとき、コンコンとまた病室の扉を叩く音がした。
はいと、返事をすると扉が開き。そこに居たのは今日もスーツをキッチリと着こなした黄瀬社長だった。
「!!」
「おはよう。見舞いに来た。今いいか?」
その表情はどこか照れくさそうに見えてしまった。
いいも悪いもない。お見舞いに来てくれて嬉しい。
どうしようと頭の中でいろんなことが駆け巡り。早く何か言わなきゃと、出て来た言葉は。
「はい。大丈夫です。昨日は大変申し訳ありませんでした。私の時間は大丈夫ですが、社長のスケジュールは問題ありませんか?」
と言う──秘書としての言葉。
言った後にもっと他に言う言葉があるじゃない
! 私のバカっ。
と頭を抱えてしまうと黄瀬社長はクスクスと笑って「体調はよそさうだな」と、ベッドの隣の椅子に腰掛けるのだった。
「隙間時間を見てここに来た。あまり長いが出来ないから要点だけ言う。いいか?」
身嗜みを気にしつつ「はい」と頷く。
「まず体調に問題がなくて本当に良かった。もし体調が少しでも、おかしいと感じたらここの病院に通えばいい。事情は通してある」
それも大変助かると思い。はいと返事をする。
「赤井社長のことだが、今のところ妙な動きはない。昨日、ホテルを出るときはホテルのスタッフにも協力して貰って紗凪が……あ、失礼した。青樹さんが病院に運ばれたことは外に漏れてないはずだ」
「……お手を掛けてしまい、すみません」
今、紗凪って言われた。
凄くドキッとしたけど、ここは病室。シーツを握って気持ちを誤魔化した。
「君が謝ることじゃないさ」
にこりと爽やかに笑う黄瀬社長に申し訳なさが募る。そして赤井社長のこと。今は変な動きはないけど、SNSなどで何を発信するか分からない不気味さを感じた。
そうだ、あの不審な電話のことを話すらなら今のタイミングだと思い。手短にあの電話のことを話した。
すると黄瀬社長は「きな臭いな」と一言呟いた。
「一度、経営状況をデータバンクと商工リサーチをチェックしてみるか」
「私もオープンワークを見てみます」
メモを取りたいと思い。スマホを手にすると、黄瀬社長が手を重ねてきた。
それだけで私の鼓動が飛び跳ねる。
この整った指先が昨日、私に触れたと思うと頬が熱くなってしまった。
ゆっくりと黄瀬社長を見つめる。
「今は仕事のことを忘れて体を大事にしろ。昨日の赤井社長の行動はやり過ぎている。電話のことや君との個人的な私怨などが否めないが、俺の秘書を守るのも仕事だ。そして俺自信が会社に関係なく、君を守ることを強く望んでいる。その上で昨日ことを、警察に相談したいと言うのなら力になる」
「黄瀬社長……」
黄瀬社長の気遣いはとても嬉しい。
でも警察に相談すると言う、現実的な問題に少し頭を悩ます。
赤井社長のことは腹立たしいが、昨日のことを警察に訴えたとしても証拠が何もない。
そしてホテルでの出来事。私と黄瀬社長とのプライベートなことを、公にしなくてはならない可能性だってある。
そう言ったことを天秤に掛けて、悩んだ上で言葉を口にした。
「赤井社長が私にしたことや、黄瀬社長への挑発的な態度は許せない。でも今回は警察に訴えて、事件にしたくはありません。すみません。この悔しさは仕事で百万倍で返したいです」
それではダメですかと? とお伺いを立てるように黄瀬社長をみつめると、静かに首を縦にふった。
「分かった。青樹さんの意見を尊重する。でも気が変わったらいつでも相談して欲しい。そして──千万倍でお返ししてやろうじゃないか」
室内にいつの間にか張り詰めていた空気が、今の言葉で柔らかくなり。私も黄瀬社長も互いに微笑した。すると黄瀬社長がコホンと咳払いした。
「ここからは俺の私情だが、昨日のことも含めて。このまま有耶無耶に出来ない。本当の俺の気持ちをここで喋るには時間が足りない。だから明日。体調に問題なければ、夕方ごろ俺とデートをしよう」
「デート……?」
「なんとかスケジュールを調整した。本当は朝から迎えに行きたいところだけどな」
「ま、待って下さいっ。、デートって、あのデートですかっ!?」
「そのデートだ。何度でも誘うと言っただろ? 俺は赤井社長みたいに君を傷つけないから、安心して欲しい」
「……!」
「俺はあの夜だけで終わるつもりはない」
しなやかに重ねられた手に力がこもる。
まるで心の柔らかな部分も掴まれてしまったと思った。
言葉に詰まると、黄瀬社長は瀟洒なデザインの腕時計を見て済まなさそうに微笑んだ。
「外に車を待たせているから、もう行かないと行けない」
重なった手がゆっくりと離れた。
「あのっ。病院とか洋服とか、色々とありがとうございます」
手早く感謝の気持ちだけでも伝える。黄瀬社長は気にするなと、首を横に振った。
「明日、君の家に迎えに行く。体調が悪かったら無理はしなくていいから。その時は連絡が欲しい。じゃあ、また」
そう言うと黄瀬社長は椅子から立ち上がって、私の肩をポンと叩いてさっと病室を出て行った。
扉が完全に閉まってから──わぁっと、ベッドの上で赤面してしまう。
それに『傷つけない』と言う言葉に胸が暖かくなった。
「う、嬉しいつっ。でも……やっぱり社長、昨日のこと覚えていた。そりゃ当然よね。ってか、私すっぴんだった……! いや、そうじゃなくて明日デート!?」
色んな感情が襲ってきてドギマギするが、最終的には正直、大変嬉しいという感情に落ち着いた。
昨日あんなことがあって、私は何を言われても仕方ないほどに迷惑を掛けている。
なのに心配までしてくれて、普通に接してくれるだけでありがたい。
それに私だって、今の短い間では私の思っていることは何も伝えられなかった。明日はきっと互いの気持ちを話す良い機会だと思った。
黄瀬社長が出て行った扉を見つめ。
ふうっと肩の力を抜いた。
今日は家に帰って体調を整えよう。
出来たら無理をしない程度に、昨日のパーティの振り返りとか名刺をまとめたい。
何もしないほうが逆に落ち着かない。
だって私は黄瀬社長の秘書だから。
そうやって頭も心も整理して、明日のデートに臨もう。スケジュールが決まると、頭がクリアになって行くのだった。
スモーキーピンクのカットソーワンピースに、足首をキュッと見せるベージュのアンクルストラップのヒール。
「服装こんな感じで、いいよね?」
玄関横の姿見で、ワンピースの裾をひらりと翻して服装をチェックしていた。
お陰様で私の体調は何も問題なし。いつも通り。そして一日も経てば気持ちも落ち着いていた。
黄瀬社長とのデート、いや。黄瀬君とのデートを今から楽しみにしていた。
その証拠に普段では付けない。可愛いクリップ式のビーズタッセルイヤリングが、耳元できらりと光っている。
「ドキドキする」
今日はきっと高校時代のことも話すことだろう。そして私達の今と、これからのことも。
しゃらりとイヤリングを揺らして、玄関の時計を見ると十七時過ぎ。防犯ベルと、家の鍵が連なったキーケースを手にする。
防犯ベルは赤井社長からの教訓である。
何かあったとき、自分を危険に晒したら身も蓋もない。
今度変な目にあったら容赦なく、どんな場面だろうとこの防犯ベルを使って自分の身を守ろうと思った。
「……そんなシーンない方がいいんだけどね、って、そろそろ約束の時間だ」
わざわざ私の家のマンションまで、来てもらうなんて恐縮だったが、駅や会社で待ち合わせなどしたら会社関係の人に見つかる恐れもある。
だから待ち合わせ場所を私の家の下にした。
地位ある人は大変だなと、改めて思いながら鞄と小さな紙袋も手に持って家を後にした。
マンションの下はすぐ道路に面しているので、車が止められる場所はなく。
待たせては路駐になってしまうので、キョロキョロと辺りを見回すと、私の前にすっとホワイトの高級車が止まった。
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