再会した御曹司は 最愛の秘書を独占溺愛する

猫とろ

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社長は最愛の秘書を独占溺愛する

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私は黄瀬さんとの待ち合わせの駅に、少し早くついてしまい。待っているあいだスマホの画面をじっと見つめていた。

今日は黄瀬さんの家にお泊まりの約束の日。
気持ちが早ってしまって案の定、早く着いてしまった。

別にスマホを見なくてもデパートが近いこの駅は、駅前に本屋やカフェや雑貨屋など。時間を潰せる場所はいくらでもあった。

けれども私は待ち合わせ場所の大時計の前を動かずにいた。ここは日陰にもなっていて、今日は程よく風もあるので待っていても苦にはならない。

手にしたスマホには何回も見た、あの赤井の謝罪会見の画像があった。

黒のスーツに身を包み。心痛な面持ちで頭を下げている赤井。

その見出しには『給料使い込み』『傲慢社長のワンマン経営』などと、大きく文字が記載されていて、その下の文章にはakaiクリニックは倒産したものの。問題は山積みでこれから、法務機関も交えて対応に注目が集まると書かれていた。

そこに私の名前は一切、どのメディアでも報じられることはなかった。
きっとこれからも私の名前は出てくることが無いだろうと感じた。

スマホを手に持っていた、大きめのトートバッグに入れる。

「謝罪の手紙が来たけど、これも世に出回ることはないだろうな……」

実は昨日、会社を通して届いた赤井からの謝罪の手紙は印刷されたものであった。

内容は正直に言うと、どこかの謝罪文章をコピペしたかのようなものだった。
しかし、末尾に書かれたサインは私が知っている『赤井社長』の直筆サインで、それは──文字が震えたサインだった。
自分でも甘いかもと思わなくもないが、震える文字に赤井の更生のチャンスがあると思ったのだ。

「うん。それでいいよね……」

呟いても誰かが返事をする訳でもない。
それも良いと思って、顔を上げて空を見上げた。

「ん、今日もいい天気」

風がオリーブカラーのワンピースの裾を揺らした。

かつて勤務していた会社がこんなことになるなんて。人生なにが起きるかわからない。

どこまでも澄み切っている、スカイブルーの空を見上げて思う。

私はアカイクリニックを辞めてから、無意識のうちに何でも一人で頑張って、頑張って、仕事をこなさないと行けない思っていたような気がする。

だから黄瀬さんとのお付き合いも、自信が持てなくて黄瀬さんを待たせてしまった。

頑張って仕事をして、少しは自信がついたと思った矢先にミスをした。
でもそれを許してくれる人がいる。私が困ったら助けてくれる人がいる。

誰だって躓きながら生きている。

今度誰かが躓いていたら、私が手を差し伸べたらいい。そして真っ先に手を差し伸べたいと思う人が黄瀬さんだ。

黄瀬さんがどんな立場だって関係ない。

高校時代。
好きな人のことを信じてあげれずに、他人に惑わされた初恋は紆余曲折を得て、今。本当の意味で実ったと思った。

「時間、掛かっちゃったなぁ……」

爽やかに吹く風に、微笑み。
物思いに耽ってしまいそうになると「紗凪」と明るい声で名を呼ばれた。

声の方向を見ると、雑踏の中でも目立つ凛々しい姿の黄瀬さんがいた。

グレイのジャケットに白のシャツ。ネイビーのパンツスタイルはシンプルだからこそ、黄瀬さんの魅力を引き立たていた。

そして一応、気持ち程度の変装として黄瀬さんは薄いブルーのカラーレンズをつけていた。
それだけでいつも違う雰囲気。私の前に立つ黄瀬さんに見惚れてしまう。

あぁ。
──めちゃくちゃカッコいい。ほら、周りの女子達も黄瀬さんに注目している。

「お待たせ。さ、買い物に行こうか。トートバッグ、俺が持つよ」

「めちゃくちゃカッコいい」

「え?」

心の声が漏れてしまい慌てる。
「じゃ、じゃなくて! いや、その通りなんですけども。えっと、バッグ大丈夫です。もう肩は治ってますから」

元気よく肩を動かす。でも黄瀬さんがすっとトートバッグに手を伸ばして、軽やかに奪われてしまった。

「いいよ。気にしないで。このトートバッグ、今日の為のお泊まりグッズとか入っているんだろ? 用意してくれてありがとう」

ニコッと微笑まれて。私の手も掴んで歩き出されたら、何も言えなくなってしまった。

「さてと、今からデパートで買出しツアーだな。荷物持ちと財布は任してくれ」

「そんな。私だって食べるんだから費用ぐらい出します」

「優秀なシェフはそんなことしなくていい」

黄瀬さんは楽しそうにデパートへと足を進めた。
今日私が作る予定の料理はいたって普通の家庭料理。
肉じゃがとか鰤の照り焼きに、大根の和風サラダとか。
本当はスーパーで買い物で充分だけども、私の初のお家訪問。その記念に華やかにしたいと言ってくれて、一緒に買物することになったのだった。

その気持ちが嬉しいし、庶民な私はデパートで好きなだけ買っていいと言われたら、すごくワクワクしてしまう。

「ありがとうございます。今日は腕によりを掛けて作りますね!」

「俺にも手伝えることがあったら言ってくれ。そうそう、今日のデザートはメロンタルトが良いと思っているんだけどどうかな?」

それは先日私がエコバッグを落としてしまって、せっかく貰ったメロンをダメにしてしまったと。
しょんぼりしてしまったことを覚えていてくれたと思った。

ふふっと笑って、黄瀬さんの手をきゅっと強く握る。

「バッチリですっ。確かここのデパートに美味しいケーキ屋さん『レトワール』って言うお店があるので、そこに行きましょう! 今から楽しみ」

ぐいっと私が黄瀬さんの手を引っ張る。

黄瀬さんは慌てると転けるからと苦笑する。
こんな他愛のない会話はまるで新婚夫婦みたいだなって、明るい日差しのなか思うのだった
デパートで普段よりちょっといい食材をたっぷりと購入してから、軽くカフェで休憩。
ひと休みのあと、最後に宝石みたいにツヤツヤしたメロンたっぷりのタルトを購入して、そこから車で移動して黄瀬さんのお家にお邪魔した。
黄瀬さんのお家は高級住宅というに相応しい家だった。家の間取りがとにかく広い。天井が高い。

デザインがどこもかしこも洗練されていて、月並みだけども、高級ホテルの部屋をそのまま住宅へクラスチェンジしたかのような家だった。

ドギマギしながらもキセイ堂のコレクションルームを拝見させて貰い、貴重な限定コフレや、サンプル品。廃盤品から最新の化粧品棚。
数々のパンフレットをまとめた書架は圧巻で、ミニミュージアムぐらいのボリュームはあった。
可愛いデザインの化粧品達に夢中になって、このまま一日中過ごせる勢いだった。

黄瀬さんは良かったら持って帰ったらいいと気前よく、ドッサリと化粧品のサンプルをくれた。

もう、これだけで至れり尽せり。俄然と今から作る料理に熱が入った。

そんな思いで立ったアイランドキッチンは、初めこそ広さにびっくりしたけど、黄瀬さんのサポートもあって普段通り。愛情は普段の百倍込めて料理を作り上げたのだった。

テーブルランナーと生花が飾られたテーブルの上に、アツアツ炊き立てご飯。
具沢山豚汁。お漬物。鰤の蜂蜜照り焼き。新じゃがの皮付き肉じゃが。大根のジャコサラダ。だし巻き卵、明太子入り。とどめにデパートで買った上質のローストビーフ。

広い綺麗なリビングに私が良く作る料理の香りが広がるのは、なんだか嬉しかった。

楽しく食事をして。片付けもして。
食後。ホールで買ったメロンタルトを切り分けて、アイスティーと一緒に完食したころには、お腹は満腹。
私達は広いリビングのソファの上で頭をくっつけながら──お腹いっぱいだと笑いあっていた。

ゆっくりと食事をして、気がつけば二十時を回っていた。この時間でも、帰りを気にせずにゆったりと過ごせるのが心地よい。
「紗凪の料理は美味すぎるから、食べすぎてしまう。この調子だったら太ってしまうけど、それもいいかな」

「ふふっ。太ったら健康のために一緒にジム通いして貰いますから」

「それもいい」と笑う黄瀬さんの肩に額を寄せる。お腹も心も温かで幸せだ。

「今日のは特に出来が良かったですけど、黄瀬さんがいい食材を買ってくれたからですよ。あのローストビーフやメロンタルトとか、さすがに私は作れないし」

「それも美味しかったけど、俺はやっぱり紗凪の料理がいいな。味噌汁が特にうまかった。あれだけでご飯が進む。毎日飲みたいぐらいだ」

本当に美味しかったと、私の肩を抱き寄せてくれてますます嬉しくなった。
黄瀬さんの腕のなか、私に向けて優しく微笑むその顔を見つめる。

「ほんとですか? 実はあれはお母さん直伝で、
ほんの少しバターを入れてコクを出しているんです。私のお父さんもすごく好きで、黄瀬さんがそう言ってくれるなら私、毎日作っても良いですよ」

母の味を褒めてくれて嬉しい。
にっこりと笑っていうと、黄瀬さんは一瞬真面目な顔をした。
私の手を絡め取って、自らの口元へと手繰り寄せた。

指先に柔らかな唇の感触。
でもそれ以上に私を見つめる情熱的な、強い視線に頬が一気に胸が熱くなった。

「紗凪──それは本当? 俺がもし、この……薬指に指輪を贈っても同じことを言ってくれる?」

「!」

それはまるでプロポーズみたいだと思ったけど、先に私が同じようなことを言ってしまっていたと、気が付いて恥ずかしくなる。

あの、その、としか言葉が出てこない。

昭義さんには先日、私達の交際を話した。とは言っても見抜かれていたのだけども。
昭義さんはそれでも、とても歓迎してくれて私達のことを見守ってくれると言ってくれた。

じゃあ、セオリー的にやっぱり互いの両親に報告しなくては。
いや、その前に黄瀬さんのご両親にご挨拶? いや、えっと。どうしたら良かったかなと頭をフル回転させていると、黄瀬さんがクスクスと笑った。

「真面目に考えてくれて、ありがとう。今すぐに答えなんか出さなくていい。次はちゃんとしたところで言うから」

それにと──私の指にキスをしながら。

「まだ指輪を用意してない。紗凪に似合う指輪を考えると、すごく迷ってしまう。だからもう少し待っていてくれ」

と、囁かれた。
恥ずかしくて、嬉しくて、言葉に詰まってしまいそうになるけど。私の気持ちも伝えたくて。
ごくりと喉を鳴らして、なんとか口を開いた。
「っ、ゆ、指輪は、なくても大丈夫です。私は……黄瀬さんがいれば、それだけで充分ですから」

すると黄瀬さんはぎゅっと私を抱き締めた。
こんなに広いリビングでぴったりと抱き合う私達。本当に両思いだと実感が深まる。

「ありがとう。でも俺は足りない。もっと紗凪が欲しい。紗凪……今日、抱いてもいいか?」

「はい。私も黄瀬さんが……欲しいです」  

今度は言葉がするりと出てきた。
顔も体も熱いのに、ドキドキしながら今は気持ちが落ち着いていた。

「本当に? 俺が、男は怖くないか」

黄瀬さんのやや、遠慮がちな声にはっとした。
そうか。黄瀬さんは私が赤井からサプリを飲まされたり、先日路地に連れて行かれたことを気遣ってくれていると分かった。
本当に優しい人だ。大好きだと黄瀬さんの背中に手を回す。

「大丈夫。私は黄瀬さんが昔と変わらず、素敵な人だと知っています。怖いことなんて何もない」

そう言うと黄瀬さんは「ありがとう」と静かに私の頭を撫でてくれた。

そして、このまま一緒にお風呂に入るかと言われたけど。そんなことをしてしまったら私の気持ちが持たない。
せっかく用意した下着を浴室ではなく、ベッドの上で見られたいといこともあって。

次は絶対に一緒に入るから、今日は一人でどうか心の準備をさせて欲しいと頼み込んだのだった。
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