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出会い
③
しおりを挟むそして、これも秘密なのだけども。
私の体はちょっとした傷なら、すぐに勝手に治ってしまう。だから冷たい水で洗い物をする手も、荒れることはなかった。それが便利だと思うぐらいだ。
「頭巾って蒸れちゃうから、取ってスッキリした。よし、ご飯食べようっと。頂きます」
早速、おすましに手を伸ばす。冷めていても出汁が効いているので美味しい。
本当は油揚げのお味噌汁が好きだけども、贅沢を言ってられない。
風が庭の木々を揺らして、心地よい風を運んでくれる。目の前にある南天の葉が目に鮮やか。
一人でこうして蔵の前で食事をとっていても、侘しくはない。
こんな目立つ頭と瞳の色をしていたら、一緒に食事をする人だって落ち着かないだろう。
ことりと、お椀を置いておにぎりに手を伸ばす。ばあやが食べやすいようにと、竹皮で包んでくれていたのだ。そしていつも、こっそりと中に具を沢山入れてくれている。
「ん。今日は鮭だ。美味しい」
ありがとう、ばあやと思いながら食事をしながら、なんとなく姉のお見合い考える。
このまま姉が杜若様と結婚したら、いよいよ『忌み子』の私の存在は疎ましくなるだろう。
その時はっとする。
おにぎりを食べる手がとまる。
「あれ。ひょっとしてこれは、姉の結婚は私にとっても良いこと……? この機会に家を出て行かせて下さいっていいやすいかも? そして私は『出島』に行って憧れのカフェーで、異国人さん相手にお給仕が出来るかもっ!?」
そう、私の夢とはこの帝都を離れ北の大地『出島』に行くこと。
そこでは海外から日本国に商売をしに来た、異人の人たちが沢山いるのだ。
そして異国の人は髪の色は、金髪や茶髪の方が多いのだとか。
だったら、私がそこで働いたらきっと目立つことはない。十八歳から求人の募集をしているのを雑誌で見たのだ。
私の夢は前世のように書物に書かれていた酒池肉林、贅沢三昧、神通力使いまくり、ではなくて。
堅実に自分の力で生きていくこと!
人の社会に今度こそ溶け込む。そうしたら絶対に前世がアレだとばれないはずだ。
「あぁ、炎を使わなくて広間を焼かなくてよかった。杜若様と姉さんが上手く行きますようにっ。なんなら、今すぐに結婚式をしたらいいのに」
思わず声に出したところ、南天の木ががさりと揺れた。
風かと思うと「そこに誰かいるのか?」と良い声がしてびっくりしてしまう。
こちらこそ、こんなところに誰? と思うと南天の木が揺れてその後ろから、とんでもない美男子が現れた。
菖蒲のようにすらりとした身長に、紫紺の切れ長の瞳。鴉の濡羽色の長髪は、すっきりと一括りにしている。整った瞳や鼻や唇は、歌舞伎の女形を彷彿させた。
少し前髪が長いせいで、女形のような嫋やかさを感じたかもしれない。
服装は立派な黒の上着に、金の控えめな装飾が美しい。威厳ある将校服みたいだ。
腰に下げている、黒い鞘が凛々しさを後押し、していて──って。
この人はまさか、杜若鷹夜様その人!?
驚いていると、目の前の人は長い脚をすっと動かして私の前にやって来た。
「その金髪に金の瞳……お前は──雪華円の妹、雪華環だな?」
「──!」
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