帝都・狐の嫁入り物語〜嫁いだ先は前世の私を殺した天敵〜

猫とろ

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出会い

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突然現れた麗しい人に名を当てられ動揺した。
なんで私の名前を知っているのと、心臓がバクバクする。
この人が誰であれ、どう見ても部外者に間違いない。
杜若鷹夜様ならもっと最悪だ。

とにかく私の存在に気付かれてしまった。
なのにその目立つ容貌に呆気に取られてしまい。
名を尋ねられずにはいられなかった。

ごくりと喉を鳴らす。

「ま、まさかあなたは杜若鷹夜様……?」

「あぁ。そうだ。それよりもやっと見つけた」

「──み、見つけた!? どうぞお構いなくっ!?」

自分でも何を言ってるか分からない。
すでに私が九尾だと見抜いてここに来た?

嘘でしょと思いながら、とにかくこの場から逃げよう。慌ててその場に立ち上がると、手に持っていたおにぎりがすっぽ抜けて。

あろうことか、目の前に立つその端正な顔に投げてしまった。
杜若様のお顔におにぎりがぶつかり、べちっとなんとも言えない音がした。

「……あ」

終わった。
私の人生終わった。
目の前が真っ暗になる。
血の気が引く。

杜若様の顔面に当たったおにぎりは地面に落っこちる前に、杜若様が冷静に見事に手で受け止め。
切れ長の瞳で見つめてきた。

「も、申し訳ありませんっ! ごめんなさいっ。あぁっ、本当に悪気は無かったんですっ、ごめんなさい。ごめんなさい」

「おい、落ち着け。俺は、そもそもお前を探していて、十年前のことを」

「その日本刀でどうか切らないで、殺さないで、私を祓わないで! 今世は生涯大人しくしています! 悪さは絶対にしませんっ。余生を穏やかに過ごしたいだけなんですー!」

混乱してしまい、わぁっとその場で喚き。とにかく去ろうすると、あろうことが下駄の鼻緒がブチっと切れた。

あっと思ったころには体が前へと傾き始めていた。その刹那、周囲がゆっくりと見えた。

南天の緑の葉。ツツジの緑。青々しい芝生。
そこから一転して視界はあの綺麗な紫の瞳を持つ、端正な顔が視界でいっぱいになった。
紫の瞳は青空と私の金色の髪を映し出していて、まるで万華鏡のようだ。

華麗だと思った。
驚きも忘れて、そのまま万華鏡の瞳に吸い込まれるように、杜若様の上に倒れ込み。
どさっと体が重なったとき。

私と杜若様の唇も重なっていた。

さぁっと爽やかな風が吹く。
どこかで鳥の囀りがした。
今度こそ死んだと思った。

そしてぐいっと杜若様が私の肩を押した。
重なっていた唇の柔らかさや、暖かさが離れる。

「すまない。握り飯を持っていて受け止め切れなかった。その、大丈夫か?」

「…………」

杜若様は少しばかり動揺しているように見えたが、言われた言葉が頭に入ってこなかった。

杜若様と接吻をしてしまった。
帝都の剣と接吻なんて、恐れ多くて心臓が縮み上がる。
このことがバレたら、姉や家族に何を言われるか考えたくもない。
それよりも先に不敬だと、杜若様に今すぐこの場で私は首を刎ねられるかもしれない。
私、今日ここで死ぬかも。

死ぬ。

その言葉が強く頭に浮かんだ途端、私の知らない記憶が明滅しはじめた。

「え……こ、れはなんの記憶……?」

「おい。どうした、しっかりしろ!」

杜若様の声が遠くなり、ざぁっと意識が遠ざかると……。

脳裏に追いかけ回され、幾千、幾万の矢と術を放たれ、それでも逃げて、逃げて、最果ての地に辿り着き。追い詰められたことを思いだした。

そして、その終焉の地で私の首を刎ねた者の名前を!

強く、環! と名を呼ばれて。
意識が前世過去から今にぐんっと引き戻された。
私の名を呼んだ人の……双眸の紫紺の瞳を見つめる。

あぁ、あの人の瞳にそっくり。

私の首を刎ねるときも、澄んだこの瞳で私を見つめていた。
とても悲しい瞳だった。
その理由が思い出せないのが切ない。
一時的に記憶がハッキリしたのに、また記憶が霞む。心が苦しい。

でもこれだけは、ハッキリと分かった。
間違いない。

この人はあの人──私の前世を殺した。
阿倍野晴命の生まれ変わりだ!
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