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迫る別離
〜シャクナゲ〜
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御前会議。
帝が直々に五家を呼び出して評定する。
その場所はこの帝都の中で最も神聖な皇宮の中心、帝が住む御所で行われる。
御所に入る為には体を清水で清め、神酒で口を濯ぐ。
皇宮で育てられた蚕より作り出された、純白の白袴へと着替える。金属は一切持ち込めない。
愛刀は皇宮の外で待つ石蕗さんに預けている。今は着替えも終わり、小さな社が飾られた静謐な参集殿で御前会議の始まりを告げる、鈴の音を正座して待っていた。
俺は主に帝が外出するときの警護の担当をしている。それで良かったと思う。毎回こうも着替えては些か骨が折れると、内心思ってしまった。
「それも、全ては皇宮の神聖さを保つため。帝都最強の結界の中心であるがゆえ。そして帝の力を真っ当に保つ為か」
もう少しで鈴の音が鳴る。
そのために、澄み切った空気に唇が硬くならないように動かしてみた。
今世の帝、羽鳥帝が神から授かった力は『過去視』
過去に起きた真実を視ることが出来るなど、俺には全く想像出来ない力だった。
しかも羽鳥帝は先帝が急死し、齢十二歳で即位された。
その力を持ってして、日々国の凶事を退けることに御身を国に捧げ、国民を幸福に導くためにだけに力を振るう。
恐れ多いが、小さき肩にその宿命は重過ぎではないか。
せめて身の安全は俺が、護りたいと思う次第だった。
「それも烏滸がましいかもしれないな」
ふっと笑うと丁度、ちりんちりんと、澄んだ鈴の音がどこからともなく聞こえた。
始まりを告げる音に腰を上げると、しゅっと畳と白袴の衣擦れがする。
そのまま参集殿を後にして、釣り灯籠がぶら下がる白木と木目が清らかな廊下を歩く。
そうしていると自分がこれから、神前式に向かうような気持ちになる。
それぐらいに、ここの空気は凛として澄んでいる。
なんとなく。環の部屋と同じ気配がした。
環をやっと口説き落とせたが、本人はどうやら土蜘蛛に狙われたことを気にしているようで、体調は戻ったのに、少し気が沈んでしまったように見えた。
外へ行くのを控えて庵に引き篭もり、妖関連の書物を読んだり。熱心に座学の勉強をしたり、気を紛らわせているように見えた。
少しでも安心して欲しいと、土蜘蛛のことは敢えて話題に出さず、普通の会話に重きを置いた。
出来るだけ一緒に過ごし、食事をして環を見守る日々だった。
そして今日を迎えた。
本日の御前会議の内容はもちろん土蜘蛛についてだ。そのことについて俺も考えていることがある。恐れ多くも帝に発言したいとも思っている。
今日決まった事柄を環に、機密事項に抵触しない範囲で、伝えて安心させてやりたい。
そう思えば白足袋を履いた足の速度が上がり、広間へと早く向かう。
「環の憂いが晴れたら気晴らしに喫茶店、屋形船、歌舞伎……とか」
もしくは父上の趣味で俺も習った、自動自転車に環を後ろに乗せて、帝都を走るのも楽しいかもしれない。
そんな風に考えるのはあの公会堂の土蜘蛛の出現以降、これまで活発だった妖供の動きがかなり鈍くなっていたからだ。理由は不明。
しかし、そのおかげで俺の仕事量も緩和され、多少の時間の融通がきくようになった。そうなると、つい気持ちも口元も緩くなってしまう。
分かっている。これはきっと嵐の前の静けさなのだろう。
でもこのまま何もないことを祈るばかりである。
そうして、程よく暖まった唇をまた引き締め、
会議が行われる広間の扉へと手を伸ばすのだった。
帝が直々に五家を呼び出して評定する。
その場所はこの帝都の中で最も神聖な皇宮の中心、帝が住む御所で行われる。
御所に入る為には体を清水で清め、神酒で口を濯ぐ。
皇宮で育てられた蚕より作り出された、純白の白袴へと着替える。金属は一切持ち込めない。
愛刀は皇宮の外で待つ石蕗さんに預けている。今は着替えも終わり、小さな社が飾られた静謐な参集殿で御前会議の始まりを告げる、鈴の音を正座して待っていた。
俺は主に帝が外出するときの警護の担当をしている。それで良かったと思う。毎回こうも着替えては些か骨が折れると、内心思ってしまった。
「それも、全ては皇宮の神聖さを保つため。帝都最強の結界の中心であるがゆえ。そして帝の力を真っ当に保つ為か」
もう少しで鈴の音が鳴る。
そのために、澄み切った空気に唇が硬くならないように動かしてみた。
今世の帝、羽鳥帝が神から授かった力は『過去視』
過去に起きた真実を視ることが出来るなど、俺には全く想像出来ない力だった。
しかも羽鳥帝は先帝が急死し、齢十二歳で即位された。
その力を持ってして、日々国の凶事を退けることに御身を国に捧げ、国民を幸福に導くためにだけに力を振るう。
恐れ多いが、小さき肩にその宿命は重過ぎではないか。
せめて身の安全は俺が、護りたいと思う次第だった。
「それも烏滸がましいかもしれないな」
ふっと笑うと丁度、ちりんちりんと、澄んだ鈴の音がどこからともなく聞こえた。
始まりを告げる音に腰を上げると、しゅっと畳と白袴の衣擦れがする。
そのまま参集殿を後にして、釣り灯籠がぶら下がる白木と木目が清らかな廊下を歩く。
そうしていると自分がこれから、神前式に向かうような気持ちになる。
それぐらいに、ここの空気は凛として澄んでいる。
なんとなく。環の部屋と同じ気配がした。
環をやっと口説き落とせたが、本人はどうやら土蜘蛛に狙われたことを気にしているようで、体調は戻ったのに、少し気が沈んでしまったように見えた。
外へ行くのを控えて庵に引き篭もり、妖関連の書物を読んだり。熱心に座学の勉強をしたり、気を紛らわせているように見えた。
少しでも安心して欲しいと、土蜘蛛のことは敢えて話題に出さず、普通の会話に重きを置いた。
出来るだけ一緒に過ごし、食事をして環を見守る日々だった。
そして今日を迎えた。
本日の御前会議の内容はもちろん土蜘蛛についてだ。そのことについて俺も考えていることがある。恐れ多くも帝に発言したいとも思っている。
今日決まった事柄を環に、機密事項に抵触しない範囲で、伝えて安心させてやりたい。
そう思えば白足袋を履いた足の速度が上がり、広間へと早く向かう。
「環の憂いが晴れたら気晴らしに喫茶店、屋形船、歌舞伎……とか」
もしくは父上の趣味で俺も習った、自動自転車に環を後ろに乗せて、帝都を走るのも楽しいかもしれない。
そんな風に考えるのはあの公会堂の土蜘蛛の出現以降、これまで活発だった妖供の動きがかなり鈍くなっていたからだ。理由は不明。
しかし、そのおかげで俺の仕事量も緩和され、多少の時間の融通がきくようになった。そうなると、つい気持ちも口元も緩くなってしまう。
分かっている。これはきっと嵐の前の静けさなのだろう。
でもこのまま何もないことを祈るばかりである。
そうして、程よく暖まった唇をまた引き締め、
会議が行われる広間の扉へと手を伸ばすのだった。
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