帝都・狐の嫁入り物語〜嫁いだ先は前世の私を殺した天敵〜

猫とろ

文字の大きさ
63 / 74
迫る別離

しおりを挟む

扉を開けるとそこは寺の本堂、仏間の作りと良く似ていた。照明も薄暗く、部屋に立ち込めるのは白檀と沈丁の香り。

凛とした空気に自然と気持ちが引き締まる空間。
本来仏像が安置されている須弥壇しゅみだんの場所には厳かな装飾に彩られた御簾が垂れており、その中に羽鳥帝が鎮座している。

その前に白布の几帳で区切られた五つの間があり、
座布団の上に花が置かれていた。

俺がどうやら一番先に入室したらしく、仕切られた間には誰も着席していなかった。
須弥壇の一番前。
座布団の上に置かれた杜若の花を見つけてその前まで行き、お辞儀をしてから花を前に置いて座る。

すると左右に几帳が立てられているので、隣の人物の様子は伺えなくなる。
これは大昔に五家の人間達が、御前会議で言い争いに発展したからだそうな。
そこからは相手の表情や機微がわからぬように、このような形式になったそうだ。

そんなことを考えながら前に置かれた紫の杜若に視線を落としていると、背後の扉から衣擦れの音がした。
横に着席する人の気配。それが四回聞こえたところで前の御簾に人の気配がした。

御簾の向こうに小さな影が見え、そしてこの空間よりも清澄なる声がした。

「では。これより御前会議を始める」

──はい。

五家の声が重なり、会議が始まった。
御簾の中から進行役の声が「では、梅桃家より。報告せよ」と男とも女とも分からない声色を発した。

「はぁい。梅桃李山すもも、発言させていただきますぅ」

子供のような軽い声が広間に響く。

「梅桃家と杜若家は長年にわたって、妖を祓いながらその生態を調べて参りましたぁ。そしてわかったのは十七年前より土属性の妖の活動が著しいこと。帝都内外の出没が多発。これは古の文献とも照らし合わせて大妖、土蜘蛛出現の兆しと良く似ている──ことから判断したのですぅ」

その軽い声に紛れて「ふん。まだ大元は現れてへんけどな」と、梔子家当主。
梔子真守さねもりの失笑の声がしたが、梅桃家は「はわわ。意地悪言わないで下さいぃ」と軽くいなした。

そして梅桃家はコホンと咳払いをして話を続ける。

「残念ながら妖の出現は未来視がない限り、ピタリと当てることなど不可能なのですぅ。ですが、先日土蜘蛛の幼生が出現しました。そのことについて。そして先日、帝都の結界を真守君と一緒に見て分かったことも合わせて、今からお話しますですっ」

明るい声に帝が「頼む」と短く答えた。

そして梅桃はさらさらと伝えた。
今回結界などを調べて分かったのが、結界は帝都の下を包み込むように出来てないこと。
強大な一枚壁のように帝都の周りを包んでいるという。それでも地中の奥深くまでその効果は発揮されてはいる、が。
公会堂に現れた土蜘蛛はその結界の効力が届かない、地表の奥深く、三十から最大六十キロメートル下まで地殻の深くに潜り込み、
地殻の奥底から帝都の下へと進行して、恐らく十七年前より侵入しやすい場所を地中で探っていた。
その結果が、地表の妖共を活発にさせた原因。

そうして、先日幼生を地中奥深くから帝都の中へと放った。それが公会堂での土蜘蛛の出現だろうと梅桃は言った。

通常、地殻付近には龍脈や地脈など膨大な霊脈が走っていて、普通の妖は仮にそこまで到達しても、大地の霊脈の気で消し飛ぶ。
しかし、そこは大妖・土蜘蛛。

土と言う属性もあり大地からの気を取り込んでしまう。そのせいで異常な回復力を備えている。土の中を自由に動ける特性もある。

故に、過去に祓っても月日さえ重ねて、大地があるかぎり──土蜘蛛は復活してしまうのだろうと、梅桃はため息混じりに言った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

【完結】剣聖と聖女の娘はのんびりと(?)後宮暮らしを楽しむ

O.T.I
ファンタジー
かつて王国騎士団にその人ありと言われた剣聖ジスタルは、とある事件をきっかけに引退して辺境の地に引き籠もってしまった。 それから時が過ぎ……彼の娘エステルは、かつての剣聖ジスタルをも超える剣の腕を持つ美少女だと、辺境の村々で噂になっていた。 ある時、その噂を聞きつけた辺境伯領主に呼び出されたエステル。 彼女の実力を目の当たりにした領主は、彼女に王国の騎士にならないか?と誘いかける。 剣術一筋だった彼女は、まだ見ぬ強者との出会いを夢見てそれを了承するのだった。 そして彼女は王都に向かい、騎士となるための試験を受けるはずだったのだが……

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

高塚くんの愛はとっても重いらしい

橋本彩里(Ayari)
恋愛
時期外れ、しかも偏差値の高い有名校からなぜかわざわざやってきた話題の転校生。 「どこに隠れていたの?」 そんな彼に、突然探していたと莉乃は背後から抱きしめられ、強引に連れて行かれる。 その日から莉乃は高塚くんに振り回される毎日。 この関係は何? 悩みながらもまるで大事な恋人のように莉乃を扱う彼に絆されかけていた、あの言葉を聞くまでは……。 高塚くんの重愛と狂愛。 すれ違いラブ。 見目がいいだけの男ではないのでご注意ください。 表紙イラストは友人のkouma.作です。

【完結】ここって天国?いいえBLの世界に転生しました

三園 七詩
恋愛
麻衣子はBL大好きの腐りかけのオタク、ある日道路を渡っていた綺麗な猫が車に引かれそうになっているのを助けるために命を落とした。 助けたその猫はなんと神様で麻衣子を望む異世界へと転生してくれると言う…チートでも溺愛でも悪役令嬢でも望むままに…しかし麻衣子にはどれもピンと来ない…どうせならBLの世界でじっくりと生でそれを拝みたい… 神様はそんな麻衣子の願いを叶えてBLの世界へと転生させてくれた! しかもその世界は生前、麻衣子が買ったばかりのゲームの世界にそっくりだった! 攻略対象の兄と弟を持ち、王子の婚約者のマリーとして生まれ変わった。 ゲームの世界なら王子と兄、弟やヒロイン(男)がイチャイチャするはずなのになんかおかしい… 知らず知らずのうちに攻略対象達を虜にしていくマリーだがこの世界はBLと疑わないマリーはそんな思いは露知らず… 注)BLとありますが、BL展開はほぼありません。

処理中です...