帝都・狐の嫁入り物語〜嫁いだ先は前世の私を殺した天敵〜

猫とろ

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ひととき

〜アサガオ〜

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ここは私の部屋。
丸窓の向こうから月明かりが差している。

「杜若様……じゃなくて、た、鷹夜様。いい夜ですわね。月がとっても綺麗です」

ふふっと小さな声で微笑み。私の膝の上で寝ている鷹夜様に声を掛ける。

しかし鷹夜様は深い眠りのなか。
隊服の上着を脱ぎ、シャツとズボン姿のままで、私の言葉には静かな寝息を返すだけだった。

「これからまた夜勤だなんて、本当にお疲れ様です。それまでゆっくり寝て下さい」

土蜘蛛と私が遭遇してから、かれこれ三週間ほど経っていた。
鷹夜様曰く、妖達は大人しくて土蜘蛛も現れず。なりを潜めているということだった。
私もあの日感じたような、土蜘蛛の気配は感じられなかった。
この静けさは嵐の前の静けさらしく、この間に秘密裏に関係各所で土蜘蛛対策が早急に取られていて、鷹夜様が忙しいことには変わりはなかった。

でも、こうして鷹夜様が私と会う時間や、食事を一緒に食べる時間は増えた。
この土蜘蛛を祓ったら、一緒に沢山出掛けようとおしゃべりする機会も増えた。

「本当、このまま何事も無かったら……私が九尾でも一緒に過ごせたのに……」

それはきっと無理なんだろうと、土蜘蛛はまた絶対に来るという予感が私の中にあった。

そして寝ている鷹夜様をいいことに、私はまた鷹夜様の夜空を切り取ったかのような黒髪に触れる。
その滑らかな頬にも触る。
鷹夜様に触れると指先も心も暖かくなって、とても気持ちがいい。

普段、鷹夜様が寝ていないと、こんな大胆なことは出来ない。下の名前なんか呼べない。
起きていると、どうしても恥ずかしくて下の名前を呼べなかった。

「大事だからこそ名前が呼べないというか……呼んでしまうと、もっと好きになってしまうから……」

ごめんなさいと小さく呟きながら、そばに置いてあった上着を鷹夜様の上に掛ける。
本当は夕食後、鷹夜様が仮眠を取る為に、ゆっくりと寝て欲しいと布団を用意していた。
でも、鷹夜様に私の膝枕がいいと言われたのだった。

そう言われて、とても恥ずかしかったが鷹夜様の顔を近くで見れると思えば、首を縦に振っていた。

そうして鷹夜様は、すぐに私の膝の上で眠った。それがすごく嬉しかった。
私は信頼されていると思った。
眠っている好きな人を、こんな近くで見つめることが出来るなんて、とても素敵だ。
寝顔を見ているだけで胸がときめく。なのに──その何倍も胸が痛かった。

だから鷹夜様の髪を撫でて。
今だけは真実を喋りたいと、月の光に溶けるように小さな声で語り掛ける。

「ちゃんと私のことを言えなくて、ごめんなさい。土蜘蛛が現れたとき、私が皇宮に保護してもらえるようにしてくれてありがとう。でも私、囮でもなんでもする。鷹夜様はなにも気にしなくていい。そうそう、食事のときも話したけど。ちゃんと私の炎、少しだけども出るようになったんだよ」

さらりとまた杜若様の髪を撫でる。
私の膝の上に感じる鷹夜様の重みが愛おしい。

「この短時間で術が出せるのは凄いって、宇津木様達に褒められた。けれども、しっかりと使おうと意識すると炎はすぐに消えてしまって……難しいね。私がちゃんと九尾みたいに、いつか力が使える日は来るのかな……」

ふと鷹夜様の髪を撫でる指が止まる。
鷹夜様から土蜘蛛が私を狙っている理由。土蜘蛛の本体が現れたとき、私が皇宮に行くと言うことは、しっかりと説明を受けていた。

そんな手間を掛けさせてしまって、また申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。

だから、私が何か出来ることはないかと、この数日間で私は九尾のことや、土蜘蛛のことも沢山調べて読んだ。

そのお陰だろうか。
実はほんの少しだけ。
前世の夢を垣間見ることがあった。
それは手で水を受け止めるような感覚で、起きた瞬間には大半のものはするりと手から抜け落ちる。

でも、手の平に残った水滴に思いを馳せるように、記憶の欠片は私の中に残っていた。

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