2 / 22
二杯目
しおりを挟む
「そこの井戸で身を清めろ。そのまま泥だらけの格好で家に上げたら畳や床が痛む。今から替えの着物と手拭いは用意してやるから」
言うだけ言うと、ふいっと庭の縁側から家の中に入り姿を消した。
そっけない態度だったけど、見ず知らずの私にこの待遇は破格のものだろう。
時期的にも井戸の水で体を拭いても風邪は引かないはず。ここは都会で山と違って空気もずいぶんと暖かい。
「それに泥だらけは気持ちが悪いしね」
よしと思い。懐に入れていた紙幣に気を使いながら、ポンプに手を伸ばした。
まずは手足の泥を流していると、藤井様がカゴを持ってきてくれて「この中にあるのは僕の古着や。これに着替えろ」と言った。
そして泥がちゃんと落とせたら勝手に家の中に入って来いと、言ってからまたすぐに家の中へと消えた。
一応、私はザンバラ髪をしていても女子ではある。体を清めるところをじっと見られては困ってしまうので、一人になるのは有り難かった。
藤井様の姿が見えなくなってから手早く、身を屈めて清める。
冷たい井戸の水は気持ちがよく。上を向いたら白銀の月。
夜でも明るい月光に心まで洗われるよう。
何よりもこの庭は灯籠に手水。梅や牡丹など、お花まで丁寧に手入れが行き届き、夜の綺麗なお庭で水浴びはとても気持ちがよかった。
「ちょっとお腹減ったけど」
まぁ、水浴びついでに水を飲んで空腹を誤魔化そう。
カゴに入った着物も古着だったが、清潔で生地も上質なものだった。
こんなにして貰っておいて、お腹が空いたなんて言えない。むしろお礼を言わなくてならないだろう。
──藤井様は何か、私にやって欲しいと言うことが気がかりではあったけど。
それでも待たせては悪いと思いながら、真っ白な手拭いで体をテキパキと拭いて行く。
それから汚れた着物も簡単に洗い。庭の隅に干した。
髪が短いと乾きがこんなにも早いんだと妙に感動しながら。サッパリして少しだけ体力も戻った。
おずおずとお邪魔しますと縁側から、灯りがついた家の中へと上がる。
足にはもう泥は付いてない。
家を汚すことはないだろうと思いながらも、白木の廊下に丸いランプが付いた綺麗な廊下をそっと歩く。
素敵な家の中に藤井様の影を探す。
「凄い立派な家。あ、振り子の壁時計もある。藤井様以外、誰も住んでないのかな」
人の気配を探るけど、家は静謐な空気に包まれひっそりとしていた。息を潜めるように静かに歩いた廊下の奥。
襖から光が漏れていて、そこから微かに爽やかな香りと重く甘い仄かな香りが鼻腔をくすぐった。
「良い香り。まるでお香みたい」
光と香りを頼りに襖へと近づくと、部屋の中には肘掛けに体を預けて、煙管を燻らせる藤井様がいた。
私は花魁なんて見たことがないけど、綺麗な着物を着て。月の光を束ねたような髪を纏わせる、藤井様に花魁の姿を重ねてしまった。
本当にこの人は日本人なのかな。
外国から来た人?
「不思議な人……」
そうして、なんだか襖の隙間からイケナイものを見ている気分になったとき。
藤井様が流し目でこちらに気がついた。
「盗み見は趣味か? あんまりええ趣味とはちゃうな」
「! ち、違いますっ。その、いい香りだったからうっとりしていたんですっ」
思わず襖の隙間から、それこそ盗み見をしていたかのような言い訳をする。
「なんの香りかわからん癖に。ま、そう言うことにしておいてやろ。早く中に入って来い。話したいことがある」
藤井様は気怠気にトンと、煙管の灰を木と鉄で出来た高価な煙草盆の中の器へと落とした。
その横にキラリと光る銀の十字架があった。
なんともオシャレな人だと思った。
それを見て「失礼します」と、おずおずと和室の中に入る。
藤井様のなんとも言えない雰囲気に気後れしないように、下座にぴっと正座をして。
膝に手を置いて、まずは御礼を言わなければと思った。
「私は千里と言います。この度は助けて頂き誠にありがとうございます。このように立派な着物まで用意して下さり、大変助かりました。つきましては藤井様は何か、私めに思うところがあるご様子。私に出来ることでしたら、なんなりとお申し付けください」
「……お前は武家の子供か?」
私の言葉に翠緑の瞳を瞬かせる藤井様。
「祖先は武家ではなく。商人だったと」
「いや。そんなことどうでもええわ。興味ない。礼なんていらん。名前は千里か。ええか千里。お前を助けたのは、ただの人助けちゃうねん」
「はい」
「実はな。一週間後に僕のクソ兄貴が主催するお茶会がある。お前はそのお茶会に僕の小姓として参加するんや。その茶会には堺の納屋衆、会合衆。さらには外国人も招いた──デカいお茶会でな。それを無茶苦茶にしろ」
「お、お茶会を無茶苦茶に?」
「そ。クソ兄貴のメンツを潰したい。本当は僕がやりたいくらいやけども、さすがに僕の仕事に影響でるから無理や。適当にならずモノ達に声を掛けて見たけど、納屋衆、会合衆を敵に回したくないと、怖気付く有様でな。ホンマ腰抜けどもが」
ふふっと笑い、口元の黒子に手を当てるのがなんとも妖艶。しかし、お茶会を無茶苦茶にしろなんてとんでもない。
堺の権力者。引いては大阪の有力者と思われる人達が集まる場で、お金を積まれても狼藉を働きたいと思うものはいないだろう。
「あ、あの藤井様っ」
「確かに、大人が暴れたらその場でエライ目に合う。しかし、千里みたいな子供やったらつまみ出して終わりやろ。僕の小姓だからと、お目溢しぐらいあるはず。それに警察も子供を捕まえても、しゃあないしな。だからお前を助けた。な? いい案やろ?」
「お茶会を無茶苦茶にするなんて、それは」
──私の精神に反します!
と、言いたいところをぐっと飲み込み。
「えっと、ですね。お茶会を滅茶苦茶なんて、それは大変なことだと思います。け、けどそんな凄い人達が集まる場所に私が暴れたとしても、すぐに取り押さえられてしまうのが、関の山だと思うのですがっ」
「お茶に下剤を仕込んだらいい」
「!?」
「あとは犬笛で野犬を呼び込む、爆竹を鳴らす。煙玉も撒き散らすか。ついでにちんどん屋も奇術師達も呼んでみよか。よし、そのあたりは僕が手配しとくわ」
にこりと微笑む藤井様。その笑顔に曇りはない。
本気だ。この人は本気でお茶会を潰そうとしている。
『手配しないでください! そんなお茶会はこの世にあってはなりません!』
と凄く叫びたかった。だって私はお茶を愛している。そうやって生きてきた家系なのだ。
だからこそ、藤井様がそこまでお茶会を壊そうとするのか気になった。
先程『クソ兄貴』と言っていた。お兄様と仲が悪くて嫌がらせをするにしても、藤井様の口から出た発言はいささか過激過ぎではと思う。
「その、ですね。どうしてお茶会を滅茶苦茶にしたいのですか? 何か訳でもあるのでしょうか?」
おずおずと尋ねると、藤井様の顔から笑みが消え。私を見つめる翠緑の眼差しが鋭くなった。
「お前には関係ない。僕がお前のことを詮索しないように、こちらを詮索するな。言われたことだけをしろ。まさかここまで聞いて『無理です』とか言うんか?」
「──いえ。過ぎたことをすみませんでした。無茶苦茶にするのは分かりましたが、その後私はどうしたら良いのですか?」
「どこへでも行け。混乱した茶会から逃げ出せるようにはしとく。さっき拾っていた紙幣があれば、どこにでも戻れるやろ」
「!」
紙幣を拾うところを見られていたと、体を硬直させる。
「その対価に見合う行動をしろ。千里が拾った額に『無茶苦茶』は見合うと思うけどなぁ?」
また微笑む藤井様。
しかしその瞳は笑っていない。
あぁ。私はとんでもない人に着いて来てしまったと思った。
しかし、ここで逃げ出すのも違う。お金を返しても今更だろう。
ぐっと膝の上に置いた手を握りしめる。
お茶会は──『和敬清寂』の精神であるべきだ。私は脈々と受け継がれた大爺様の意思を大事にしたい。
あと一週間で藤井様お気持ちを変えれることは出来ないだろうか。
それか藤井様のお兄様に会って、このことを伝えてお茶会を中止に出来ないか。
せめてお茶会を無茶苦茶にしないように、私に出来ることをやってみようと思った。
それに、その間はアイツらから一時的にでも身を隠せる利点がある。
ふうっと深呼吸して、藤井様の視線を受け止める。
「わかりました。藤井様のご要望。承りました。しかし、つつがなくことを進める為にも、いろいろと私に会場の広さ。ご出席の方々などを教えて貰えませんか?」
まずは情報だ。
そして藤井様のお気持ちを知りたい。
「ええ子や。物分かりのいい子供は好きやで。それにしてもその喋り方々と言い、千里は中々……うん。面白いな?」
瞳の鋭さが僅かに緩み、翠緑の瞳がきらっと光った。
思わず魅力的な笑みだと思ってしまうと、気がゆるみ。きゅうっとお腹が鳴ってしまった。慌ててお腹を抑える。
「あ、す、すみませんっ!」
「腹が減っては戦はできぬってか」
その言葉に慌てるが藤井様は立ち上がり。私を見下ろした。
「僕は職業柄、嘘を見抜くのは上手くてな。千里はまだ戸惑っているようやけど──ウソを言っているようにも見えんし、頭の回転も良さそうや。そこを信用してここにいる間は食事ぐらい用意する。僕の小姓やしな?」
「あ、ありがとうございます」
そうは言っても、これは犬を手懐けるに近いものだろうと思った。
もしくは暇つぶし。戯れ。
そんな風にも感じた。
「とりあえず、お茶会までは小姓らしくこの家の家事でもやって貰おうかな。僕の自室以外は好きに使え。短い間になるとは思うけど。よろしくな千里」
「──はい。よろしくお願いします」
互いに言葉を交わしたが、心暖かいものではない。それでも私はこの藤井様の家に上がり込んでしまった。
これからの一週間。
お茶会の滅茶苦茶を阻止。
そして私はアイツらから逃げる算段をしなくてはならない。
なんだか一晩で、とんでもないことに巻き込まれてしまった気がする。
どちらも困難な問題だけども、これも私の運命なのだろう。受け入れて立ち向かうだけ。
『四規七則』
四規の一つ。動じない心。
七則の一つ。本質を見極める。
大爺様のお言葉には間違いはない。頑張れ私と拳に力を入れるのだった。
言うだけ言うと、ふいっと庭の縁側から家の中に入り姿を消した。
そっけない態度だったけど、見ず知らずの私にこの待遇は破格のものだろう。
時期的にも井戸の水で体を拭いても風邪は引かないはず。ここは都会で山と違って空気もずいぶんと暖かい。
「それに泥だらけは気持ちが悪いしね」
よしと思い。懐に入れていた紙幣に気を使いながら、ポンプに手を伸ばした。
まずは手足の泥を流していると、藤井様がカゴを持ってきてくれて「この中にあるのは僕の古着や。これに着替えろ」と言った。
そして泥がちゃんと落とせたら勝手に家の中に入って来いと、言ってからまたすぐに家の中へと消えた。
一応、私はザンバラ髪をしていても女子ではある。体を清めるところをじっと見られては困ってしまうので、一人になるのは有り難かった。
藤井様の姿が見えなくなってから手早く、身を屈めて清める。
冷たい井戸の水は気持ちがよく。上を向いたら白銀の月。
夜でも明るい月光に心まで洗われるよう。
何よりもこの庭は灯籠に手水。梅や牡丹など、お花まで丁寧に手入れが行き届き、夜の綺麗なお庭で水浴びはとても気持ちがよかった。
「ちょっとお腹減ったけど」
まぁ、水浴びついでに水を飲んで空腹を誤魔化そう。
カゴに入った着物も古着だったが、清潔で生地も上質なものだった。
こんなにして貰っておいて、お腹が空いたなんて言えない。むしろお礼を言わなくてならないだろう。
──藤井様は何か、私にやって欲しいと言うことが気がかりではあったけど。
それでも待たせては悪いと思いながら、真っ白な手拭いで体をテキパキと拭いて行く。
それから汚れた着物も簡単に洗い。庭の隅に干した。
髪が短いと乾きがこんなにも早いんだと妙に感動しながら。サッパリして少しだけ体力も戻った。
おずおずとお邪魔しますと縁側から、灯りがついた家の中へと上がる。
足にはもう泥は付いてない。
家を汚すことはないだろうと思いながらも、白木の廊下に丸いランプが付いた綺麗な廊下をそっと歩く。
素敵な家の中に藤井様の影を探す。
「凄い立派な家。あ、振り子の壁時計もある。藤井様以外、誰も住んでないのかな」
人の気配を探るけど、家は静謐な空気に包まれひっそりとしていた。息を潜めるように静かに歩いた廊下の奥。
襖から光が漏れていて、そこから微かに爽やかな香りと重く甘い仄かな香りが鼻腔をくすぐった。
「良い香り。まるでお香みたい」
光と香りを頼りに襖へと近づくと、部屋の中には肘掛けに体を預けて、煙管を燻らせる藤井様がいた。
私は花魁なんて見たことがないけど、綺麗な着物を着て。月の光を束ねたような髪を纏わせる、藤井様に花魁の姿を重ねてしまった。
本当にこの人は日本人なのかな。
外国から来た人?
「不思議な人……」
そうして、なんだか襖の隙間からイケナイものを見ている気分になったとき。
藤井様が流し目でこちらに気がついた。
「盗み見は趣味か? あんまりええ趣味とはちゃうな」
「! ち、違いますっ。その、いい香りだったからうっとりしていたんですっ」
思わず襖の隙間から、それこそ盗み見をしていたかのような言い訳をする。
「なんの香りかわからん癖に。ま、そう言うことにしておいてやろ。早く中に入って来い。話したいことがある」
藤井様は気怠気にトンと、煙管の灰を木と鉄で出来た高価な煙草盆の中の器へと落とした。
その横にキラリと光る銀の十字架があった。
なんともオシャレな人だと思った。
それを見て「失礼します」と、おずおずと和室の中に入る。
藤井様のなんとも言えない雰囲気に気後れしないように、下座にぴっと正座をして。
膝に手を置いて、まずは御礼を言わなければと思った。
「私は千里と言います。この度は助けて頂き誠にありがとうございます。このように立派な着物まで用意して下さり、大変助かりました。つきましては藤井様は何か、私めに思うところがあるご様子。私に出来ることでしたら、なんなりとお申し付けください」
「……お前は武家の子供か?」
私の言葉に翠緑の瞳を瞬かせる藤井様。
「祖先は武家ではなく。商人だったと」
「いや。そんなことどうでもええわ。興味ない。礼なんていらん。名前は千里か。ええか千里。お前を助けたのは、ただの人助けちゃうねん」
「はい」
「実はな。一週間後に僕のクソ兄貴が主催するお茶会がある。お前はそのお茶会に僕の小姓として参加するんや。その茶会には堺の納屋衆、会合衆。さらには外国人も招いた──デカいお茶会でな。それを無茶苦茶にしろ」
「お、お茶会を無茶苦茶に?」
「そ。クソ兄貴のメンツを潰したい。本当は僕がやりたいくらいやけども、さすがに僕の仕事に影響でるから無理や。適当にならずモノ達に声を掛けて見たけど、納屋衆、会合衆を敵に回したくないと、怖気付く有様でな。ホンマ腰抜けどもが」
ふふっと笑い、口元の黒子に手を当てるのがなんとも妖艶。しかし、お茶会を無茶苦茶にしろなんてとんでもない。
堺の権力者。引いては大阪の有力者と思われる人達が集まる場で、お金を積まれても狼藉を働きたいと思うものはいないだろう。
「あ、あの藤井様っ」
「確かに、大人が暴れたらその場でエライ目に合う。しかし、千里みたいな子供やったらつまみ出して終わりやろ。僕の小姓だからと、お目溢しぐらいあるはず。それに警察も子供を捕まえても、しゃあないしな。だからお前を助けた。な? いい案やろ?」
「お茶会を無茶苦茶にするなんて、それは」
──私の精神に反します!
と、言いたいところをぐっと飲み込み。
「えっと、ですね。お茶会を滅茶苦茶なんて、それは大変なことだと思います。け、けどそんな凄い人達が集まる場所に私が暴れたとしても、すぐに取り押さえられてしまうのが、関の山だと思うのですがっ」
「お茶に下剤を仕込んだらいい」
「!?」
「あとは犬笛で野犬を呼び込む、爆竹を鳴らす。煙玉も撒き散らすか。ついでにちんどん屋も奇術師達も呼んでみよか。よし、そのあたりは僕が手配しとくわ」
にこりと微笑む藤井様。その笑顔に曇りはない。
本気だ。この人は本気でお茶会を潰そうとしている。
『手配しないでください! そんなお茶会はこの世にあってはなりません!』
と凄く叫びたかった。だって私はお茶を愛している。そうやって生きてきた家系なのだ。
だからこそ、藤井様がそこまでお茶会を壊そうとするのか気になった。
先程『クソ兄貴』と言っていた。お兄様と仲が悪くて嫌がらせをするにしても、藤井様の口から出た発言はいささか過激過ぎではと思う。
「その、ですね。どうしてお茶会を滅茶苦茶にしたいのですか? 何か訳でもあるのでしょうか?」
おずおずと尋ねると、藤井様の顔から笑みが消え。私を見つめる翠緑の眼差しが鋭くなった。
「お前には関係ない。僕がお前のことを詮索しないように、こちらを詮索するな。言われたことだけをしろ。まさかここまで聞いて『無理です』とか言うんか?」
「──いえ。過ぎたことをすみませんでした。無茶苦茶にするのは分かりましたが、その後私はどうしたら良いのですか?」
「どこへでも行け。混乱した茶会から逃げ出せるようにはしとく。さっき拾っていた紙幣があれば、どこにでも戻れるやろ」
「!」
紙幣を拾うところを見られていたと、体を硬直させる。
「その対価に見合う行動をしろ。千里が拾った額に『無茶苦茶』は見合うと思うけどなぁ?」
また微笑む藤井様。
しかしその瞳は笑っていない。
あぁ。私はとんでもない人に着いて来てしまったと思った。
しかし、ここで逃げ出すのも違う。お金を返しても今更だろう。
ぐっと膝の上に置いた手を握りしめる。
お茶会は──『和敬清寂』の精神であるべきだ。私は脈々と受け継がれた大爺様の意思を大事にしたい。
あと一週間で藤井様お気持ちを変えれることは出来ないだろうか。
それか藤井様のお兄様に会って、このことを伝えてお茶会を中止に出来ないか。
せめてお茶会を無茶苦茶にしないように、私に出来ることをやってみようと思った。
それに、その間はアイツらから一時的にでも身を隠せる利点がある。
ふうっと深呼吸して、藤井様の視線を受け止める。
「わかりました。藤井様のご要望。承りました。しかし、つつがなくことを進める為にも、いろいろと私に会場の広さ。ご出席の方々などを教えて貰えませんか?」
まずは情報だ。
そして藤井様のお気持ちを知りたい。
「ええ子や。物分かりのいい子供は好きやで。それにしてもその喋り方々と言い、千里は中々……うん。面白いな?」
瞳の鋭さが僅かに緩み、翠緑の瞳がきらっと光った。
思わず魅力的な笑みだと思ってしまうと、気がゆるみ。きゅうっとお腹が鳴ってしまった。慌ててお腹を抑える。
「あ、す、すみませんっ!」
「腹が減っては戦はできぬってか」
その言葉に慌てるが藤井様は立ち上がり。私を見下ろした。
「僕は職業柄、嘘を見抜くのは上手くてな。千里はまだ戸惑っているようやけど──ウソを言っているようにも見えんし、頭の回転も良さそうや。そこを信用してここにいる間は食事ぐらい用意する。僕の小姓やしな?」
「あ、ありがとうございます」
そうは言っても、これは犬を手懐けるに近いものだろうと思った。
もしくは暇つぶし。戯れ。
そんな風にも感じた。
「とりあえず、お茶会までは小姓らしくこの家の家事でもやって貰おうかな。僕の自室以外は好きに使え。短い間になるとは思うけど。よろしくな千里」
「──はい。よろしくお願いします」
互いに言葉を交わしたが、心暖かいものではない。それでも私はこの藤井様の家に上がり込んでしまった。
これからの一週間。
お茶会の滅茶苦茶を阻止。
そして私はアイツらから逃げる算段をしなくてはならない。
なんだか一晩で、とんでもないことに巻き込まれてしまった気がする。
どちらも困難な問題だけども、これも私の運命なのだろう。受け入れて立ち向かうだけ。
『四規七則』
四規の一つ。動じない心。
七則の一つ。本質を見極める。
大爺様のお言葉には間違いはない。頑張れ私と拳に力を入れるのだった。
1
あなたにおすすめの小説
妖狐のお屋敷に嫁入りしました
淡雪みさ
キャラ文芸
田舎で祖母を支えながら暮らしていた十八歳の小珠のもとに、ある日突然空狐と名乗る美しい狐の妖怪がやってくる。
「貴女には、我ら一族の長、天狐様と結婚して頂きます」
祖母の薬をもらうため嫁入りを決意し〝きつね町〟と言われる妖怪の住む町へ向かった小珠は、そこで様々な妖怪と出会いながら、玉藻前統治の時代から悪政が敷かれていた〝きつね町〟を変えていく。
美しい妖狐たちの初恋の物語。
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました
菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」
クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。
だが、みんなは彼と楽しそうに話している。
いや、この人、誰なんですか――っ!?
スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。
「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」
「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」
「同窓会なのに……?」
後宮に咲く毒花~記憶を失った薬師は見過ごせない~
二位関りをん
キャラ文芸
数多の女達が暮らす暁月国の後宮。その池のほとりにて、美雪は目を覚ました。
彼女は自分に関する記憶の一部を無くしており、彼女を見つけた医師の男・朝日との出会いをきっかけに、陰謀と毒が渦巻く後宮で薬師として働き始める。
毒を使った事件に、たびたび思い起こされていく記憶の断片。
はたして、己は何者なのか――。
これは記憶の断片と毒をめぐる物語。
※年齢制限は保険です
※数日くらいで完結予定
【完結】皇帝の寵妃は謎解きよりも料理がしたい〜小料理屋を営んでいたら妃に命じられて溺愛されています〜
空岡立夏
キャラ文芸
【完結】
後宮×契約結婚×溺愛×料理×ミステリー
町の外れには、絶品のカリーを出す小料理屋がある。
小料理屋を営む月花は、世界各国を回って料理を学び、さらに絶対味覚がある。しかも、月花の味覚は無味無臭の毒すらわかるという特別なものだった。
月花はひょんなことから皇帝に出会い、それを理由に美人の位をさずけられる。
後宮にあがった月花だが、
「なに、そう構えるな。形だけの皇后だ。ソナタが毒の謎を解いた暁には、廃妃にして、そっと逃がす」
皇帝はどうやら、皇帝の生誕の宴で起きた、毒の事件を月花に解き明かして欲しいらしく――
飾りの妃からやがて皇后へ。しかし、飾りのはずが、どうも皇帝は月花を溺愛しているようで――?
これは、月花と皇帝の、食をめぐる謎解きの物語だ。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
【完結】悪の尋問令嬢、″捨てられ王子″の妻になる。
Y(ワイ)
ファンタジー
尋問を生業にする侯爵家に婿入りしたのは、恋愛戦略に敗れた腹黒王子。
白い結婚から始まる、腹黒VS腹黒の執着恋愛コメディ(シリアス有り)です。
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる