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とある社会の日常
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この世界に生まれたとき、自分が「異世界」にいるらしいことに気づいたのは、生まれてから、しばらくたった後だった。
といっても、特段、角が生えている人を見たりだとか、翼が生えている人がいたりだとか、わかりやすい何かがあったわけじゃない。
大人の会話を聞いてる限り、ゴブリンなどの魔物もいるらしいのだが、まだ実際に見たことは無い。
確かに、ここブラジュ領の本村には、現代日本であれば必ずあるだろうコンクリートの建物や電線が無いし、
車やラジオなどの機械的な人工物も一切ない。
まあ、それだけであれば、地球のどこかにある未開な社会と言ってもギリギリ通るだろう。
では、なぜ気づいたのか。
その最初に気づいた違和感が「あれ」だ。
「ちちうえ、にわにある、あの「マルい」のなあに?」
「ん?…。
ああ、あれはね、隣の領地、イネア領の、とある戦士長の首だ。
かの戦士は随分と手練れ…。
ああ、いや。えっと、いいかい?
とっても、と~っても、つよかったから、記念に首を持って帰ってきたんだよ。」
それは、現代の地球の社会で、庭先に平然と存在しちゃいけないもの。
つまり、人間の生首が自邸の庭に並んでいるのだ。
「へええ…。じゃあ、おとなりの、青いのは?」
「こっちはね、ザク領の戦士の首だ。
見事な入れ墨だろう?
奴らにとって「青」は高貴な色らしく、一番偉い人間は、青い入れ墨を入れるんだ。
その中でも特にこの戦士。
討ち死にを覚悟した戦いぶりがあまりに見事だったから、記念に首にして持ち帰ったんだ」
「ふ、ふぅーん…」
子供が宝物を見せるような無邪気さで、庭にあった青いものを拾ってきて見せびらかす父。
目の前に持ってこられては、顔の皺までよく見える。
そうしてよく見ると、この頭はミイラ化している。いったい何十年前のものなのだろうか。
というか、そんなものを子供に見せるな。
最初に庭先で「これら」を見かけたとき、作りものだと思った。
ずいぶん趣味が悪いとは思ったが、まさか本物の首が庭に転がっているとは思わない。
それに、近所の子供たちや姉が元気に遊びまわっており、すぐそこに転がっている首について、誰も疑問に思ってないのだ。
まるで、そこにあるのが当たり前であるかのように。
でも本当は…。
ときおり不快なにおいを運んでくる風によって、
あれが「本物」であることをひそかに教えてくれていた。
そして今、顔中が傷まみれの父親が、
あれが「生首」であることをこれでもかと教えてくれる。
正直、ドン引きである。
しかし、もともと物事を深刻には考えず、ただひたすら人一倍い強い好奇心の赴くままに行動するケーヴァリンは、気になったことはとことん聞かざるを得ない。
―――首がなぜこんなところにあるのかを。
「ちちうえ、なんでくびが、にわにあるの?」
「それはね、ここがブラジュ人の庭だからだよ。」
「え」
解答になってない。
しかし、当の本人はそれで万事説明できた表情をしている。
…世の中は、わからないことだらけだ。
それでも、限りなく納得しやすい理由で説明することはできる。
その納得させる方法は、
「科学」だったり、
「哲学」だったり、
「宗教」だったり…。
そしてもう一つ。
「伝統」
もそうなんだろう。
ブラジュ人の庭には首があるのが「当たり前」なのだ。
「いいかい、ケイブ。ブラジュ人の庭には、敵の生首を転がしておくものなんだよ。
ケイブの「ひいおじいさん」の「ひいおじいさん」が、まだ生まれたばっかりの頃にはすでに、ブラジュ人の庭には生首があるのが当たり前なんだ。決して絶やしちゃいけないんだよ。」
「そういうもの?」
「そう。そういうもの。」
「世の中にはわからないことがある」。
それを理解していく。
こうして一人の無垢な人間が、「ブラジュ人」として成長していくのである。
(いやはや、これはわからないことだらけだ。まずは、この社会や領地を知るところから始めようかな)
少年の好奇心は、おおいにくすぐられている。
この地で、何者になろうかと、模索するために。
といっても、特段、角が生えている人を見たりだとか、翼が生えている人がいたりだとか、わかりやすい何かがあったわけじゃない。
大人の会話を聞いてる限り、ゴブリンなどの魔物もいるらしいのだが、まだ実際に見たことは無い。
確かに、ここブラジュ領の本村には、現代日本であれば必ずあるだろうコンクリートの建物や電線が無いし、
車やラジオなどの機械的な人工物も一切ない。
まあ、それだけであれば、地球のどこかにある未開な社会と言ってもギリギリ通るだろう。
では、なぜ気づいたのか。
その最初に気づいた違和感が「あれ」だ。
「ちちうえ、にわにある、あの「マルい」のなあに?」
「ん?…。
ああ、あれはね、隣の領地、イネア領の、とある戦士長の首だ。
かの戦士は随分と手練れ…。
ああ、いや。えっと、いいかい?
とっても、と~っても、つよかったから、記念に首を持って帰ってきたんだよ。」
それは、現代の地球の社会で、庭先に平然と存在しちゃいけないもの。
つまり、人間の生首が自邸の庭に並んでいるのだ。
「へええ…。じゃあ、おとなりの、青いのは?」
「こっちはね、ザク領の戦士の首だ。
見事な入れ墨だろう?
奴らにとって「青」は高貴な色らしく、一番偉い人間は、青い入れ墨を入れるんだ。
その中でも特にこの戦士。
討ち死にを覚悟した戦いぶりがあまりに見事だったから、記念に首にして持ち帰ったんだ」
「ふ、ふぅーん…」
子供が宝物を見せるような無邪気さで、庭にあった青いものを拾ってきて見せびらかす父。
目の前に持ってこられては、顔の皺までよく見える。
そうしてよく見ると、この頭はミイラ化している。いったい何十年前のものなのだろうか。
というか、そんなものを子供に見せるな。
最初に庭先で「これら」を見かけたとき、作りものだと思った。
ずいぶん趣味が悪いとは思ったが、まさか本物の首が庭に転がっているとは思わない。
それに、近所の子供たちや姉が元気に遊びまわっており、すぐそこに転がっている首について、誰も疑問に思ってないのだ。
まるで、そこにあるのが当たり前であるかのように。
でも本当は…。
ときおり不快なにおいを運んでくる風によって、
あれが「本物」であることをひそかに教えてくれていた。
そして今、顔中が傷まみれの父親が、
あれが「生首」であることをこれでもかと教えてくれる。
正直、ドン引きである。
しかし、もともと物事を深刻には考えず、ただひたすら人一倍い強い好奇心の赴くままに行動するケーヴァリンは、気になったことはとことん聞かざるを得ない。
―――首がなぜこんなところにあるのかを。
「ちちうえ、なんでくびが、にわにあるの?」
「それはね、ここがブラジュ人の庭だからだよ。」
「え」
解答になってない。
しかし、当の本人はそれで万事説明できた表情をしている。
…世の中は、わからないことだらけだ。
それでも、限りなく納得しやすい理由で説明することはできる。
その納得させる方法は、
「科学」だったり、
「哲学」だったり、
「宗教」だったり…。
そしてもう一つ。
「伝統」
もそうなんだろう。
ブラジュ人の庭には首があるのが「当たり前」なのだ。
「いいかい、ケイブ。ブラジュ人の庭には、敵の生首を転がしておくものなんだよ。
ケイブの「ひいおじいさん」の「ひいおじいさん」が、まだ生まれたばっかりの頃にはすでに、ブラジュ人の庭には生首があるのが当たり前なんだ。決して絶やしちゃいけないんだよ。」
「そういうもの?」
「そう。そういうもの。」
「世の中にはわからないことがある」。
それを理解していく。
こうして一人の無垢な人間が、「ブラジュ人」として成長していくのである。
(いやはや、これはわからないことだらけだ。まずは、この社会や領地を知るところから始めようかな)
少年の好奇心は、おおいにくすぐられている。
この地で、何者になろうかと、模索するために。
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