26 / 229
第一章 棒人間の神様とケモナー
おうけんはいらない
しおりを挟む
「私たちに『造物』スキルの力をみせてほしいのです…生きた石像を」
そうして、もう一体、ペガサスの彫像を彫ることになった。
王様は後方の兵士を気にしていたりしてるように思える。とくに、高齢なドワーフたちはイムルの名前と『造物』スキルのことを触れた瞬間、雰囲気が悪くなったように思う。
それ以上に、うちの家族の雰囲気が悪くなったから、気のせいかもしれないけど。
まぁ、子供のいうことを素直に信じる大人は少ないもんだ。ケルンの周りがたまたまだったのだろう。兵士の中には、半信半疑の人もいるようだし、あとペガ雄がペガサスで一頭だけっていうのも、寂しいからな。
世界で一人ぼっちなんて、なんだ物悲しい。仲間がいたら、楽しいだろう。
王様の剣は、父様がちゃんと返却した。ちらりと見えたけど、凄く豪華だが、古い剣のようだった。見たことない材質だったから、いい勉強になった。
ああいう剣を打つことはないだろうけど、良質な作品を見ることも、修行の一つなのだ。まだ、火入れの済んだ鍛冶場には、生まれてから一度も踏み入れていないけどな!遠目から炉の火をみる機会すらない。
ドワーフと多少は縁ができたんだから、鍛冶場の見学とかできないかな?
「ケルン。いいのか?」
「うん!父様!…ペガ雄も僕みたいに…お友達がほしいと思う」
本当は反対したいんだろうな。心配というよりは、いざというときは逃げれるぞ?と言外に匂わせている。
正直なところ『造物』スキルで石像を作った場合、ケルンにどのような代償や負荷がかかるかまったくわかっていない。たまたま、動く石像を二体作れはしたが、ケルンはけろりとなんともない。
父様たちはそれが逆に心配なのだ。
強大なスキルや魔法は、それ相応の代償や制約がいる。しかし、逃げるという選択肢はない。
ペガ雄に仲間を作るのも大事だが、成功させれば、ドワーフたちの溝が少しは埋まるはず。
偶然ではあるが石像を動かす条件は三つほど、判明している。
一つ、この世界にいない動物であること。
もう一つは、名前をつけること。
最後に、この彫刻刀で作られたものであるということ。
わかった理由は、手のひらに乗る程度のペンギン…ペンギン物語の主役であるペギン君を母様に作ってあげたのだ。
そうしたら、飛んだ。ペンギンは空を飛ばないのだけど、ペンギン物語のペギン君は、空を飛ぶ。
母様はとても気に入ってくれたのだが、普通のペンギンは空を飛ばないとはいえなかった。
念のためそれ以降、ケルンはどのような彫刻刀でも幻獣の作成は禁止されることとなったのだ。
ちょっと泣いた。
どうも、モデルとなったものの影響を受けるようだ。
ただ、現在存在している者は、動き出さない。例えば、棒神様の石像などは、動き出す気配がなかったのだ。
ペガ雄は、棒神様の石像と同じ安い魔石で作ったのでもう一頭も同じ魔石で作ることにした。模様はあとで、塗ってやろう。曲線美と、優しげな目元。今度は、牝馬にした。もうすでに、名前も決まっている。
命名『ペガ美』
いい名前だ。わかりやすくていい。
するとまた、彫刻刀が青く光った。
「ひひーん!」
「ひひーん!」
ペガ美がいななくと、つられるようにペガ雄も鳴いた。お、もう仲良くなりたいのかな?すぐにそばによって行って、見つめあって…あれ?ペガ美のほほ赤い?そんな魔石じゃないんだけど。
しばらく、目線で語り合っていたたが、早速二頭で空のデートにでかけたようだ。
ペガ雄ってば、手が早いな。
「仲良しさんねー」
お、おう。仲良しさんだなぁ…仔馬もそのうち必要かもな。
さてと…うわ、これは。
作業のときから「素晴らしい!」「おお!なんと…!幼いながらこの才とは!」「まさに神童!…ぜひ…いや…しかし」と声を押さえることなく元気に騒いでいた王様が、ぷるぷると震えている。
しかも、瞬きすらせずにケルンの手元をガン見だ。
「ケルン殿、その彫刻刀は…?」
「これ?えーと…持ってみますか?」
王様は震えながら彫刻刀を持った。ん?王様には、そんなに重たくなかったのだろうか?一瞬だけ、青く光ったのがわかった。
「まさか!これが…ならば間違いなく…!」
ぽろぽろと急に涙を流し出した王様は、手を合わせてまるで祈るかのように目をつぶった。
「王様?」
「…ありがとうございます」
彫刻刀を返してもらうと、王様は剣を鞘ごと、ケルンにむけた。持ち手がケルンに向くようにだった。剣を鞘ごと抜く動作で一瞬、屋敷の全員が反応した。
家族たちは、キノコ元帥が来た前回と配置は一緒だ。ハンクだけは、人前に出ないけど、壁に同化してこちらをうかがっている。
「我が権限において…どうか…」
ドワーフ王が、王剣をくれると差し出してきたが、きちんと断った。
「これは、僕には重すぎるよ。それから…簡単に渡してはいけないんだよ?」
豪華で、重たい剣を貰うのは、教育上よろしくないからな。それに、ケルンは俺であるから、剣を見る分には問題ない。でも、使う気はない。鍛冶だって、刃物は包丁とかを作りたいだけだし。
「わしには…王剣はふさわしくありません」
そういって、王様は、シワだらけの手を震わせた。失礼かとも思ったのだが、そっと王様の手を握った。誰も止めないし、いいかなと思ったのだ。
シワだらけだけど、この手は間違いない。どれほどの火傷をしても、どれほどの豆を潰しても…ずっと鍛冶をしてきた手だ。
ヴェルムおじさんがいっていた。国一番の職人が王様だと。だからこそ、王様は本当は何も生まない争いはしたくないんだ。
武器は持ち手の使い方で変わる生き物ようなものだ。正義にも悪にも平等に使われる。それでも職人たちは少しでも誰かの役に立つように世に作品を送り出す。
王様の手はそんな手だ。
「王様の手は、たくさんの色んな物を作ってきた手だって、僕、わかるんだー。優しくて、強い。職人さんの手だから。人を喜ばせる手だよ。そんな人が王剣を持つ方がいいと思うよ。じゃないと、王剣を作った人達が、怒っちゃうからね!」
そういうと、王様は目線を合わせてくれた。震えは止まっている。
「王剣を作った人達…ですか…?」
もしかして、作ることばかりで、周りが見えなくなっているのかな?説教みたいで嫌だけど、これだけは伝えないとな。
「王様は、鍛冶をする時に、全部一人でしちゃうの?住んでる人達がいて、材料を運んでもらったりして、初めて鍛冶ができるんじゃないの?」
作り手が凄いといわれるが、作り手一人で自己完結はしていない。鍛冶をするなら、石炭も、鉄鉱石も全部用意しなければいけない。物によっては、相槌だっているだろう。
できた作品も誰かに売ったりする。売ってくれる人や、買ってくれる人。作ってからだって、作品を見てくれる人がいるから、作品は生きてくる。
「人と人との関わりがあるから、職人は仕事できるんじゃないのかな?」
誰も見てくれない作品は、作品として、死んでしまう。だから、作品という子供の為に、俺達制作者は、研鑽を積み重ねるんじゃないだろうか。
「作品だけじゃなくて、ありがとうとか、頑張ってっていう気持ちを次の人に渡していく…そうじゃないの?」
ケルンの一言は、静かなその場によく響いた。
とたん、野太い声がそこかしこから聞こえた。
ドワーフの男泣きっていうのは、地面が震えるんだな。いかめしい顔だった高齢の人たちも子供のように声をあげてるな。
なんで泣いてるか、さっぱりだけど。
「あ、そうだ!ペガ雄ー!ペガ美ー!ちょっときてー!」
ケルンには、これからどうすればいいかの提案はもう渡している。
本当は、寂しいだろうけど、選んだのはケルンだ。
俺のせいにしたっていいんだ。
「だーいじょうぶっ!みんな笑顔になれるよー!」
晴れやかな笑顔で、俺にいう。
そうか。そうだな。ケルンだって成長しているんだものな。俺が提案する前に決めていたのかもしれない。
お前は俺だものな。
「王様!王様は自信がなくて、国の人も不安なんだよね?イムルの心を忘れてるって、ヴェルムおじさんがいってたけど、本当なの?」
王様にそう尋ねると、涙をふきながら、王様は答えてくれた。
「お恥ずかしながら…ケルン様の申されます通り…国民は他の種族との溝を深め始めております」
様付けに格が上がってるけど、ただの子供だぞ。棒神様公認のケモナーで、知識だけはあるけどな。
「だったら、二頭の仲がいいとこ見たら、思い出すかな?ペガ雄、ペガ美。王様の国にお引っ越しする?」
頷く二頭の頭をなでてやる。
みんなが仲良くなる為に、イムルの心とやらを思い出す為に、二頭の力が必要なら、二頭には、リンメギン国に行ってもらうしかない。
ちょっと寂しいけど、また会えるさ。
「国中の人たちを喜ばして。みんなの笑顔で、国は作っていくんだよーだって、全員が職人なんだから」
ドワーフの国だからな。国民全員が職人だ。少しは慰安になればいいんだけど。
なんとなくの呟きだったが、全員に聞こえたようだ。
兵士達が、鞘ごと、剣を抜いて、顔面の前に一斉にかかげ、膝をついた。この作法は知らないが、悪いことではないだろう。
王様も、同じ仕草をして、立ち上がった。
なんか、一瞬、冷や汗がでたが、悪いことはしていないはず。
王様は最初に見た時より、しっかりと立っていた。きちんと地面に立てたっていうのかな?自信にあふれている感じがする。
「いずれ、我が国へお越しください!その時には、歓迎いたしますぞ!」
「は、はい」
気迫に返事をして、家族を見渡せば、ランディをのぞいて全員、青筋浮かべている。なお、ランディは、はらはらしている。あわわって感じ。いや、ほんといやされるわー。
「ぜひ!」
「ごほんっ!…リンメギン王様。貴国への『ゲート』をお繋げいたしますので、そろそろご帰国なさりませんと」
さらにのめり込んできた王様とケルンの間に入って、父様はそういうなり『ゲート』を開いた。
「おお!さすが、フェスマルク主席殿!感謝いたしますぞ!生きて戻るつもりはなかったのですが…急ぎ、国に戻り国を平定せねばならぬゆえ、こえにて失礼つかまつります。どうぞケルン様。次にお会いするときまで、お健やかに」
ドワーフらしい大きな笑い声とともに、王様達は、ペガ雄とペガ美を連れてリンメギン国へ帰っていった。
かなり慌ただしかったが、なんとか平和に解決できたな。
ドワーフの王国か…職人が溢れてて、芸術も盛んな国。うん、かなり行きたいけど。
家族の、一人では行かせませんオーラをみると、何年先の話になるやら。
「ケルン。父様との約束だぞ?ドワーフの王国に、一人では、絶対!誰がなんといおうと、絶対に!行かないこと」
「あら、ケルン。もちろん、お嫁さんができて、二人でってのも、母様は反対ですからね?」
「旦那様と奥様の仰る通りです」
父様、母様、カルドの気迫が凄い。他のみんなも、あ、ランディは不安気だけど、似たような感じだ。
ごめんなさい、王様。いつか、家族旅行ができたら、お伺いします。
ペガ雄!ペガ美!頑張れよ!
俺たちもこっちで頑張るからな!
そうして、もう一体、ペガサスの彫像を彫ることになった。
王様は後方の兵士を気にしていたりしてるように思える。とくに、高齢なドワーフたちはイムルの名前と『造物』スキルのことを触れた瞬間、雰囲気が悪くなったように思う。
それ以上に、うちの家族の雰囲気が悪くなったから、気のせいかもしれないけど。
まぁ、子供のいうことを素直に信じる大人は少ないもんだ。ケルンの周りがたまたまだったのだろう。兵士の中には、半信半疑の人もいるようだし、あとペガ雄がペガサスで一頭だけっていうのも、寂しいからな。
世界で一人ぼっちなんて、なんだ物悲しい。仲間がいたら、楽しいだろう。
王様の剣は、父様がちゃんと返却した。ちらりと見えたけど、凄く豪華だが、古い剣のようだった。見たことない材質だったから、いい勉強になった。
ああいう剣を打つことはないだろうけど、良質な作品を見ることも、修行の一つなのだ。まだ、火入れの済んだ鍛冶場には、生まれてから一度も踏み入れていないけどな!遠目から炉の火をみる機会すらない。
ドワーフと多少は縁ができたんだから、鍛冶場の見学とかできないかな?
「ケルン。いいのか?」
「うん!父様!…ペガ雄も僕みたいに…お友達がほしいと思う」
本当は反対したいんだろうな。心配というよりは、いざというときは逃げれるぞ?と言外に匂わせている。
正直なところ『造物』スキルで石像を作った場合、ケルンにどのような代償や負荷がかかるかまったくわかっていない。たまたま、動く石像を二体作れはしたが、ケルンはけろりとなんともない。
父様たちはそれが逆に心配なのだ。
強大なスキルや魔法は、それ相応の代償や制約がいる。しかし、逃げるという選択肢はない。
ペガ雄に仲間を作るのも大事だが、成功させれば、ドワーフたちの溝が少しは埋まるはず。
偶然ではあるが石像を動かす条件は三つほど、判明している。
一つ、この世界にいない動物であること。
もう一つは、名前をつけること。
最後に、この彫刻刀で作られたものであるということ。
わかった理由は、手のひらに乗る程度のペンギン…ペンギン物語の主役であるペギン君を母様に作ってあげたのだ。
そうしたら、飛んだ。ペンギンは空を飛ばないのだけど、ペンギン物語のペギン君は、空を飛ぶ。
母様はとても気に入ってくれたのだが、普通のペンギンは空を飛ばないとはいえなかった。
念のためそれ以降、ケルンはどのような彫刻刀でも幻獣の作成は禁止されることとなったのだ。
ちょっと泣いた。
どうも、モデルとなったものの影響を受けるようだ。
ただ、現在存在している者は、動き出さない。例えば、棒神様の石像などは、動き出す気配がなかったのだ。
ペガ雄は、棒神様の石像と同じ安い魔石で作ったのでもう一頭も同じ魔石で作ることにした。模様はあとで、塗ってやろう。曲線美と、優しげな目元。今度は、牝馬にした。もうすでに、名前も決まっている。
命名『ペガ美』
いい名前だ。わかりやすくていい。
するとまた、彫刻刀が青く光った。
「ひひーん!」
「ひひーん!」
ペガ美がいななくと、つられるようにペガ雄も鳴いた。お、もう仲良くなりたいのかな?すぐにそばによって行って、見つめあって…あれ?ペガ美のほほ赤い?そんな魔石じゃないんだけど。
しばらく、目線で語り合っていたたが、早速二頭で空のデートにでかけたようだ。
ペガ雄ってば、手が早いな。
「仲良しさんねー」
お、おう。仲良しさんだなぁ…仔馬もそのうち必要かもな。
さてと…うわ、これは。
作業のときから「素晴らしい!」「おお!なんと…!幼いながらこの才とは!」「まさに神童!…ぜひ…いや…しかし」と声を押さえることなく元気に騒いでいた王様が、ぷるぷると震えている。
しかも、瞬きすらせずにケルンの手元をガン見だ。
「ケルン殿、その彫刻刀は…?」
「これ?えーと…持ってみますか?」
王様は震えながら彫刻刀を持った。ん?王様には、そんなに重たくなかったのだろうか?一瞬だけ、青く光ったのがわかった。
「まさか!これが…ならば間違いなく…!」
ぽろぽろと急に涙を流し出した王様は、手を合わせてまるで祈るかのように目をつぶった。
「王様?」
「…ありがとうございます」
彫刻刀を返してもらうと、王様は剣を鞘ごと、ケルンにむけた。持ち手がケルンに向くようにだった。剣を鞘ごと抜く動作で一瞬、屋敷の全員が反応した。
家族たちは、キノコ元帥が来た前回と配置は一緒だ。ハンクだけは、人前に出ないけど、壁に同化してこちらをうかがっている。
「我が権限において…どうか…」
ドワーフ王が、王剣をくれると差し出してきたが、きちんと断った。
「これは、僕には重すぎるよ。それから…簡単に渡してはいけないんだよ?」
豪華で、重たい剣を貰うのは、教育上よろしくないからな。それに、ケルンは俺であるから、剣を見る分には問題ない。でも、使う気はない。鍛冶だって、刃物は包丁とかを作りたいだけだし。
「わしには…王剣はふさわしくありません」
そういって、王様は、シワだらけの手を震わせた。失礼かとも思ったのだが、そっと王様の手を握った。誰も止めないし、いいかなと思ったのだ。
シワだらけだけど、この手は間違いない。どれほどの火傷をしても、どれほどの豆を潰しても…ずっと鍛冶をしてきた手だ。
ヴェルムおじさんがいっていた。国一番の職人が王様だと。だからこそ、王様は本当は何も生まない争いはしたくないんだ。
武器は持ち手の使い方で変わる生き物ようなものだ。正義にも悪にも平等に使われる。それでも職人たちは少しでも誰かの役に立つように世に作品を送り出す。
王様の手はそんな手だ。
「王様の手は、たくさんの色んな物を作ってきた手だって、僕、わかるんだー。優しくて、強い。職人さんの手だから。人を喜ばせる手だよ。そんな人が王剣を持つ方がいいと思うよ。じゃないと、王剣を作った人達が、怒っちゃうからね!」
そういうと、王様は目線を合わせてくれた。震えは止まっている。
「王剣を作った人達…ですか…?」
もしかして、作ることばかりで、周りが見えなくなっているのかな?説教みたいで嫌だけど、これだけは伝えないとな。
「王様は、鍛冶をする時に、全部一人でしちゃうの?住んでる人達がいて、材料を運んでもらったりして、初めて鍛冶ができるんじゃないの?」
作り手が凄いといわれるが、作り手一人で自己完結はしていない。鍛冶をするなら、石炭も、鉄鉱石も全部用意しなければいけない。物によっては、相槌だっているだろう。
できた作品も誰かに売ったりする。売ってくれる人や、買ってくれる人。作ってからだって、作品を見てくれる人がいるから、作品は生きてくる。
「人と人との関わりがあるから、職人は仕事できるんじゃないのかな?」
誰も見てくれない作品は、作品として、死んでしまう。だから、作品という子供の為に、俺達制作者は、研鑽を積み重ねるんじゃないだろうか。
「作品だけじゃなくて、ありがとうとか、頑張ってっていう気持ちを次の人に渡していく…そうじゃないの?」
ケルンの一言は、静かなその場によく響いた。
とたん、野太い声がそこかしこから聞こえた。
ドワーフの男泣きっていうのは、地面が震えるんだな。いかめしい顔だった高齢の人たちも子供のように声をあげてるな。
なんで泣いてるか、さっぱりだけど。
「あ、そうだ!ペガ雄ー!ペガ美ー!ちょっときてー!」
ケルンには、これからどうすればいいかの提案はもう渡している。
本当は、寂しいだろうけど、選んだのはケルンだ。
俺のせいにしたっていいんだ。
「だーいじょうぶっ!みんな笑顔になれるよー!」
晴れやかな笑顔で、俺にいう。
そうか。そうだな。ケルンだって成長しているんだものな。俺が提案する前に決めていたのかもしれない。
お前は俺だものな。
「王様!王様は自信がなくて、国の人も不安なんだよね?イムルの心を忘れてるって、ヴェルムおじさんがいってたけど、本当なの?」
王様にそう尋ねると、涙をふきながら、王様は答えてくれた。
「お恥ずかしながら…ケルン様の申されます通り…国民は他の種族との溝を深め始めております」
様付けに格が上がってるけど、ただの子供だぞ。棒神様公認のケモナーで、知識だけはあるけどな。
「だったら、二頭の仲がいいとこ見たら、思い出すかな?ペガ雄、ペガ美。王様の国にお引っ越しする?」
頷く二頭の頭をなでてやる。
みんなが仲良くなる為に、イムルの心とやらを思い出す為に、二頭の力が必要なら、二頭には、リンメギン国に行ってもらうしかない。
ちょっと寂しいけど、また会えるさ。
「国中の人たちを喜ばして。みんなの笑顔で、国は作っていくんだよーだって、全員が職人なんだから」
ドワーフの国だからな。国民全員が職人だ。少しは慰安になればいいんだけど。
なんとなくの呟きだったが、全員に聞こえたようだ。
兵士達が、鞘ごと、剣を抜いて、顔面の前に一斉にかかげ、膝をついた。この作法は知らないが、悪いことではないだろう。
王様も、同じ仕草をして、立ち上がった。
なんか、一瞬、冷や汗がでたが、悪いことはしていないはず。
王様は最初に見た時より、しっかりと立っていた。きちんと地面に立てたっていうのかな?自信にあふれている感じがする。
「いずれ、我が国へお越しください!その時には、歓迎いたしますぞ!」
「は、はい」
気迫に返事をして、家族を見渡せば、ランディをのぞいて全員、青筋浮かべている。なお、ランディは、はらはらしている。あわわって感じ。いや、ほんといやされるわー。
「ぜひ!」
「ごほんっ!…リンメギン王様。貴国への『ゲート』をお繋げいたしますので、そろそろご帰国なさりませんと」
さらにのめり込んできた王様とケルンの間に入って、父様はそういうなり『ゲート』を開いた。
「おお!さすが、フェスマルク主席殿!感謝いたしますぞ!生きて戻るつもりはなかったのですが…急ぎ、国に戻り国を平定せねばならぬゆえ、こえにて失礼つかまつります。どうぞケルン様。次にお会いするときまで、お健やかに」
ドワーフらしい大きな笑い声とともに、王様達は、ペガ雄とペガ美を連れてリンメギン国へ帰っていった。
かなり慌ただしかったが、なんとか平和に解決できたな。
ドワーフの王国か…職人が溢れてて、芸術も盛んな国。うん、かなり行きたいけど。
家族の、一人では行かせませんオーラをみると、何年先の話になるやら。
「ケルン。父様との約束だぞ?ドワーフの王国に、一人では、絶対!誰がなんといおうと、絶対に!行かないこと」
「あら、ケルン。もちろん、お嫁さんができて、二人でってのも、母様は反対ですからね?」
「旦那様と奥様の仰る通りです」
父様、母様、カルドの気迫が凄い。他のみんなも、あ、ランディは不安気だけど、似たような感じだ。
ごめんなさい、王様。いつか、家族旅行ができたら、お伺いします。
ペガ雄!ペガ美!頑張れよ!
俺たちもこっちで頑張るからな!
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
315
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる