選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第三章 運命の出会いとケモナー

王城

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「すごーい!」
 広いなぁ…なんだここ。

 庭から離れて、ようやく現在の場所がどのような場所かとわかった。

 とにかく、広い。庭もだが、建物が異常なほど広いのだ。うちの屋敷が…両手でぎりぎりか?すっぽり入るほどだ。

 なにせ、馬車で移動をしているのだ。庭だというのに。
 いや、皇太后様や王様がいるんだから、当たり前かもしれないんだが、あきらかに建物の中にも馬車で侵入していたぞ。
 しかもすぐに外に出たと思ったら中庭だとか…王族ってすげぇとしかいえない。

 リディ様とは、あの場で別れた。王城にむかうのは立場的に厳しいらしい。それで馬車の中にはエレス様とケルンしかいない。
 王様と二人っきりだ。護衛というか、馬車をひいているのは、あの青白い鎧の女の人の同僚らしき人だ。

 実はあの女の人はエレス様が王城にむかうといったとたん、気絶してしまったのだ。よほど体調が悪くなったのか、ひきずられていってしまったのだ。
 かわりにフィオナぐらいの護衛が熟練らしい女の人がやってきた。エレス様から自分が子供のときから護衛をしていると教えてもらったから、間違いない。

 しかし、王城はここじゃないのか?王城の一部かと思ったが、そうではないらしい。

 そのエレス様はというと、ケルンの驚いている声に驚いている。

「そうかなぁ?離宮はこれでも縮小したんだけどぉ…ほらぁ、王城はあそだよぉ」
「うわぁ…きれい…」
 なんだ…あれ…すげぇ。本当にすげぇしか出てこないなぁ…他に言葉があるか?

 エレス様が馬車の窓から指差した先には、天を突き刺すようにそびえ立つ何本ものガラスの塔がみえた。さらに、金色に輝く鐘楼もみえる。
 だが、それだけではない。光の屈折で王城が虹色に輝いてみえるのだ。

 コレクションそのまま…いや、あれ以上にきれいだ。
「お城のおもちゃよりもすごいねー!」

  ケルンも口を閉じてはいつのまにか、開けているを繰り返してしまっている。

  王城が一つの芸術になっている。
  そして、まったく同じ姿をみせることはできなくなる芸術だ。

  光の加減や、天候、空気の湿度に左右されて虹色のかかりかたも、その度に変わっている。

 王城はクウリィエンシア皇国ができてから二千年以上もそのままの建造物だ。
 クリスタルのような城の外壁は、現在では精製不可能の未知の素材らしい。初代国王や初代建国貴族たちが持ち寄って建てられたもので、どのような、攻撃も効かず、マジックミラーのように、中から外はみえるが、外から中はみえない。
 また、仮に傷をつけても自動修復機能がついてる。

 同じものを作ろうとするならば、どれほどの時間や資材がいるか検討もつかない。なにしろ、どこで素材を見つけてきたのか、どうやって精製して、建てたのか誰も知らないのだ。どの家にも伝わっていないということで、クゥリエンシア皇国の最大にして最も長い不思議だと本に書いてあった。
 ご先祖様たちのすごさがわかる代物だった。

 もちろんあのミニチュアもよく似ているが、実物にはやはり敵わない。
 エレス様も知っているようだが、王都で流行ったものなんだろうな。

「おもちゃ?…もしかしてぇ、王城を小さくしたあれのことかなぁ?」
「はい!僕の家にあります!」
「へぇぇ…どこで買ったの?」
「ポルティです!」

 あのときは三兄弟のお給料を心配したけど、今でも思う。買ってもらってよかったって。あれで王城のことを知っていたから、まだ意識を保てている。そうじゃなかったら、エレス様の存在を忘れてぼぉーとしているだろうからな。
 ケルンだけでなく、俺ですら思考が停止するようなものだ。あんなものを人間が作れるなんて、昔の人は天才だったんだな。

「売ってたのはドワーフかなぁ?」
「え?んーと…いつものおじさんでした。雑貨屋の」
「そう…ということは、土地代がわりに質として流れたか?…彼も誘拐されてしまったというわけか…何が目的なのだ?」
「エレス様?」

 ドワーフの作品であるとは聞いていたが、ヴェルムおじさんに会うまでドワーフに会ったことはなかったのだ。
それだというのに、ドワーフの話が一番に出るのはどうも気になった。

「ごめんねぇ、ケルン君。偏屈なドワーフの職人が売らないといった作品だったからさぁ、びっくりしたんだよぉ」

 エレス様はにこりと笑って話をそらした。

「その職人さんは今は何を作っているんですか?」
「さぁ?…最近見ないが、生きてはいるだろう…それよりぃ、もう王城に入るよぉ。ほら、目指しているのはあの鐘楼がある馬車だよぉ」

 エレス様はそれ以上。なにもいわないし、こちらからもなにもいえない。
 窓から外をみながら、エレス様は何か別なことに意識を持っていっている。

 沈黙の中でも馬車の音は響く。
 堀がめぐっている王様の入り口の前に行くと、橋がすぐにかかり、待つこともなく、王城の中へと入っていく。

 エレス様が触れたくない案件。十中八九例のドワーフの誘拐の件だろう。

 この件についてはリンメギン国内でもかなり苦労しているようだ。リンメギン国王様の手紙でも少しだったが情報をもらっている。

 傑物といわれた天才、幾人も弟子がいる師匠、パトロンもたくさんいた新進気鋭の職人。

 そういった人たちが、国内外を問わず、何も痕跡を残さずこつぜんと消えてしまった。
 誘拐と判断されたのは、失踪する理由がないからだ。彼らはみな社会的に成功している人物ばかりだ。
 それゆえ、彼らの才能を狙っての犯行だろう。だから、エフデも気を付けてほしいと、リンメギン国王様からもいわれた。

 何だか嫌な気持ちになりつつも、俺たちをのせた馬車は金色に輝く鐘楼にどんどん近づいていく。
 それに合わせてぽつぽつとローブ姿の人が増えだした。
 
 誰もが何かしらの荷物を持っていたり、包帯を巻いている。
 何かあったのだろうか。


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ブックマークが二百人をこえ、しかも減っていない!ありがとうございます!
なので、明日は二話更新をします。三章ももうすぐ終わります。
三章の裏話のあとには四章を始めたいと思います。
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