選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第三章の裏話

追話 リンメギン国は秘法を知る

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 リンメギン国の皇太子であるセリテは表に出せない部下からの報告書を読んで頭を痛めていた。

 己一人では解決ができない。ならば報告をせねばならないと気が重くなりながら執務室へとむかう。

 朝議を終えて執務室で書類を睨む前に、公務ではない話を国王であり、父親であるダーメルに報告する。

「…各貴族からの報告は以上です」
「まったく…優秀な者を狙うとは…他国に行く場合は必ず護衛をつけるように徹底せよ。できれば他国にいる者たちへも密に連絡をいたせ…なるべく早く大本を叩き潰したい…必要ならば各国の借金を消してもよいと伝えよ」

 部下からの報告書は他国に技術を教えに行ったり、職務として出向した者を襲う者の数が少しずつ増えているということだ。
 表だって抗議をしたところで、襲ってくる人間は裏ギルドの者や、その辺のごろつきが金で雇われており、いくら調査をしようとも、途中で糸が切れているかのように相手の正体がわからなくなる。

 狙われているのは師匠級マイスターの者たちばかりだった。
 生産技能職につくものは、冒険者のようなランクを持っているが人がつけるものではない。
 人知れず称号として精霊から与えられるのだ。

 技能職についた者はまず徒弟級から始める。その後習熟や、技術力がある者は師匠級になれる。
 国王ダーメルと皇太子セリテも鍛冶などいくつかの生産技能職の師匠級を得ている。

 行方不明となっている者たちは、変り者もいるが全員が鍛冶と彫金・彫銀の師匠級たちばかりだった。絵画といった技能職の者は襲われはしても行方不明にはなっていない。

 リンメギン国は技術力があるものを王とする国である。
 行方不明となった者の中には順位は低いが候補者たちもいる。

 それゆえに、セリテは頭が痛かった。彼は王位をできれば継ぎたくないのだ。母親に似たために、あまり力が強くはなく、ダーメルが作り出す作品よりも弱々しく感じると常日頃から思っており、いかに王位を譲るかばかり考えていたのだが、今のままでは候補者がどんどん減っていってしまう。

 リンメギン国は各国の通貨を発行しているだけではなく、各国にも融資をしている。このような問題が起こった場合、それを盾に各国に圧力をかける。
 むろん、小国にしか効果は出ないが、小国こそ監視が緩くなりがちになる。

「仰せのままに…陛下それと別件ですが」

 王権を振りかざしているようで、セリッテも若干嫌そうにするが、こればかりは仕方がないと頭を切り替えた。

 もう一つの頭が痛いことをダーメルへと投げ渡すことにしたのだった。

「各貴族の当主から見合いのための写し板が…その…また」
「またか」

 親子揃って深いため息をつく。
 ドワーフは種族がら頑固者が多い。断られたといっても、次の日になれば変わっているかもしれないと、また話を持ってくる。
 どちらかが折れるまでが交渉だと思っているのだろう。

「何度もいっておるが…フェスマルク殿が断っておるからよ…でなければ、わしが一番に孫を嫁にと名乗りでるわ!」
「それも断られてますからね」

 かくいう、ダーメルもことあるごとに孫娘を嫁にと進言しては断られている。

 フェスマルク家。この家はリンメギン国にとってはまさに頭を上げれない存在である。
 リンメギン国内では、聖王イムルの生まれかわりとされるエフデが、どこからか流れてきた噂により、フェスマルク家の者だと知られている。

 エフデがケルンだと知っている国王たちであったが、フェスマルク家からの一枚の書状で正体を知る者は全員口を閉ざした。

『エフデはケルンの兄である。そのようにしていただかねば、金輪際ケルンはリンメギンとの関係を絶つことになるでしょう』

 内容に異を唱える者もいたが、昨今の情勢を考え、エフデの身の安全を思えばケルンだと知られない方がよいだろうと、各貴族の当主も了承した。

 いがみ合っていた派閥までが協力しあっており、その思惑まではダーメルですらわからないが、見合いの橋渡しを国王に頼むような者たちだ。狙いは『造物』スキルであろうとは思う。

「わしはのぉ…スキルが欲しいのではないのだ。ケルン様だからこそ、孫娘を嫁にと思うのだ。わかるな?」
「はあ…」

 妄信的な父親の姿をセリテは何十回目かわからないが、相手をすることにした。返事など聞いていないのだ。ただ、ダーメルにとっての事実を息子に聞かせているという作業なだけだ。

「慈悲深く、聡く…あのような方にはぜひ、我が国と縁を結んでいただきたいのだがなぁ…」

 一度、エフデが引退をして二度と創作活動をしないと宣言をしたことがあった。
 そのときは、国が割れた。

 開戦派と鎖国派という一大事になったのだ。

 貴族や国民の中には、エフデが聖王イムルの生まれかわりだからこそ虐げられ、搾取されていると思ってクウリィエンシア皇国に宣戦布告をしろとせまる者たち。

 エフデを狙っているだけではなく、ドワーフも狙われている。エルフのように国を閉ざそう。その前にエフデを保護しようとする者たち。

 どちらにしろ、フェスマルク家と一戦交える可能性が高く、ダーメルは苦肉の策として、国書を各国に送った。
様々な国がクウリィエンシア皇国に圧力をかけつつ、国王も藁にすがる思いで断食を始めた。
 国民にもその波が伝わる前にエフデが引退を撤回したことで大事にはならなかった。

 それほど聖王イムルやその生まれかわりとされるエフデはリンメギン国にとって大事な存在であるのだ。

 長々と父親のそういった話を受け流していると、執務室の扉をノックする音が聞こえる。

「失礼いたします!陛下!フェスマルク家ティストール様から書状です!」
「うむ…む?」

 ほっとしてみれば、二人の文官がいた。一人は書状を盆の上に乗せてきており、書状であるとわかったが、もう一人の入ってきた文官の手元を見れば少々大きな箱を持っている。

「……写し板の返却か?」
「かもしれませんね……」

 ダーメルの変わりに書状を受けとり目を通す。思った通り、婚約者にどうかと送った写し板の返却だった。

「ティストール様からは婚約者は不要とのお言葉ですね」
「やはりか」

 丁重にお断りします。ときっぱりと断られている。セリテの頭の中では婚約者乗り気な父親には悪いが自分の娘の性分を思えば、上手くはいかないだろうとも考えていた。
 よくも悪くも皇太子でありながら、セリテはエルフの母親に似ているのだ。諦めるのも一つの考えだろうと思ってはいるが、それを口には出さない。

「それから…おや?ケルン様から陛下に書状があるそうで…ああ。これですね」

 写し板が入っている箱をあければ一番上に『国王様へ』と書いてある書状が乗っていた。
 ケルンからの書状をそのままにとはいかず、こうして荷物に紛れ込ませるようにしている。
 フェスマルク家の荷物は荷を改める必要はないと国王が伝えているため、誰も中をみないようにしている。

 危険物を使わなくても、フェスマルク家の者ならば直接やってくるだろうとの認識もあるからだ。

「おお!ケルン様からの!」
 
 セリテの手から奪い取るようにダーメルはいそいそと書状という名の手紙を読み始めた。

「ふむ…なるほど」
「どうされました?」

 ケルンからの手紙であるというのに、ダーメルの顔色が少々悪い。無理難題にぶつかっているような苦悩の顔であるとまいえる。

「ケルン様からの願いならどのようなものでも叶えて差し上げたいが…これは…ん?」
「どうされました?」
「写し板の下に小さな箱がないか?」

 なにか頼まれたのか?とセリッテは思いつつ写し板をとっていく。
 箱の中には写し板だけではなかった。箱の半分ほどの大きさの箱が入っていた。

「これですね…何か入っているようです…ミスリルですか?」
「みせてみよ」

 ずしりと持ったときの重さと手に返ってくる魔力の感触からミスリルであると予測をつける。
 箱自体には魔力を通さない魔術か魔法が付与されているようだが、こと鉱石に関して半分とはいえドワーフ、それも師匠級のセリテの目は誤魔化せない。

 とはいえ、ミスリルであるといいきれないほど、厳重な仕掛けを施している箱だ。

 ダーメルが蓋を開けた瞬間、やはりミスリルであったことはわかった。
 ただ、普通のミスリルではなかった。

「なっ!…なんという…なんということだ!」
「これは!いったい何事ですか?」

 ダーメルの周りに魔力が渦を巻いている。正確には箱からの魔力の塊がダーメルに巻き付いているのだ。

 ドワーフには特別な瞳を持つ者が多くいる。『鑑定』は全ての者が持っているほどだ。
 魔力でも簡単に見えるだろう。

 ただ、それはあくまで鉱石をみた場合である。加工品ではそこまで見ることはできないはずだった。

「これをみよ」

 箱を見える向きにしたことで、中身が見える。
 そこには確かに鉱石があった。

「魔石…?これはミスリル鉱の魔石ですか!そんなものが産出したと?これほどの魔力を持つなどどこの鉱山が?」

 蓋をして箱を持ち上げたダーメルは、フェスマルク家への謝罪のおりに死を覚悟したときと同じような決死の表情を浮かべた。

「皇太子。相槌をいたせ」

 返事を聞く前にダーメルは、城の中心にある鐘楼へとむかう。

 リンメギン国の王城は城の真ん中に鐘楼があり、円を描くように城が広がっている。
 鐘楼の下は鍛冶場になっており、国王や鍛冶長といった者以外は立ち入りを禁止されている。

 火の精霊が産まれた場所といわれ、聖地であると同時に地脈の穴の一つとされる。

 鍛冶場に入るなり、ダーメルは白服へと着替えだす。セリテも鍛冶場に置いてある白服へと着替えだすが、疑問で頭はいっぱいだった。

 二人の白服が用意してあるのは『神託』がくだればすぐに鍛冶を行うためだった。
 奉納鍛刀といわれる儀式は国王と皇太子が行う神事であり、早くてもあと数年は先の話であるはずだとセリテは思っていた。念のため、いつでも影打ちができるようにはしているが、ここでしないといけない鍛冶をするのかとも考え込んでしまう。

「これより先は例え地獄の責め苦にあおうとも、一切口に出してはならん。誓えるか?」
「…『ゲッシュ』を使うほどの秘密ですか?」

 ダーメルはセリテにいいながら、腰元の王剣で親指をきり、地面にたらして、たずねた。

 聖地での誓いは『ゲッシュ』といわれ、それは神であるボージィンが聞いている。
 違えるときは死ぬと決められているのだ。

「命を捨てよ。よいな?」
「…わかりました。誓います」

 さしだされた王剣でセリテも親指を斬る。
 王剣を血で汚しての誓いは、例え王家を血で汚すことになろうとも守らねばならないときにしかしない。
 そのことをセリテは知っていたからこそ、父親の行動に素直に従った。

「それで、なぜここまで厳重に?奉納鍛刀をするまでにはまだ時間があるではないですか?火入れには…父上?」

 箱を開けて魔石を見つめているダーメルは、ここではないどこか遠くを見つめていた。

「聖王イムルは武器を一つも残さなかったのは知っておるな?」

 イムルは絵画や彫像、楽器の作成などの芸術作品は世に残している。
 だが、彼が打った武具は一つとして残っていない。国内外問わず、ほぼ全て自らの手で破壊したとされている。

 あまりにも武具が強力であったからだ。そのため、彼は魔族から生涯命を狙われ続けたという。

「聖王イムルが打った武器は…魔法の武器だった」
「一兵士ですら魔族と戦えたというあれですか」

 新兵がイムルの鍛えた剣で子爵ではあるが、魔族を倒した逸話は現在でも残っている。
 
 子爵とはいえ、魔族の爵位持ちを武器の力だけで倒したのだ。
 それが精鋭の兵士が持てばどれほど強力なものであったかは、いうまでもない。

「そう。現在もあれば…おそらくいくつかの国は消えておろう……ゆえに、イムルは全てを秘匿した。武具も破棄し、作り方は誰も知らぬ…いや、知らなかった」

 イムル以下の国王や職人たちが挑戦し続けては挫折を繰り返してきたものだった。
 おおよそ、二千年以上前に失伝した技術。ダーメルも挑戦し、先人同様に挫折した。

 しかし、その技術は再びリンメギン国へと舞い戻ったのだった。

「無属性の魔石を砕き、炉にいれて…そこに必要な魔法を鍛冶の間、放ち続けるとは誰が思う?」
「ま、まさか…」

 ダーメルの言葉にセリテは察した。あの手紙には書いてあるのだろう。

 聖王イムルの魔法武具がどのように作られたかの内容が。

「他にもいくつかあるが…わしは、一つ打たねばならない。すまぬな。この国で一番に魔法が使え、口がかたいとなると…お主しかおらん」
「心得ております」

 知れば試したくなる。試せばもっと作りたくなる。
 それが職人というものだとセリテは理解している。純粋なドワーフであればあるほどその欲求は強いだろう。

 しかし、セリテは不安が一つあった。魔法がそこまで続くかはわからない。
 自分よりも魔法が得意で口がかたい者…心当たりはあったが、すでにその者はこのよにいない。

「母上が生きておられたら…」
「…せんなきことよ…それに、彼女を鍛治場にいれるつもりはない」

 まさか父も鍛治場に女がはいるのを嫌うのか。
 そう思ったセリテだったが、火入れを始めた父親の顔をみて考えを改めた。

「汗臭い場所に、我が花は寄せとうない」

 火に当てられてか赤い顔でそっぽを向く父親に、思わず苦笑したのだった。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・

追話はこれに終わりです。
登場人物紹介をあげましたら、四章をあげていこうと思います。
本日更新予定ではあります。

少々忙しいときもありますが、なるべく毎日書いていこうと思いますので、よろしくお願いします。
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