選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第四章 学園に行くケモナー

どんびき

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 偉そうな声はどうでもいいか。誰に対してかわからないが、ああいう言い方は嫌いだ。

 それにしても、あの杖は気になるな。持っている女の子は平然としているが浮いている。
 ナザドの方ではなく、サーシャル先生のところへ持って行くってことは聴講生なのだろうか?ケルンと変わらない年齢に見えるんだが、もしかしたら、歳上なのだろうか。

「おい!どこを見ている!」

 えっと…どこだったかな…街かな?
「見たことあるの?」
 だと思うんだけど…もっと近くで見たらわかるんだがな…かなり特殊な意味があるはずだぞ。

「おい!」

 しかし、そろそろ並んで…ナザドは見ているんだし、パスとかできねぇかな?

「無視をするな!」

 どのタイミングで出すか悩んでいると、あまりにもうるさかったので、ケルンの視界にそいつらが映った。
 見たことがあるが、記憶からは削除済みだ。

「えっと、誰?」

 すまないが、今は杖を出す勇気と、あの模様の答えを出すので悩んでる最中なのだ。
 だから、むすっとしている顔になっていても仕方がないだろう。でも、声をかけてきた子の方が怒っているようにみえるのだけど、誰かと勘違いとかしてないか?

 今すぐケルンの前からいなくなれば許すぞ?

「なっ!貴様!よくもぬけぬけと!退学にもならずに、授業を受けるとは!いくら、学園に渡したのだ!」

 めんどくさい。
 獣人嫌いの貴族の話を聞いたあとに、この前絡んできたクソガキどもが絡んでくるとはな。

 学園に渡すって…もしかして、金を渡したと思っているのか?
 子供がそんな発想持つなんて、親はどんな教育を…ああ、この子、たぶん、貴族だもんな…逆に納得した。
 しかし、退学?

「退学?…何かしたっけ?」
 おい、ケルン。停学しかけたろ?あれだよ。
「え?…んー…ああ!」

 視界に入ったミケ君が、ニヤニヤと笑っている。うん。メリアちゃんはにこにこしているし、アシュ君はひたいを押さえているし、マティ君は「なんやの?」ってアシュ君に聞いている。

 マティ君への答えはケルンが大声でいった。

「漏らした子!」

 ちょうど、剣の所にいたから、ズボンが残念なことになっていたんだよな。
 後ろにもあの時の子達が勢揃いしている。今日も化粧が、いや、今日はさらに化粧が濃い女の子もいる。

 マティ君が吹き出して笑っている。

「え、偉そうにいうてるのに、漏らしたってなんや!それ!」
「んと、びっくりしたからじゃないかな?」
 石像の剣とか杖がふってきたからな。
「貴様ぁぁぁぁ!」

 顔を真っ赤にしているけど、トイレにいってなかったそっちの責任だろう。ケルンだって、ちびりそうになったことが、多々あるが、ちゃんとトイレにいっているから、そんなことはないからな。
 それに、子供ならまだ可愛いもんだよ。

 一度、三兄弟と買い物に出掛けた時に、キャスに絡んできた男達なんて…いや、俺は見てただけだが、大人は、ああなってはいけないな。色んな意味で。ティルカとキャスとナザドの三人は手は出してない。
 威圧、話術、笑み。
 それで、大人が大泣きして…うん。記憶から消去しよう。

 とりあえず、罵詈雑言が飛び交いまくっているが、ケルンの耳に入らないようにしている。変な言葉を覚えたら困るからな。
 するとマティ君が声をあげて笑いだした。

「あははは!なんや!偉そうにいうてるけど、漏らしたんやろ?うちの弟はもう漏らしもせえへんで?」
「黙れ!その訛り…レダート家の者か!レーダト家の金貸しがぁ!」

 つっかかってくるリーダー格らしき子にマティ君は鼻で笑っている。

「金貸し?融資いう言葉も知らんのか?うちはな、おたくら貧乏貴族に貸すとき約束してるはずやで?獣人を馬鹿にしくさったら、融資は止めるって。なんやったら、おとんにいうとこか?」
「なっ!横暴な!」
「横暴?あほいわんといてや…ええか?リンメギンが金を握ってて、借りられへん貴族にうちが貸してるんは善意やない。それもわからん、ガキはすっこんどき!」

 なんというか、子供らしくない会話だ。これが貴族の子供の会話ってやつなのだろうか。

 ケルンには伝えていないが、獣人差別をしまくる発言だらけだったからな。マティ君がキレる内容も多く含んでいた。
 奴隷とかな。許せるものではない。とはいえ、あまりにも白熱してしまえば、授業妨害だ。
 ナザドがいる授業で、獣人差別とケルンを馬鹿にすれば…参加している生徒に一生もののトラウマだけは回避したい。

 収拾がつかなくなる前に止めようか。授業中だしな。
「そうだね。あの、この前はごめんねー…でもね?君達が僕の家族の悪口をいったからだよ?お兄ちゃんに謝って?」

 おっと。ケルンがまだ怒っているようだ。あんまり、根に持つ性格ではないんだが、まだ許していないようだ。

「それとも、まだ悪口いうの…かな?そういうのはもうやめてさ…早く杖を出して勉強したいんだけど?」

 ミケ君とメリアちゃんだけでなく、アシュ君や今日初めて話したマティ君まで、笑顔がヤバいとかいうけど、まだ大丈夫だ!キレてないからな!

 漏らしたのは、かわいそうだと思ったケルンに、フォローの案を流してるんだぞ!優しい母様を真似したんだからな。

「くっ…ど、どうせ!貴様が作る杖なんて…形すらまともではないだろう!」
「そ、そうですわ!杖もろくにできてないから、持てないんでしょ!」

 男の子と化粧が濃い女の子が、二人揃っていってきた。

 痛いとこついてきやがって!
「そうかなー?…やっぱり、もっと、ちゃんと作ればよかったかなー?」

 我ながら、テンションだけで作ったのは、まずかったかもな。楽しかったんだけどな。
 やっぱり、みんながどんなのを作るのか聞いてから作れば良かったな。

 漏らした男の子が自慢気に見せてきた杖もやはり他の人のと似ている。

「ふふ!見よ!この杖を!魔石は、最上級!霊木もまた、私が行使するに相応しい代物だ!」

 その手に、魔石だけは立派な指揮棒が握られていた。少し歪んでいるから削りが荒いのと、処理が甘いな。せめてやすりをかけるべきだ。
 あと、杖に色を塗るのはいいけど、まだらになっているぞ?

「我が家は神聖クレエル帝国一の杖工房にして、代々王族へと杖を献上してきた。そして、この私こそが!ガラハルの後継者!まさにこれぞ魔法を行使するに相応しい杖だ!」

 あれで?
「ガラハルの後継者って」
 ガラハルの分家筋だろうな。五百年ほど前にあちらに、ついていったんだろ。

 包丁を作ってくれているガラハル工房はクウリィエンシアにあるからな。クレエル帝国にはクウリィエンシアから貴族も王族と一緒についていったんだから、血筋が別れていても不思議ではない。

 長々と自慢話が始まっているが、スルーだ。

「そういえば、ケルンの杖をまだ見ていないな」
「あら?お兄様。見せてもらったのではなかったのですか?」
「いや。まだ見ていないな。アシュは見せてもらったのか?」

 男の子の杖にまったくこれっぽっちも興味がない、ミケ君、メリアちゃんの二人は、ケルンの杖に興味があるようだ。

「いえ。私もまだ、見ておりません」

 ハルハレでお茶をしているときもアシュ君にも、杖を見せていないからな。
 いつ動くかわからないからなぁ…外では出しにくいってのもあるが今一番の理由は別にある。

「あ、じゃあ、出すねー…ちょっと大きかったから、持ちたくなかったんだけどねー…」

 ここまで出すのを渋る理由は一つだけだ。
 見た目が浮きすぎている。

 ミケ君の杖を見させてもらった時に気づけばよかった。
 この授業に集まっている子の杖は、大人になっても使いやすい長さを考えていたのか、それとも子供だから、そのサイズにしたのか。
 持っているのが、ほとんど、指揮棒サイズなんだよ!

 魔法使いらしい長さの杖って、悪目立ちするんだけど!

「ケルン様。大丈夫ですわ」

 恥ずかしいというよりも、軽く反省する所を考えていると、メリアちゃんが、肩をそっとなでてきた。
 嫌な予感が。

「ケルン様の可愛さが引き立つというものですわ!」
「う、うん…ありが…とう?」

 あっれー?メリアちゃん?身長のことは、触れないでくれないかな?
 反省する所が、杖の長さだったから、余計につらいんだけど。

 はぁ…と、ため息をついた。ミケ君のため息をつく癖が移ったかも。

「僕の杖はこんな感じだよー」

 ずるずると、ポケットから杖を取り出す。まさかとは思うのだが、指揮棒サイズが流行りだとしたら、流行遅れだよな、この長さ…だから、出したくなかったんだよ。

 みんなが取り出すのは、指揮棒サイズで、銀髪の女の子だけだよ。ケルンと同じような長い杖を持っているけど。

 一応、絵とか物作りしているから、流行には遅れたくなかったんだけどな。画集とかも買ったりして、流行りには、気を使っていたつもりだったんだけど。

 出したら、みんな口をポカンと開けているし。
 正直なところ俺も同じ気持ちになる。

「あれー?今度はこうなってる?」

 杖はまたもやまっすぐになっている。葉っぱは、また棒神様を隠している。それはいいんだが。
 真っ直ぐな杖の先に鐘が埋め込まれるようにぶら下がっている。くり貫いていないのに、まるで杖をくり貫いて鐘楼のように鐘がそこにおさまっている。

「ケルン…何だ…その…杖は…」

 ミケ君が、震えているけど、寒い?
 実は俺も聞きたいんだよな。

 なんだよ、この杖。なんでそんなに何度も姿をかえてんの?

「僕が作った杖だよ?…お兄ちゃんもいってたけど、変?」
「いや、変ではなくな」
「ありえん!」

 自慢気にしてた杖を落として、男の子は、叫んだ。

「貴様、まさか、家から杖を持ってきたのか!」
「ううん。作ったんだけど?」

 ありえん!ありえん!と、繰り返しているけど、やっぱり、変だったか。流行りに遅れているから、家から持ってきたと思ったのかもしれないけど。
 ナザドは、作ったのを知っているから、口添えを頼んでもいいけど、ナザドとケルンの関係を知っていたら、面倒だな。

「な、なぁ。俺の気のせいやったらええんやけど。ほら、俺はご先祖さんみたいな『完全鑑定』があるわけやないんやけど…そこについてる鐘って」

 マティ君がものすごい顔になってる。目を開きすぎてとれないか心配になる。

「これ?『失せ物探しの鐘』っていって」
「なんちゅうもんぶらさげてるんや!」

 マティ君が驚きすぎてる。いやいや、便利な鐘なだけだからな。

「さすが、ティストール様だな。ケルンに渡すとは」
「この世に十一しかなく、現在では五つの所在しかわかっていない古の至宝ですが…ケルン様には必要でしょうね」
「お二方…確かに同意しますが」
「なんで、おたくら三人とも平然としているんや!?国宝級やで!」

 一瞬、驚いた表情をみせた三人だが、マティ君の言葉に余裕を持って返した。

「迷子になるから」

 その通りすぎてぐぅの音もでない。
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